その30 知り合いの知り合いは他人

 道が悪路なのか、それとも元々の乗り心地が悪いのか、ガタガタと上下に揺れる馬車に乗りながらなんとなーく外を見る。

 周囲は様々な雑草や生い茂った木に囲まれており、いかにも森の中というそれ以外に特色する必要のないただの森だった。

 

 馬車の先頭へと目を向ける、そこではレフランが馬を巧みに操って運転をしていた。

 どうやら過去に教わったことがあるらしく、私が運転できますと言い現在進行形で運転席に座っているのだ。

 最近色んなことがあって疲れているだろうし、最初は「本当に大丈夫かよ」と思っていたが見た感じ大丈夫そうだな。ランタンが貸してくれたこの馬も元気そうだしこれなら目的地まですぐに到着できるだろう。


 まずなんでクエストに同行しているかというとだが、それはこのパトリックとかいう騎士が俺を疑う奴と繋がっていたとして、それを断ることによって「何かを隠しているのか?」と疑われないようにするためだ。

 それにどっちにしろ土地を買うためにはクエストをクリアしないといけないしな。


 まークエストの内容もただの採取クエストだから後は寝るだけだぁ……と正直そうなると思っていた、が違った。

 この馬車には俺とレフラン以外にもう一人いるのだが、会話が全くなく……非常に気まずい。

 

 一応乗る前にちょっとだけ会話したんだけど、

「お尻の下にひく毛布いる?」

「いります」

 これしか話してねぇし、声的に女だろうけどどんなやつかも全く分からねぇ。

 それに全身を鎧で覆ってるせいで顔もわからねえから不審者感が……いやそれは俺もじゃん。


 つーかこいつさっきからずーっとこっち見てきすぎだろ。

 ……もしかして俺鼻毛出てる?



~パトリック(ラインハルト)視点~



 上下に揺れる馬車の中で、私はただ黙って座っていた。

 それにしても誰も話さないな。女の子は操縦しているから仕方がないとして、カラス男は目の前をじーっと眺めているだけだ。

 ……この暇な時間を使って、改めて今回の任務を復習しておくか。


 私は剣聖ラインハルト・ディレイ・アストラ、アダマンタイト級冒険者であり、このサヴィアナ王国の騎士である……が、今はそれがこの二人にバレぬよう全身を鎧で覆いつくし、カッパー級冒険者となりパトリックという偽名を名乗っている。

 サハタダという男とレフランという少女のパーティーに参加し、『ソプテマ草の納品』というクエストを行っているが、本当の私の任務の目的は『サハタダ・イネプトの追跡&監視』だ。

 

 ディーゴンの死体……もしあれをあの女ランタンが討伐したのではないとしたら、それ以外の強敵がその場所にいたことになる。

 それは国にとっても非常に危険であり、速急に対処しなければならない。

 なのでディーゴンを倒した、もしくはそれと何か関係の疑いがある者を簡単なクエストに誘い出してどのような人なのかを観察しているということだ。

 本来ならば私のようなアダマンタイト級冒険者が任せられる任務ではないが、今は他の任務がなく暇だったということもあるし、何よりディーゴンと少なからず関係があるかもしれないからだ。


 だが今現在のカラス男を見るに……正直、ディーゴンと関わっているとは思えないほどに普通の人間だ。

 特に何かを警戒しているわけでもないし、動作一つ一つのスキだらけな行動にキレのない動き。

 もしかしたらあいつらと同じかと思ったけど、けどこれを見るにそんなこともない。

 ……この任務……本当に意味があるのか?



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「着きました、ここがランタンさんに渡された地図に載ってあるソプテマ集落です」

「や……やっとついたぁ」

「6時間ぐらいだな」


 あっ……それだけしかたってなかったの?

 体感では9時間ずっと座っていた気分だ。


 馬車から降りるレフランの後ろについていく。

 そこは周囲が壁に囲まれているわけでもなくただの森が見え、比較的高い建物もあまりない。

 人も俺たちがいた町に比べたら少ないし、畑が多いしそんなに建物もないあたり俺が知っている言葉で例えるなら田舎町といったところか。



「レフラン、運転ありがとう」

「ああ、俺も助かったよ」

「い、いえ。私はできることをしたまでで……」

「そんなことないさ、人のために何かをできる人間って凄いことだと思うぞ」

「そ……そうでしょうか……」


 えっなにその褒め方予想外すぎたんだけど。

 こいつ変わった奴だな。


「で、そのソプテマ草ってどこにあるんだ?」

「うーん……そこまで詳しく地図には書いてませんね」


 えーじゃあこの集落、もしくは周囲の森の中を歩いて探さないといけないのか!?

 めんど……いやまてよ。


「あのーそこのおっさ……おじさんすみません。ソプテマ草ってどこで取れるか知りませんか?」

「この周囲のは全部取りつくしてるし、土地の所有者がいるからね……取るのは難しいんじゃないかな。どうしても欲しいならそこのお店で買うこともできるよ」


 まー特産物ならそう簡単にタダで取れせてはくれないよなぁ。


「うーん……このまま帰る?」

「帰るのか? いや、でも任務は絶対に達成しなければ……」

「べつにこんな任務やろうがやらまいが死ぬわけじゃないだろ。探すの面倒だし買うと高そうだし、今回はリタイア案件だ」


 ……と、言いながら俺は馬車に戻ろうとしたがこのクエストをリタイアする気は一切ない。

 理由はとある作戦を思いついたからだ。

 

 ①馬車に乗って町に帰る

 ②道中でチートを使ってソプテマ草を手元に出現させる

 ③道端に放り投げる

 ④「あれ? なんかおちてるくない?」といって馬車を止める。

 ⑤道端に落ちてるソプテマ草を拾う


 完璧だなよしこれでいこう!

 あれ? レフランはどこだ?


「おや、もしかして君達は冒険者か?」

「ええ。最近冒険者になったばかりでソルティアという街から来ました」

「ソプテマ草は今日必ず欲しいのかい?」

「3日以内なので余裕はありますが……早くに納品すればするほど報酬金額が上がるのでそうですね」


 それを聞いたおっさんは腕を組んで少し下を見つめたのち、数秒後には頭を上げて口を開いた。


「そうか……それなら」


 おっさんが指さす方向は森の中だった。

 道があるわけでもない、トンネルがあるわけでもない、それっぽい道しるべとかがあるわけでもない。


「あの奥には誰も行かない所があってね、そこなら誰も手を着けていないソプテマ草があるかもしれない」

「ほ、本当ですか……!? 教えてくださってありがとうございます! サハタダ様、これで今日までに間に合いますよ!」

「お、おう」


 納品期限があったなんて知らなかった。

 全然話聞いてねぇ。


「ただ、そこに行くのなら1つ絶対に守ってほしいお願いがあるんだ」

「お願い? まさかお金じゃ―――」

「そこに行った後、二度とこの集落の土地を踏まないでくれ」


 ……えっなにそれは。

 ぇぇぇぇぇえ!? 二度とこの集落の土地を踏むなって何!?


「り……理由を教えてくれませんかね?」

「何故聞きたい?」

「えっ……と……な、なんとなーく」

「……」


 なんだよその黙れみたいな目力は!?

 つーか急に本当にあった怖い話が始まったんだけど、ホラー特有の理由聞いたら黙り込むオッサンみたいになってるんだけど!

 これ流れ的に幽霊とか集落を呪っていた亡霊とかそういうのか……?

 そんないわくつきみたいな場所に行くのはなぁ……俺が死ぬとかは置いといてレフランとパトリックが心配だ。

 もう少し押し込んで理由を聞き出してみ―――


「わかった、では行こう」


 ……えっ

「ぱぱぱ……ぱとりっく?」

「どうした?」

「いや、どうしたとかじゃなくて! この人がこう言うってことは何かあるってことじゃ―――」

「ソプテマ草を取れば後は帰るだけだろう。それともサハタダはここの観光でもしたいのか?」

「いやそういうわけじゃ……」

「レフランさんもどうだ? クエストが終わった後に観光したいか?」

「私はサハタダ様についていきたいです」

「ということだ、何も問題はない」

「……そ、そうだな」


 ……俺が言えることじゃないけどさ。

 こいつ何考えてんだ?

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