その24 地雷パーティーという名通り 後編
「ぐはっ……ゲホッゲホッ」
「あっ……ああ、あああ……うっ、ゲッぐえええっつうっぐえぇぇえええ!!」
自分が何をやったのか、何をしてしまったのか、それを自覚してしまった騎士は立つことは二度とない。
自ら武器を手放して、敵の前だというのに腹の消化物を地面に吐き出した。
「ううッ、はぁっ、ハアッ……ゲホッ」
「ギギッ! ギギッ!」
「グゲッ!」
「な、何を……」
地面へと倒れこみ、赤い血の色で染まった武闘家を見下すかのように、ゴブリン達は周囲を囲んで睨みつけ始める。
嫌な予感がする。
けど逃げることができない。
そしてしばらくして気が付いた。
ゴブリンの手には刃物が握られていいることに。
何をされるんだろう。
ゴブリンは女性をさらっていくらしいが、その理由を武闘家は知らなかった。
捕まえられてどうなるんだろう。
お尻から棒を刺されて丸焼きにされるのだろうか、服を脱がされて奴隷になるのだろうか、体の一部分を切り落とされて見せしめになるのだろうか、爪を一枚一枚ゆっくり剥がして拷問されるのだろうか、それとも——
「……グッ、グギギギ」
体を動かして必死に逃げようとする武闘家を見て、まるで無邪気な目で見下しているゴブリンは何を思っているのだろうか?
ドスッ ドスッ
「……あっ」
重たい何かが発する足音。
それが目の前から聞こえてくることに気が付いた武闘家と騎士は頭を上げる。
そこには、ゴブリンよりもはるかに大きいホブゴブリンがいた。
ゴブリン達はそれに気が付くと、頭を下げながら道を開けた。
「うわぁぁぁああああ!!」
突然の叫び声に武闘家は何か起きたがわからなかった。
ただそれが後ろから聞こえ、それと同時に武器が宙を舞っていたのは理解できた。
ガキンッ
投げつけられた武器をホブゴブリンは片手で跳ねのける。
そしてそれが癪に触ったのだろうか、武闘家をほったらかして騎士の元へと近づいていく。
ガサッ
「ああっ! あぁぁぁああ!!」
武闘家は振り向かなかった。
いや、振り向けなかった。
理解したくなかった。
音だけで十分すぎるほどにわかってしまうから。
「な……何するんだこの雑魚! さっさと離せよ!」
バタバタッ
「お……俺は剣術学校でゴールドクラスだったんだ……こんなところで死ぬはずじゃない、いや死ぬわけがない!! いつかきっと、俺は認められて……アダマンタイト級に——」
バキャッ
武闘家は目の前が見えるはずなのに真っ暗になった。
ドシャッ
「次は私が殺される」と知ってしまったからだ。
ジュワァァァァ
『子供じゃあるまいのに、お漏らしなんて恥ずかしいぞ』
「ここに父親がいれば、今のをそう言ってくれたのだろうか」なんていう今になってどうでもいいことを考える。
逃避しようとしているのだ。
ガシッ
けど、それでも崖の淵に立たされ下を覗いた瞬間、我に返ってしまう。
忘れようとしていた未来、死後の世界、家族、それを思い出してしまった。
「あぁ……」
「グルㇽㇽㇽㇽ」
大きなうなり声を鳴らすホブゴブリンと目が合う。
真っ黒な瞳に吸い込まれるそうになる。
生臭い臭いに頭を何度も内側から叩かれる。
「まだ、私は生きている」と思いだしてしまった。
「……た…ない」
「し……くない」
「しにたく……ない」
「しにたくない……しにたくない!」
「しにたくないしにたくないしにたくない!」
「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!」
「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない‼」
「死にたくな——」
「すまねえ遅れた」
バゴォォォッ!!
武闘家が最後に脳に浮かんだ言葉は「えっ」の2文字だった。
「うおっとあぶねー、落ちるところだったな……ってなんじゃこら!? ちょ、おま大丈夫か!?」
「……」
武闘家は目の前で突然はじけ飛んだホブゴブリンに驚いて気絶してしまった。
「あー気を失っているだけでまだ全員生きてるみたいだな。……ただ勉強代をかなりふんだくられた感じか」
「ギギッ!? ギギギギッ!?」
「ギーッ! ギ——」
「ぎーぎーうるせぇ」
バシュン!!
「……ギギ……ギ?」
仲間の頭が一瞬で消えるという現実にゴブリンは思考が追い付かなった。
だからこそさっき起こったことが何なのかを深く理解せずにまたサハタダに襲いかかる。
「はぁ……まあいいや、なんか適当に範囲攻撃の魔法覚えてと。半径50m……いや、50kmのゴブリンの心臓」
サハタダが右手を前へと伸ばすと、黒い炎のようなもがちらつく紫色の半透明な心臓が浮かび上がる。
それは様々な大小の心臓が同じ場所に重なっていた。
「「ギィィィッ!!」」
「じゃあの」
半透明の心臓を強く握る。
するとそれはまるで実物であるかのように形を変えて、そのまま液体のようなものを噴出した。
それと同時だった。
「グギャァァァァ!!」
周囲にいたゴブリンが同じ時間、同じタイミングで目や鼻から血を吹き出す。
何が起こっているのかわからない、だからゴブリン達は立ち止まって周囲を見ようとする。
だがいつの間にか声が出なくなり、いつのまにか体に力が入らなくなり、いつのまにか音が聞こえなくなり、いつのまにか全てが真っ暗になる。
その場で立っているゴブリンは一匹も存在しなかった。
「……これが本当の『ハートキャッチ』ってや……いや、待てよ……つまり『ハートキャッチプリキュア』は『
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