その23 這いよるファンブル

 周囲を見渡すと、一つだけ異様な雰囲気を放っている大きくて頑丈そうな鉄の扉が目に付く。

 なんというか「絶対ここ通さねえからな!」みたいな感じだ。

 えーっと、ドアノブがここにあるわけだが……これ開くのか?


ギギギッ


「……ヒッ!!」

「ん?」


 ななんだ今の悲鳴?

 暗くてよく見えないし、とりまランタンつけてみるか。


パチッ


「……おうふ」

 

 広々とした通路の左右には縦長い細い穴がずっと続いている。 

 ……ってこれ、穴の中に誰か——


クルッ


「誰か……いるの……?」

 

 やっべぇ。

 ランタン消さなきゃ(確信


パチッ


「……」

「……」

「……」

「……」


 は、反応がないってことはバレてない?

 何なんだよ急に……つーか今声誰のだ……って暗くてもわかるレベルで目の前のちょっと下の穴からめっちゃこっち見てるゥゥゥ!!

 ってこれゴブリンじゃなくて女の子か? ……いやそんなことよりもこっちに頭向けてるじゃん! ああああああ俺の異世界生活終わったぁぁぁああ!!

 来世に期待しよう。


「……気のせい、ね……」


 ……えっ。

 気のせい……?

 い、いやいやいやめっちゃ前にいるんですけど。

 なんなら隠れてないんですけど。

 さすがにこの距離で全く見えないのは無理があるし、ずっとここにいたのなら暗闇にも慣れてるだろうし……。

 とりあえず暗いところでもよく見えるようになるスキルでも取るか。



△system

 スキル【暗視】 Lv.MAX を習得



 よーし、これで暗いところでもよく見えるように……ってえっ?

 

 目の前にいる女が顔に巻いているこれは……包帯か?

 つーかそんな位置じゃ目の前が見えないんじゃな……いや、俺が色々考えるよりこっちの方が楽だな。



△system

 スキル【目星】 発動



△system

 99→99 ファンブル!!


 

 えぇぇぇぇえ!? まさかのここでファンブル!?



△system

 ログ:貴方は周囲をよく見てみると、一本道を挟んで左右それぞれに壁に掘られた牢屋のようなものに気が付き、さらにはその中に人間の男と女がそれぞれ分けられていることを理解しました。



△system

 ログ:牢屋の中にいる人々の足首と顔に包帯が巻かれており、それは微かに血がにじんでいることを理解しました。それと同時に、壁には爪で血が出るまで削ったのでしょうか「たすけて」の文字が一面に削られていました。



△system

 SAN値チェックです。

 


△system

 99→32



 さっきと比べたらめっちゃ微妙な数字だな!

 いやーしかし酷いな……人を拉致して足と目を使えなくするとかゴブリン達どこぞのカルト宗教共とかわんねーじゃん。

 それにみんな下をずっと見て元気ないし……一体どんだけここに閉じ込められてたんだ?

 

 まあいい、ちゃっちゃと治してさっさと戻るか。

 俺の超ハイパー回復を使ってな!


「……これ一々一人一人にやんのめんどくせえな」

 


△system

 魔法大回復/グレートヒール Lv.MAXを習得しました



 よーっし、あったあった。

 とりあえずこれ発動したらダッシュで一旦戻ろう。

 あいつらなんかボコボコにされてる気がするんだよなぁ。



△system

 魔法大回復/グレートヒール 発動



 ティィィ~ン


 発動すると同時に、俺の足元から外へと魔法陣のようなものが広がっていく。

 まさしくダクソの大回復そのものだった。


 ……いやそんなことより早く外出ねーと!!


バキイッ


 やっべえ鉄のドア取れちゃったぁぁぁあああ!

 マズい! 牢屋に光が!


「……あれ?」

「少しだけ明るくなった……?」」

「……っておい! 目の前が見えるぞ!」

「鉄のドアが取れたおかげで少しだが光が見える!」

「足が動く……おおっ! 立ち上がれる!」

「おかあさん! おかあさん!」

「そんな……ずっと近くにいたなんて……!」


 あっぶねぇぇぇ、あともう少し出るのが遅かった見つかってただろうな。

 ……で、俺どっから来たっけ??

 えーっ……こっちだった気もするけどこっちかね?

 あーもうめんどくせ、適当に歩いてたら適当に着くだ——


ボコッ


「——えっ」


ドゴシャァァァ!!


 ちょ、上から誰か降ってきたんだけどなにこれラピュタ始まんの!?

 それに俺に丁度当たって……って。


「れ……レフラン?」

「……あれ、ご主人様!? どうしとこんなところに?」

「いやそれこっちのセリフ」


 そう、そこにはまさしく天井から俺へと真っ直ぐ落ちてきたレフランが立っていた。

 しかし予想外だぞこれは……俺が今ここにいる状況をなんて説明すればいい⁉

 それにここがゴブリン達の本拠地だってバレたら駄目だ!


「あー……俺は……さっきいた洞窟の途中で横穴発見してだな……、んで、まぁちょーっと行ってみようかと進んだら迷ったみたいな!!」


 頼む……!


「そうだったんですね……! ご無事でよかったです!!」


 信じたぁぁぁぁぁああ!!

 よっしゃぁぁぁぁあああ!!


「てっきりご主人様に捨てられてたのかと——」

「ん? なんだって?」

「あっ、いえ! 気にしないでください!」

「お、おう……で、お前はなんで空から降ってきたりしたんだ?」

「ゴブリンと戦っている最中に地面に穴が開いてしまって、そこに落ちたらいつのまにかご主人様の上だったんです。……って、ご主人様、今はそれどころじゃありません! 魔道士の人がゴブリンにやられてしまって……!!」

「あー……なるほど、あいつらはまだ戦ってんのね」


 ……ちょっとまて、これ何気にレフランの【運S】の効果が出てないか?

 敵と対峙している途中に落下して戦闘離脱、そしてそこから俺に会う+俺を下敷きにしてクッション替わりにする……んだよこれ強すぎね!?

 これある意味チートだろ!!


「……わかった、早速助けに行こう」


 と、その前にだ。



△system

 魔法蔓延る眠り/スペリングスリープ Lv.5 発動

 


「私もついていき、ま……す……」


 レフランは元気な返事をしている最中、突然話すスピードが落ちその場で後ろに倒れようとする。


「ちょ、そんないきなり!?」


 慌てて背中を抑えてレフランの顔を見てみると、スースーと可愛らしい寝顔を見せてグッスリ眠っていた。

 ……なんかAVで見たことあるような睡眠薬の効き方だなこれ。


 まあいい、とりあえずこれでレフランに俺とゴブリンの戦闘を見なくて済む。 


「……さて、さっさと行くか」

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