第2話 ガバガバセキリュティ

 立っていた気がするんだが……立ち眩みでもして座ったのか?

 まあVRは酔いやすいってよく聞くしな、多分それだろう。


「しかし土のしめりけ、風、植物の匂いまでするな」


 数年前に匂いも体験できる映画があったしな、その技術をVRに取り入れたんだろう。

 土の湿り気は……コントローラーが濡れてるんでしょ。


 しかしいつのまにゲームがスタートしたんだ?

 スタートボタンは押してないのに、勝手にゲームが始まったが。


「まあそんなことどうでもいいか。ゲームは無事に起動してるみたいだし、モデルもしっかり読み込めてるみたいだしな」


 腕や足を動かしてみる。

 特にテクスチャが粗ぶったりとか、手が壁にめり込むとかはないようだ。

 ラグも全く無く、しっかりぴーったりと体に追い付いている。

 高いものを買ったおかげだな。


「さーて、こういうのは最初に戦闘中だったり村の中って相場がきまってるんだ。で、NPCは?」


 周囲を360度クルっと見渡すが、特に誰かがいるわけでもない。

 小鳥はさえずり、風で落ち葉が宙を舞い、太陽の日差しが俺の体に当たるだけ。


「……ああ、わかったわかった」


 いまだどこにも目標地点みたいなのが出てこないあたり、多分数秒後にイベントがあるんだろう。

 誰かに声かけられるとか、どっかから弓矢飛んで来るとか、意味不明なシチュエーションだがきっとそうだ。


「それじゃあ何か起こるまで待つか」



―――数時間後―――



 どれだけ時間が過ぎただろうか。

 周囲はもうすでに真っ暗になっており、空には満天の星空が広がっていた。

 うん……それで……何も起きないんだが。


「いやマジでどーなってんだよ!」


 誰からも話かけられず、弓矢も飛んでくることはなく、本当に何にもなかったじゃねーか。

 目標とかも全くでねえし……これバグじゃね? 


「あーもうめんどくせ。VRデビューがこれとか締まらねえな」


ゲームが全く進まねえからチートでも作るか……


「……えぇ?」


 突然目の前に表示されたウィンドウ、そこにはこのゲームに関係するプログラムの文字が並んで表示される。

 つまりデバック画面だ。

 いやいやいや、なんで勝手に表示されてんの? 

 なんでこんな簡単に中が丸出しになってんの?

 制作チームは節穴すぎないか?


 いや、まあ簡単に改造させてくれるならそれはそれでいいし、勝手に表示されたのは音声を拾ってVRが表示してくれたのだろう。

さすが高級品のVR。

 セキリュティホールを探す時間が減ったと考えたら運営に感謝するべきだ。


 とりあえず手始めに適当にいじって経験値アイテムを最大まで獲得とかしてみるか。

 あと運営がどれだけ仕事してるかも確認したいし、運営に隠さずBANされてから、また新しいアカウントを……



△system

 大神の結晶 ×999 を取得しました



「マジかよ」


 いや、まさか一発で当たりを引くとは思わなかった。

 というかそれ以前に運営は何をやってるんだ? Dupe簡単すぎないか?

 チュートリアル終わってねえのに最高級の経験値獲得アイテムゲットしてそれをログに垂れ流しているユーザーがいるんだぞ?

 なのに全く反応がないなんて逆に怖いわ。


「……とりま使ってBANされるか」


 自動に表示されたアイテムポーチ欄から大神の結晶×999個を選んで使うコマンドを選択する。



△system

 大神の結晶 ×999 を使用しますか? →いいえ はい



 はいを選ぶと右手の中から白く強い光を放つ結晶が出現し、それを豪快に握りつぶした。

 するとログに大量の文章がなだれのように上から下へと表示され、文字も全く読めない。

 ……暇だし横にでもなるか。



―――5分後―――



 このゲームの空の景色はやけに綺麗だな、こういう場所にお金かけてるのは良ゲーだと相場が決まっている。

 ……ん? どうやらいつのまにかログが止まってるみたいだな。

 今何レベルくらいだ?



△system

 10つのステータスが 《SSS》 になりました



「えっ、SSSって何!?」


 あまりの驚きに声をあげてしまった。 SSSっカンストしてるんだよな?

 いや正直な話、経験値アイテム999個使っただけでカンストとかオンラインゲームにしてはヌルすぎる。

 というかこんな簡単にここまで上がったら後半インフレしないか?


 このゲームどうなってんだよ無茶苦茶じゃねーか!

 ……まあそんなこと言ってもしょうがねえ、とりまステがどうなってんんか見て―――

 

「ほら、さっさと金目のもん置いてきな!」


「……!?」


 どっかからか男の声が聞こえたような。

 

 ん? さっきまであそこに明かりなんてあったか……いや、まさかあれは!


「ひいい! 命だけはお助けを!」

「いいもん持ってんじゃねーか、俺にそれくれよ!」

「ど、どうぞどうぞ! 命を助けてくれるのならいくらでも、ええ!」

「おもちゃが手に入ったな。後で焼いた砂の上で踊らせてみようぜ!」


 檻の乗った馬車と、背がちっさい男一人と、それを取り囲む得体の男4人……!?


 これはイベントキタ━(゚∀゚)━(∀゚ )━(゚  )━(  )━(  )━(  ゚)━( ゚∀)━(゚∀゚)━!!

 なんだちゃんと発生してんじゃねーか!


「なあ! そこのきみ!」

「……あ? なんだお前―――」


 何かを言い切る前に顔面をそれなりの強さでポンと叩くと、「バキッ」っという音と共に男は空中を回転しながら10mほど吹っ飛び、そのまま木に叩きつけられた。

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