その28 面倒な証人
「じゃあみんなをあそこから助けてくれたのも」
「うん」
「行方不明者を見つけたのも」
「うむ」
「罠を全て解除してくれたのも貴方だったの……?」
「そうだよこれで何回目だよ! もう10回くらいは繰り返してんじゃねーか!!」
あーやばいめっちゃ頭痛くなってきた。
これからどうするか……記憶を消すことができるスキルかなんかがあればいいんだがな。
こいつをここでほったらかしにするのはとても面倒なような——。
「あの……」
「ん? どうし——」
「私を弟子にしてください」
「……」
何言ってんだこいつ。
「私を弟子にしてください!!」
「……」
「わ、私を弟子にして——」
「三回も言わなくていい」
「じゃ、じゃあ——」
「駄目に決まってんだろーが!」
嫌な予感が的中してしまった。
やっぱり面倒なことになったな……。
「お願い、私も貴方みたいに強くしてほしい! そして助けを求めている人の力になりたいの! 毎月お金払うから!」
「その志は立派だと思うけどいらねえ」
「じゃ、じゃあ毎日!」
「いらねえ!」
「じゃあ毎時間——」
「そーいう問題じゃねえ! まず俺は弟子とかいらないの! わかる!?」
「じゃあ毎分は!?」
人の話を聞けよ!!
なんだこいつ!? 自分のやってほしいことをペラペラ言いやがって俺の話を一個も聞かねえ!
ああああ面倒くせぇぇぇええ‼
「いいか、まず前俺は目立ちたくないんだ。今こうやってクエストを受けているのは静かに暮らすためであって人を助けるためじゃねえ。そんな中人数が増えるのは良いとは思わない」
「……えっ、目立ちたくないの?」
えっ、なにその「?」の顔。
「目立ちたくねーよ。だからお前らに手柄を押し付けたんだ」
「……それって矛盾してない?」
「えっ」
「目立ちたくないならなんで私達を助けたの?」
「いや……それは……」
矛盾……?
……いや確かにそうだ。
俺は静かな生活を求めているが、毎回毎回派手なことばかりやってる。
今回だってそうだ。
喋るゴブリンを見つけ出して殴り飛ばし、その手下どもの心臓を握りつぶし、罠を全て解除した。
その理由はゴブリン達が悪さをしないようにするため、もしくは行方不明者を助けるためだが……どう考えたってカッパー級ができる仕事じゃない、そうなれば何かがあるはずだと必ず考えるのは誰だってそうだ。
だが……いや、もしかして俺は……。
「……まだゲームの世界だとか考えてんのかもな」
「?」
「いや、こっちの話さ」
どれだけロケランをぶっぱして罪を犯し何度病院に送られたら全て帳消し、どれだけ銃を撃たれても死なない奴がムービー銃で殺される、どれだけ人を殺しても次またそこに来ると跡形もなく消えてる。
だが、この世界ではそんなことはない。
これから俺はどうするべきだ?
この力を使って最低限の人助けをするべきなのか? それとも目立たないように人とのかかわりを一切切るべきなのか?
「……とりあえず弟子は無理だ。ほら行け」
「お願い! そこを何とか!」
「駄目なもんは駄、ちょおま俺に抱きつくな!」
「じゃあさっきの場所に戻ってギルドに一緒に行くわよ! サハタダさんも送られるんでしょ!?」
「俺は行かなくていいらしい」
「なんでよ!?」
いやテーブルの上乗ってこっちに近づいてくんなって!
はたから見たらただのヤバイやつらだぞこれぇ!!
「い、いや不正を見てた他パーティの証言で俺がいなかったとか何とか――」
「そんなー! 師匠も来てよ!」
「無茶言うなあと師匠呼びやめーや!」
あーもう無茶苦茶だよ……って今更だけど俺たち周囲からめっちゃ見られてんじゃん!
おいおいまだ弟子にもなってないのにどうなってんだ……駄目だ、早く何とかしないと。
何か……何か方法はないか!? こいつをてっとり早く遠ざける方法が――
△説得する
□脅す
○殺す
×約束する
なにこれ、急に別ゲー始まったんだけど。
えっなにこの選択肢!? 物騒なやつ混ざりすぎだろなんだよ「殺す」って!
……いやまあそんなことはどうでもいい。
とりあえず「殺す」とか「脅す」は論外として、説得は何回やっても無駄だしな……ここはこれを選ぶか。
「わかったわかった! お前の熱意はわかったからさっさと席座れ!」
「じゃあ私を弟子にしてくれる!?」
「いいぞ」
「やっ――」
「ただし、それには条件がある」
「何をすればいいの!? 私、できることならなんでもやるわ!」
あーもう面倒くせーしこいつができなさそうな目標適当に決めて諦めさせるか。
「ダマスカス級になれ。お前がダマスカス級になったら俺の弟子にしてやるから、まずはダマスカス級を目指――」
「わかったわ!」
「えっ!?」
なにそのにっこりの笑顔!! てか何、もしかしてやる気なのか!?
マズイな……どうにかしてやる気をそがないと!
「い、いやでっでもさあ。俺は危険だと思うからなあやめた方が――」
「それで死んだら私は所詮その程度の人間だったってことよ」
「ダマスカスとカッパーめっちゃ離れてるけどなぁ! 時間かかるんじゃないかなぁ!」
「それでもやらないといけないなら私はやる」
すげえ! 諦める気配が一向にないなぁ!
ガタッ
武闘家は椅子から立つとこちらをじーっと見つめてくる。
その目は清清しいほどに少しの戸惑いも迷いもない、強い意志を持った真っ直ぐなものだった。
「私、いつかきっとダマスカス級になって師匠に会う……から、その時にぜったいに弟子にしてよ! じゃあね!」
そう言いうと武闘家は全速力で店を出て行った。
恐らくできるだけ早くギルドに行ってダマスカス級に上がりたいんだろう。
「……はぁ」
なにやってんだ俺……。
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