その28.5 ギルド調査隊のスケッチ
目の前の物や出来事を様々な人たちへと伝えるために、羊皮紙を使って黙々と記していく。
それがギルド調査隊の一人である俺の役目であり仕事だからだ。
「先輩、休憩がてらコーヒーでもどうすか?」
突然声をかけられたので振り返ると、そこにはマグカップを二つ持った俺の後輩が立っていた。
確かに少し右手が痛くなってきたし、コーヒーを飲みながら休むのも悪くないな。
「ああ。頂くわ」
「しっかしとても大きなキズっすよね。あのカッパー級の冒険者たちはどんな戦闘をしていたんすかねえ」
俺がスケッチしていたのは壁にある大きなひっかき傷の……いや、そう見えるだけで恐らく違うだろう。
だが大きいと言っても1mほどではなく、縦10m横2m深さ2mはある。
こんなでかさのひっかき傷があってたまるかよ。
「元からあったんじゃねえの?」
「自然現象でこんなこと起きますかね?」
「そう言われたらそうだが……いやまず俺達はそんなこと考えなくてもいいんだよ。ただ目の前にあるものを書く、それだけだ」
「まあそうっすけど……そういや今回は行方不明者がみんな無事でよかったっすね」
「そうだなぁ」
今回のクエストで発見された行方不明者は数か月間の間に国内で行方をくらました人たちだ。
しかしこれだけ巣から離れた人間を集めてくるなんて珍しいな……俺が知っているゴブリンなら巣を中心に近くの村を襲うんだが、今回の被害者を見るにそれとは少し違うようだ。
例えば武器商人の娘であるマリル・ストークはここから10km離れた森だったし、スリフ村のトーシャ・リリノは8km、新人の冒険者であるガゾン・ゾーノという男は12km離れたキャンプ地からだった。
……いや、それ以前にゴブリンが男を連れ去るっておかしくないか?
ゴブリンは基本雄しかおらず、子孫を増やすには別の種族の雌を連れ去る必要がある。
なのでゴブリンに村が襲われた時には、男は死んでて女だけ連れ去られてるなんてことが当たり前なのだが……今回は男も一緒に見つかっている。
そう考え始めたら今回のゴブリンは不思議な点が多い。
今まで俺は仕事の一環として様々なゴブリンの巣を見てスケッチしてきたが、普通であればそこらへんに糞が落ちていたり動物の死骸が放置されていたりととても不潔だった。
だがこの今いる巣は傷だらけで荒らされ滅茶苦茶になっているとはいうものの、死骸や糞が落ちていないせいか臭いがしないしよく見ると絨毯のきれはしがあったり元は何かの像だったのだろうと予想できる破片があったりする。
ゴブリンの巣にこれらのものがあるということは、こいつらはこれの価値を理解して巣に持ち帰っていたといこと。
つまり一言で表すとすれば「生活のレベルが高くなっている」ということだ。
「……」
「……先輩? どうしたんすか?」
「いや……なんでもねえ」
まあ世界は広いし、そんな個体が出てきてもおかしくねぇか。
「さ、そろそろ仕事に戻るか」
「うっす!」
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