その19 超初心者という建前の地雷

 1時間ほど歩いただろうか。

 昨日行ったライフ大草原とは正反対の方向へと進んで森の中にいた。

 んで、現在ここにいるのは俺、レフラン、騎士、武闘家、魔道士の5人だ。

 普段は人が通らないせいだろうか、足首らへんの高さがある草が隙間なく生えている。


 ……って今更だけど今このパーティー5人じゃん。

 勝手なイメージでパーティーは基本四人だと思ってたけど、もしかしてそこらへんはゲームと違うのかね? 


「そういや今更なんだけどさ、パーティーって5人で組んでいいの?」

「基本的には4人ぐらいが丁度いいみたいだな。報酬とか動きやすさとか考えるとね」

「ほーん……でもそれを知ってて俺たちをパティーに入れてよかったのか?」

「回復があればその分長い間動けるじゃない。それにゴブリンなんて強くないからドンドン稼げるわよ!」

「そ、そうか」


 ここでゴブリンを倒せば倒すほど次の級にも近づけるだろうからまあそれに対しての文句はないが……如何せんこいつらが心配だ。

 まず俺がカッパーを初めて見て、そして実力がどれだけあるのかを知らないっていうのもあるが、流石にモンスターを甘く見すぎているような気がする。

 

 ……つーかまずこのクエスト受けたのが間違いとかは――


「……おっ!」

「ん? どうした?」


 戦闘を歩いていた騎士がポツリと呟く。

 覗くように前を見てみると、数匹の何かががうろちょろしているのがわかる。

 

 ……うん、あれがゴブリンで多分間違いはないだろう。

 というか小柄で緑色の肌色、それでいて耳がとがっているのを見ると俺が想像していたゴブリンと全く一緒のデザインだな。

 とりあえずカッパー級もいることだし何匹いるか確認してから石でも投げて後ろを取って、そこから奇襲攻撃でもしかけ——


「よっしゃ! 俺が一番乗りだ! あっ、君たちはそこで見ていてくれ!」


ガバッ


「えっ」

「抜け駆けはゆるさないわよ!」

「えっ、ちょおま」

「ファイアーボール‼」

「……」


 このパーティー脳筋すぎるだろぉぉお‼

 なんで敵の数確認せずに突っ込んでんだよあぶねーだろ! 

 それに「よっしゃ!」とか言ったんだ! あのせいで奇襲できてねーじゃん!

 

「ギギッ!」

「おらっ!」


ザクッ


「はぁッ!」


メキッ


「グゲぇぇェえ!」

「ファイアーボール‼」


 剣士はロングソードを振りかざし、武闘家は拳で叩き潰し、魔道士は中距離からバンバン燃やしまくる。

 ……なんやかんやでゴブリンどんどん駆逐していってるなあのパーティー。

 戦略は無茶苦茶だとは思うが……こいつらの言う通り俺が気にしすぎなだけなのか?


「とても大胆な戦い方をする人達ですね」

「ああ……全くその通りだ」


 素人であるレフランからも大胆だと言われるほどの大胆さ。

 見ているこっちがハラハラするぜ……ってあのゴブリン、なんであの脳筋三人組とは正反対の方向へ走っていったんだ?

 ……少し気になるから見ておくか。


「クギギッ」


ガサッ


 ほう、突然草むららへんでしゃがんだな。

 もうちょっと近づいて見て……いや、その前にそれ系のスキル取っとくか。



△system

 スキル【忍び歩き】 Lv.MAXを習得しました



 おおお、すげー全然足音しない!

 戦闘をじーっと見ている感じ、俺が移動していることには全く気が付いてないみたいだな。

 

 ……ん? あのゴブリン両手に石持ってるな。

 火花が散ってるのを見ると火打石ってやつなのかね……ってあれ、何かぴょこっと出てる糸みたいなのに火をつけようとしようとして……まさか。


 シュウゥゥゥ


「ギッ! ギギッギギ——」

「ギギギじゃねーよ!」


トンッ


グシャッ——


「おうふ、ちょっと力入れて頭叩いただけでペッシャンコか……ってそんなことよりも火を消さねーと」


グシャッ


 俺の予想通りだった。

 このゴブリンが必死に火をつけようとしていたのは地面の穴から通すように出てきている導火線のようなもの、そして角度的に今戦っているメンバーの足元から出てきていた。

 やはりそうだ……これは何かの罠だ。

 一度この導火線を握りながらポーチに収納してみるか。



△system

 中型タル爆弾 ×5 を入手しました



「……はぁ~」

 

 やっぱ罠だったかぁぁぁ! 罠じゃない方がよかったなぁぁぁ!

 つーかゴブリンは予想より頭がいいな。

 どういう原理か理解した上でこれを罠として使っているみたいだし、それに俺以外は戦闘に夢中で見事に罠に引っかかっていた。

 俺がいたからよかったものの、これが4人パーティーとかなら冒険の書はここで終わっていただろ……やはりアイツらはモンスターを甘く見すぎだ。

 ゴブリンは人数が多い分、そういう戦略が可能ってことをしっかり頭の中に入れておかないとな。


「ギギッ——」

「ていやっ!」

 

バサッ


「ギッ! ギィィィ——」

「ギッギッギッ——」

「ギーッ!」

「なっ、どこに行く気だ! まだ俺達は戦えるぞ!」


 ゴブリンは突然何かを察したかのように慌てた素振りをみせると、突然走りだして森の奥へと走っていった。

 多分、爆弾が爆発しないことに気が付いて逃げ出したんだろうな。


「やっぱりゴブリンのクエストは簡単ね、これならあと1~2時間で終わるんじゃないの?」

「とっても良いペースだね、このままクリアできればお金もたくさん入るよ」

「ああ。この調子でクリアしていけば、いつかきっと竜を倒すアダマンタイト級になれる!」

「アンタは先を見すぎ、でも……そうね、いつか必ずね!」


 こいつら笑顔でこんな会話してるけど、さっきまでゴブリン一匹生きるか死ぬかどうかで人生が正反対に変わってたと思うとなんだか悲しくなるな。


「……サハタダさん、ボンヤリとしてどうしたんだ?」

「えっ、あ、ああ」

「もしかして俺達の強さに驚いた? まーなんてったて俺は剣術学校に通っててなおかつゴールドクラスなんだぜ!」

「私は家に代々伝わる武術を身に着けてるの、今までずっと修行を積んできたからそれなりにできるわよ。それにそこにいる魔道士ちゃんだって魔術学園を通ってたたからカッパー級では珍しい第二階位魔法を使えるの!」

「お……おー! さっすがだなあ君たちは! 頼りにしてるぜ!」

「おう、任せてくれ!」


 ……とりあえずこうやってごまかしておくか。

 

「あっ、これは!」


 騎士が地面の何かに気が付いたらしく、俺もそれを見ようと視線をずらしてみる。

 するとそこには赤い血がぽたぽたと垂れて線みたいになっていた。

 恐らく怪我をしたゴブリンが残していった足跡みたいなもんだろう。


「なあ、もしこれを追っていけばゴブリンどもの巣に行けるんじゃないか⁉」


 えっ、君達巣に乗り込むの??

 ……マジで??


「もしそうだとしたら……これで行方不明の人達を助けることができるわよ!」

「それなら早く行こう! ここで道草を食べる時間はないよ!」

「ああ……勿論だ! とっととゴブリン共を始末してみんなを助けるぞ⁉」


 ……血痕を追って歩いていくパーティーを前に俺は立ち止まったままだった。

 次何かがおきたら……それにどう対処するか考えるためにだ。

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