その20 悲鳴をあげる胃

「ここがあいつらの巣か……」


 血痕を辿った結果、人が一人ほど入れそうな洞窟に続いていた。

 ちっさい足跡があるのを見る限り……間違いなくここみたいだな。


 ……でだ、これから俺はどうすればいいんだ??

 

 正直言うとここでこのクエストは棄権したほうがいいと思う、というのもこいつらの脳ミソとゴブリン共の脳ミソを見る限り悔しいがあっちの方が頭がいい。

 なんてったってあんな罠を見たばかりだ、あそこであれだけしっかりしたものを作ってるなら巣の中はさしずめダンジョンみたいになっているかもしれない。

 それでだ、もしそのダンジョンじみた巣にこの三人組が突っ込んでいったとしたら間違いなく全滅する。

 

 そして一番の問題はというと、『そこでどうやって俺の実力がバレずにここを澄ますか』だ。

 

 一応計画を何個か考えてみたんだが……。


 

~計画1~

①こいつらが巣に入る前に一瞬のスキを狙って眠らす

②ぐっすり眠っている間にギルドに持って帰る

→4人を担ぎながら走るほどのバランス力を持ち合わせてねぇ! それにできるだけ早く行方不明者も助けたい。


~計画2~

①どうにかて洞窟から注意を引かせる

②入り口を壊して塞ぐ

③三人を諦めさせる

→こいつら絶対諦めないわ


~計画3~

①レフランと帰る

→バッドエンドじゃねーか!


~計画4~

①こいつらが巣に入る前に一瞬の(ry

②その間に巣を潰す

→ギルドにどうやって説明すんの?


~計画5~

①ここでパーティー全員殺る

→これ以上ネタがねぇ!!



 どうするサハラタダノリ……! どうあがいても絶望だぞ!

 どっち行ってもどっち進んでも俺のマイナスにしかならねぇ!


「………様!」


 くっそ……何か考えなければ……どうにかして阻止しなければ!


「ご……様!」


 やっぱり「目立たない」っていう縛りプレイじみたのがあるからなぁ……どうにかしてクリアできねーかなぁ……。


「ご主人様‼」

「はっ!」

「ご主人様、皆さんもう行きましたよ?」

「す、すまんすまんボンヤリと……えっ」

「えっ?」

「……マジ?」

「マジです」


 ……やっべえ。

 これもう無理じゃん。


「……跡ついていくか」

「わかりました」


 今は割り切ろう。 無理だ。

 とりあえずそういうことにしよう、うん!

 数時間後の俺に全部投げてよう! 頑張れよ、数時間後の俺!

 ……と、その前に。



△system

 短剣 ×1 を入手しました



「レフラン、これ俺からの贈り物」

「これは……短剣でしょうか?」

「うん、もしなんかあった時のためにこれで身を守れよ」

「はい!」

「……ん?」

「ご主人様からの贈り物……」


 洞窟の入り口に書かれてあるマーク……なんだこれ?

 しかも黒いしどことなく異臭が漂うし……。


「ご主人様もそれが気になりますか?」

「ああ。ゴブリンが書いた文字なんだろーが、なんか意味がある気がしてな……」


 ……探索系のスキルって何かないだろうか?

 なんかこう、捜査してるキャラクターが何かに気が付くためのスキルみたいな……ってこれは。

 


△system

 スキル【目星】 Lv.MAXを習得しました



 おおっ、クトゥルフTRPGの基本スキルじゃん!

 このゲーム……もとい世界は妙に他のゲームの要素を入れてくんな。

 じゃあ早速振ってみる、もとい使ってみるか。



△system

 スキル【目星】 発動



△system

 ログ:貴方はこの臭いと色から、それは生物の内臓や骨を磨り潰して作られたものだと知りました。SAN値チェックです。



 えっこのゲームSAN値チェックとかあんの!? いやこれもはや別ゲーになってんじゃねーか!!



△system

 99→1 クリティカル



 そしてまさかのここでクリティカル!!

 えっ、この場合何がもらえんの……?



△system

 ログ:貴方はこのマークの意味に気が付き、それはとても強い警告であることがわかりました。この洞窟に入った駆け出しの冒険者は、無事に帰ることはできないでしょう。



 そ れ や ば い や ん け 。

 

「……」


ダッ


「ご主人様!! いきなり走り出してどうしたんですか!?」

「い、いやーほら離れると危ないでしょ! ほらお前もこい!」

「は、はい!」


 マジかよあいつら入りやがったのか!?

 どういう神経してたらあの装備で敵の巣に突っ込めるんだよ!!

 あーもう知らん。


 ふーん……洞窟の中はそれなりに広いな。

 場所によっては人二人横に並ぶことができる広さがあるしで歩きやすさに問題はない。

 

「遅かったな、何かあったのか?」


 明かりが見えると同時に三人の姿が見える。

 そこまで遠くに行ってないみたいで少しホッとした。


「いや、少し考えごとを……って君らの並び方――」

「並び方? そんなのどーでもいいじゃん!」

「そんなことより早く行きましょう!」

「……そ、そうか」


 こいつらの並び方が無茶苦茶なのである。 

 先頭に騎士、二番目に格闘家、三番目に魔導士、四番目にレフラン、五番目に俺と一見しっかりしているようにも見えなくないが……なんで先頭の騎士が松明を持ってんだよ!

 一番最初に敵に会ったときどうすんだよ攻撃するのに時間かかるじゃん! それに魔道士辺りから後ろが全く見えねーんだよ! 俺とかなんも見えねーよ!

 それに騎士テメーなんでこの洞窟でロンソ装備してんだよ! どう考えても振り回せねーだろうがぁぁぁぁあ!!


 ……とずっと脳内で言ってるわけだが、俺はこいつらにこのことを言うつもりはない?

 それは簡単な話「こいつらに話しても意味がない」と思ったからだ。

 まだやったことないのに変な自信を持ち、自分たちが物語の主人公だと思っており、勇気を無謀とはき違えている。

 そんな奴らに何度言っても通用するわけがないし、もし俺がいない状態でまたゴブリンのクエストを受ければ全員死んでいるだろう。

 だが、こんな奴らを「生かしていく」方法を俺は知っている。

 それは「一度失敗する」だ。


 人間は言葉で言われたことにはピンとこないかもしれないが、失敗などの経験をすることによってしっかりと記憶することができる。

 ほら、よく「失敗が許される間は失敗しろ」って聞くしあれと同じだ。

 

 だから俺は黙ってこいつらの行動を見ることにしたが……いや、それでも酷すぎるわ。

 ちょっとよく考えればわかるようなことを「相手がゴブリンだから」っていう理由で何も考えてねぇ!


「……ん?」


 ……ここの地面、なにかをぶつけた跡というか……表面を削られたような跡があるな。

 これには何か理由が……。


「おわっ……ちょっえ?」


 右の壁に触れながらしゃがもうと手を伸ばすが、その手は何かに触れることなく暗闇を空回りする。

 壁が消えている……のか? ランタンで少し壁を照らしてみるか。


パチッ


「なんだこの穴」


 そこには俺たちが普通に通っていれば気が付かないであろう角度に直径1mほどの穴があった。

 これはどこに繋がっているんだ……? 人間が通れるサイズじゃないところを見ると、まさしくゴブリンしか通れなさそうな……。


「……挟み撃ちか」


 恐らくそうだろう。

 この先をパーティーが進んでいった後に、ここから出てきて挟み撃ちにするみたいなそんな戦略だ。

 しっかしそう考えるとこの世界のゴブリンって本当に頭がいいんだな……なんつーかあんま見たことないせいで珍しいというか。


「……」


 ……もしかしたらこの穴って本拠地に続いてるんじゃね?

 もしそうだとしたら俺がここ通って本拠地ぶっ壊した方が早くね?

 

 ……いや、だけどそれをやるのにデメリットもある。

 まず俺が潰したとしてそれがギルドに知られたら『一体誰が壊したんだ?』ってなるだろうし、このクソ地雷パーティーなら俺がいない間にゴブリンの攻撃を受けて全滅とかもあるだろうし……あーもういいわ、面倒になってきた!

 先に巣に行って潰そう。


「よし、決まりで」


 ちょっと目を離した程度で全滅なんてしないでしょ。

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