第三章 半獣人の少女はできれば人に触れたくない

その29 パルスのファルシのルシがパージでコクーン

「うーん……」


 ゆっくりと目を開き、視界に移ったのが天井だったことに安心感を感じて体を起こす。

 『目が覚めたらまた別世界でした』とかじゃなくてよかったぜ。


「スー……スー……」

「よーしよし、しっかり寝てるみたいだな。思春期の女はそうでなくちゃな」


 とりあえず大丈夫っぽいからこのままでいいか。

 昨日だけで色々あったし彼女には休息が必要だろう。それに飯までの時間もまだある、今この時間を使って俺の体を調べてみるか。

 非表示にしていたユーザーインターフェイスを出現させて……これ視界に映るたびに鬱陶しいんだよなぁ。

 ……ん? なんだこれ。鍵のアイコン……捨てられないってことはつまり『キーアイテム』ってやつか?



△system

 説明:黒い炎


 黒く燃え滾る炎

 所有者に神をも超える力と可能性を与える

 

 この炎が現れた者は

 いつかきっと、選択をしなければならない

 調停者タリスはそれを呪いだと言った



△system

 説明:黒い火球


 化け物狩りのはじまりにおいて

 調停者タリスが黒い炎から生み出した、全てを灰へと帰す最初の黒術


 決して消えることのない炎を、球体にすることでより遠くへ飛ばすことができる

 

 だがタリスは一度も、これを使うことはなかった

 それはかつての姿を、化け物達に重ねてしまったからだろうか



 ……この黒い炎って一体何なんだ?

 つーか説明が殆ど説明になってねぇ、いやもしこういうのがゲームあったらこの匂わす感じ好きだけど、今そんなもん楽しんでる状況じゃねーんだよ!

 

 

 選 択 っ て な ん だ よ 。

 

 呪 い っ て な ん だ よ 。

 

 化 け 物 狩 り っ て な ん だ よ 。

 

 タ リ ス っ て 誰 だ よ 。



 なんだよこのパルスのファルシのルシがパージでコクーンみたいなやつ。世界観出すためによくわかんねー単語並べるのやめろ!

 いや……もしかしてアーカイブとか用語集とかない……みたいだな。

 まじかぁ……これからこんな意味不明な物持ち運びながら生きてかないといけないのか。


 ……いや、一回考えを整理しよう。

 俺は今からこの世界で何を目標にして生きていけばいい?

 静かに暮らすことを目標にしていたが、それよりもこっちに来たってことはよくよく考えれば元の世界に戻る方法もあるんじゃないか?

 それならば元の世界に戻って元の体で生活したい、そっちの方が今のこの着替えれない体やステータスから考えて目立ちやすさは格段に下がる。

 つまりはこっちの世界か元の世界、どっちで静かに暮らすかということになるが……とりあえず今は戻れないことも考えて「目立たず帰る方法を探す」でいいか。


 しっかしこの数日間で色々あったなぁ。

 VRのゲームやったままだと思ってチート使ったらまさかの異世界転移してましただったし、そっからなんかなろうのテンプレみたいにすぐ奴隷が付いてきたし、大三山とかいう言葉話す豚がいたし、町に着いたら変な奴に絡まれたし、初クエストでイビルジョーの乱入みたいなのもあったし……改めて思い出すと無茶苦茶すぎるな。


コンコン


「あ、はいはい。どちらさんだ」

「私だよ。あんたを読んでいる人がいてね、来てほしいんだ」


 これはおかみさんの声か。

 わざわざ呼んできてくれるとは、サービス良すぎだろこの宿。


「わかった。準備できたらすぐに行く」


 レフランは起こさなくていいか、呼ばれてるのは俺だけだしな。


 ……いや、ちょっとまて。

 なんで俺呼ばれてんだ?

 まさか……バレたわけじゃねーよな?


「……いやいやいやいや」


 いっいやややや落ち着けサハタダ! 

 確かにランタンが俺のマスクを覚えていたのは想定外だったが、それでも印象に残っていただけであって詳しくは覚えていないのだろう。

 もしはっきりと覚えていて俺がその鳥だって言うのなら俺はすぐさまどこかに連行されたりとかするだろうし、そうなってもそれを否定する証拠としてステータスカードがある。

 あのステータスじゃ使徒級オークを倒すことは無理だってわかるだろうし、ステータスカードを偽造できるスキルがあるなんて知らないハズだ。


 それにゴブリンだって……いやゴブリンに関しては何も言えねぇ。

 ま、まあ武闘家がチクってなければ大丈夫だろう!

 ……たぶん。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「やあサハタダ、おはよう」


 朝早くということもあるのか、昨日あれだけにぎわっていた酒場と比べて二人しかいなかった。

 その二人は大きめの四角いテーブルで、俺のことをじっと見つめていた。

 そのうちの一人はランタンで、もう一人は全身を鎧で固めた騎士だ。

 騎士の装備はなんだか素朴な感じで、なおかつ特別な装飾もないダクソでいう「下級騎士の鎧」ってところだろうか。

 そして一番目を引かれたのは背中にかつがれていた大剣だ。

 あんまり詳しくないし自信もないが、見た目はバスターソードに似ている気がする。


「よおランタン。聞いたぜ、お前使徒級の敵を一人で倒したんだってな」

「君も知っていたのか……そうだね、苦戦したけどなんとか倒せたよ」


 ほーう、なるほどね。

 あそこに使徒級オークを倒した正体不明の誰かがいたってことになると、町は混乱に陥るだろうからな。

 そんなことが起きないようにするためにも、自分が倒したと言うのは正しい行動だろう。


「しかしそこまでの腕があるとは知らなかったぜ。プラチナくらいだと思ってたけど、もしかしてダマスカスだったりするのか?」

「他の人にプラチナ級くらいだって言われたのは君が初めてだよ、いつもシルバー級にしか見えないって言われてたからね。でも惜しい、私は今はダマスカス級だ。まぁこれからオリハルコン級になるかもしれないけど」


 まー肉体の細さとか装備の特色のなさとか考えたらそう思うかもしれないが、俺の世界じゃそういうシンプルな奴の方が強いっていうのがあるからな。


「おおまじかよおめでとう。こんな所で元ダマスカス級、現オリハルコン級に出会えるなんてとても貴重な体験だ」

「ふふっ、そう言ってくれてありがとう。けど今はまだ検討中だからなれるかどうかは」

「使徒級を一人で倒したんなら十分だろ。俺だったら即決するけどなぁ、謎だな」

「君の言う通りだね」


 そりゃ検討中だろうな、だって他の誰かが倒したのかのかもしれないって考えてるし。

 けど検討してるってことを知れただけでも良かった、このまま上手く逃げ切れればランタンにそれを擦り付けれるぞ……!


「さて、そろそろ本題に入ろう。サハタダ、君はパーティという言葉を知っているか?」

「おう。クエストを協力してクリアしようとするグループとかチームのことだろ?」

 

 俺がそう言うとランタンは一回頷いてから、隣に黙って座っていた騎士の肩をポンと叩いた。


「実は私の隣に座ているこの人、君とパーティーを組みたいそうなんだ」

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