その15 鳥の噂
~アダマンタイト級冒険者視点~
「―――!? 今の騒音は!?」
それに地面も激しく揺れている……? もしこれが事前に聞いた使徒級のオークだというのならここまで力があるなんて想定外だ。
急いで行かなければ……こんな奴が町に来た暁には大虐殺が起きる、それはどうしても食い止めねばならない。
私がこちらに来るまでに15分ほど経過したハズだ。ならば進行方向を考えればにこの場所に……ん? この異臭はなんだ? 腐った肉のような臭いが……こっちから―――
「―――これは」
バラバラになったオークの死体……?
どういうことだ……これが使徒級のオークなのか……? まるで巨大な拳のようなもので叩き潰されたかのようにえぐれているぞ。
それにこの地形は……それならばさっきの凄まじい音は誰かとの戦闘の―――
「……ランタン? しっかりしろランタン!」
「……うぅ……あれ? 君は……? ……ってどうして私が生きて……」
「聞きたいのは私の方だ。 何故残骸の隣で横になっていたんだ?」
「……残骸?」
ランタンはすぐさまその場から勢いよく立つと、慌てて周囲を見渡し始める。
しかし、しばらくしたその時の目は、自分や周囲に何が起こったのか理解できず、ただただ呆然としているようだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ある建物の中、体に傷がついたいかついおっさんや鉄の鎧を身にまとった女、その外にも様々な人たちがどんちゃん騒ぎでお酒を飲んでは歌って踊っている。
陽気な曲とアルコールの臭いが蔓延する中、俺とレフランは周囲を物珍しく眺めていた。
木でできたお洒落なテーブル、日本では見かけない明かり、やはりここは異世界だと実感させてくれる。
「いらっしゃい!」
カウンターらしきところで立っている女性は、笑顔で俺達を出迎えてくれた。
見た目はエプロンを着て、茶色の髪を束ねた30代のお母さんってところだろうか。
「あんた見たことがない仮面を被ってるね……どこから来たんだい?」
おうふ、やっぱり宿の人らは客が珍しいもの身に着けてたら、どこから来たのか聞きたくなるよな。
ここは日本から来たっていうことで……
「遠い東の国から来た。とりあえず宿泊させてくれ、二人で頼む」
「料金は1000ロットだね」
通貨の名前を始めて聞いたような気がする。
えーと、一人一泊500……えっ、めっちゃ安くね? この世界って時給いくらくらいなんだ?
とりあえずトムサからお詫びと称したコインを押し付けられたし、これを渡してみるか。
「これで足りるか?」
「5000ロットありゃ十分だよ」
コイン一枚で5000ロットか、紙幣はないのかもな。
……そういえば認識票出せば安くなるってトムサが言ってたし、一緒に出してみるか。
「認識票かい。どれどれ……ってあんた今日から冒険者なのかい!? じゃあライフ草原にいたなりたての冒険者っていうのは―――」
「あー……俺達だな」
「本当かい!? 大変だっただろう、生きててよかったよ!」
そんな話まで広まってるのかよどうなってんだ。
……いや、まあこれぐらいでは目立ったとは言わないからな、問題ないか。
「本当にその通りだ。ランタンがいなかったら俺たちは今日ここに泊まりにくることもできなかったからな」
「あのランタンちゃんが……そうだったのかい。じゃあやっぱり噂話だったんだね」
「噂話……ですか?」
「知らないのかい?」
敵を倒して戻った直後にアダマンタイト級の冒険者が駆け付けたらしく、結局連絡によって警戒態勢は解除。ランタンに挨拶をしときたかったんだが少し大切な話をしなきゃならないからっていうことでトリサに宿を教えてもらってそのままこっちに来た感じだったからな。
魔法壁とか避難とかも見ていないしやってもいなかった。
「ランタンちゃんが使徒級のオークを倒したってことになってるけど、実はモンスター同士が勝手に争ってオークが負けて、それをランタンちゃんが見つけたって噂だよ」
……は?
おいおいそれって。
「それって本当ですか?」
「噂だから詳しくはわからないけど、憲兵軍の会話を誰かが少し盗み聞きしたらいのさ。『私は何もやっていないと思う。全部鳥がやったんだ』ってさ」
……それってさ、俺のことじゃね?
いや、間違いなくそうだよね? なんなら鳥って俺のことだよね? 絶対そうだよね?
クッソめがぁぁぁぁぁあ! マジかよあの時意識があったのか!? 体の関節曲がりまくりだったからそんなわけないと思ってたんだが!?
……いや、でもまだバレたわけじゃない落ち着け俺! まだ俺を指名していないあたりバレてはいないハズだ!
「へ、へー……鳥、ねぇ……」
「ねえ、もしかしてこれ鳥の仮面被ってアンタのことじゃないのかい? 」
「えっ……えっえェェェェ!? ソソンナソソナナワケガッガガ」
「あっはっはっは! 冗談だよ冗談! もしアンタが使徒級を倒したってならここにはいないだろうし、アンタがランタンちゃんに助けられたって言ってるんだからそれは嘘なんだろう。これでランタンちゃんもオリハルコン級の仲間入りだろうさ!」
「そ、そうだな」
めっちゃビビッたぁぁぁぁあ! まったくおかみさん冗談きつすぎるぜ(白目)
上手く行ってる……みたいだな。 一応危機は回避できたっていうことでいいか。
しかし今度からはしっかりと睡眠の魔法かけるよう心掛けないとな……やらかしたぜ。
「……と、いうわけで今日はあんた達はお金払わなくていいよ」
「え? マジ?」
「色々大変だっただろうしさ、これは今日生きてたことへの祝いみたいなもんだ」
「なるほどな、それなら遠慮なく泊まらしてもら―――」
グルルルル
えっなにこの音は。
後ろから聞こえてきたような……って、もしかしてレフランからか?
「……へっ、あっ……」
ええめっちゃ顔赤いな! やっぱりそうだったのか。
……いや俺の顔見るのやめてくれ何もできねえよ!
「その子どうやらお腹がすいているみたいだね。飯も私のおごりだ、好きなだけ食ってくれ!」
「本当か!? ありがとうおかみさん。じゃあ早速どっかテーブル取りにいくぞ」
「は、はい!」
飯が食えることを知った途端に元気になってるぞ、さっきまでの赤い顔はどこいった。
……まあいい。 今のところ順調だし、明日もこの調子でクエストをクリアしていけば大丈夫だろう。
レフランは静かにしようと振るまってはいるが、それを上書きするほどの楽しみがあるのだろうか、いつもよりも大きな足取りで前へ前へとガンガン進んでいき、近くにあった二人向き合える席の椅子に素早く座った。
「ご主人様、ここにしましょう!」
数日前では想像すらできなかった笑顔で俺を呼ぶ。
席に座っても落ち着かない様子で、少しだけだが上下に動いているな。
まだメニューも見てないのに元気だなぁ……
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……寝れねえ」
飯食って用意してくれた部屋入って現在ベットの上で横になっている。
隣では寝間着に着替えたレフランが気持ちよさそうに寝てるが、俺は全く寝れないでいた。
寝ようとしてから体感で大体1時間くらいだろうか……じゃあ俺はその間ずーっと天井見てたことになる。確かやどの裏に井戸があるって言ってたな、そこで水でも飲んでみるか。
誰か俺の手を握って……ってレフランか。
起こさないように手を放して行くかあ。
―――5分後―――
意外と美味しかった。
いやーいいもんだね井戸って、天然水って感じの……語彙力があんまないからあれだが、何も混ざっていないシンプルな味?がしたわ。
しかしあんなものを初めて発見して初めて作った人は天才だよな改めてそう思ったよ。俺も元の世界に帰って家作ったら庭に井戸掘ろうかなぁ。
さてと、他の部屋の人らもレフランも寝てるだろうし静かに入らねえと。
ギギィィィ
「っはぁ……はぁ……はぁ」
「えっ」
息苦しそうな……ってこれレフランから聞こえているのか?
「おいレフラン、大丈夫……ってなんだよこの熱!」
それに汗で体がびしょびしょだし……もしかして風を引いたのか?
まじかよ急に容態悪くなったな!
「……はぁ……うっ……あつ……い……」
「レフラン? 大丈夫か?」
「……あつ……いっ……お兄……ちゃん」
「お、お兄ちゃん?」
もしかして意識がもうろうとして、それで昔のことを思い出しているのか?
……とりあえず回復魔法をかけるか。
△system
△system
スキル【観察眼】 発動
△system
レフラン〈健康〉
よし……これで安心だ。
ステータスにもでかでかと健康って書いてあるからもう大丈夫だろう。
「はぁ……はぁ……あぁ……あっ……」
いや治ってなくね? 大丈夫じゃなくね?
どういうことだ? 回復魔法はしっかりかけた、ステータスを見ても特に問題はなさそうだ。
じゃあこれは新しいバグ……いや、もしかしたら……やってみるか。
「レフラン、大丈夫だ」
さっきまで俺を握っていたレフランの手を、今度は俺から強く握った。
そしてレフランの耳に顔を近づけ、静かにつぶやいた。
「俺が……いや、お兄ちゃんがそばにいる。だから……安心して寝てくれ」
「……おにい……ちゃん……」
かなりゆっくりとだが穏やかになっていく吐息と体温が下がっていくのを実感し、助かってよかったという思いと緊張からの解放が一気に襲ってきた俺は大きなため息をついた。
やはり心の問題だっだか……二日間で色々あったし、それが良くも悪くもレフランの刺激になって疲れたんだろう。
さてと……この汗だくでスケスケのままレフランを寝かせるのもあれだし着替えさせた方がいいな。
タンスの中に着ていない俺の寝間着があったはずだ、サイズがかなり大きいやつだが……まーないよりはマシか。
起こさないように慎重にそーっとだ。
「……おにいちゃん」
「ハイ、ナンデショウ」
「……ありがとう……」
「……」
やっべえてっきり起きたのかと思ったがそうじゃなかったみたいだ。
この光景を見てもこいつは気にしないだろうけど俺は気にするからなぁ……ってそういえば今更かもしれないけど、俺ってレフランのご主人ってやつなのにこいつのこと全く知らないんだな。
今度ゆっくりでも、もしよければでいいから聞かせてもらうか。
……うわっ、パンツべちゃべちゃすぎてやべーな。
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