その10 ギルドの悩み

「見苦しい所を見せてごめん……」


 椅子に座って下を向きながらそう言う紺色の髪の女。

 見た目は盗賊のような服を着ており、そのせいか露出度が高いが通気性は良さそうでもある。だまあ何か気になる所はあるかって聞かれたら……貧乳なところだろうか。

 そして首からは木目模様のドッグタグのようなものをぶら下げていた。

 しかししょっぱなの町から凄いキャラ濃いのがきたな……


「まぁまぁ助かったし結果オーライってことよ。それよりいいのか? 料理なんかおごってもらって」

「それはこいつが迷惑かけたお返しだよ。変なもの見せられた君も気分が悪かっただろう? ……そういえば聞くの忘れてたけどお嬢ちゃん、お味の方はいかがだろう?」

「と……とっても美味しい……です」


 今俺達は地面で伸びている巨乳女の隣で、スープが置かれた机を前に椅子に座っていた。

 そして俺と灰色の髪の女が話している横でレフランはスープをすすっていたのだが、話しかけられたと同時に何故か手をいったん止めてしまった。

 なかなかシャイなのかもしれないな。


「君は食べなくてもいいのか?」

「あー……うん、俺はいいかなぁ」


 俺が食事をする方法は食べ物を触って口付近まで運ぶか、一旦アイテムポーチに収納して≪食べる≫を選択する方法があるが……問題は、その2つには口の中に入れる描写が全くないことだ。

 傍から見れば食べ物が仮面の口付近に近づく瞬間に消えるみたいなことになる。そういう変なのはこの世界の住人には見せない方がいいだろう。

 しかし昨日レフランと飯食った時は何も言われなかったな……いや、あれはレフランが食うのに集中してただけか。


「そういえばまだ自己紹介をしていなかったな。私の名前はランタン・ルーカス、ランタンって呼んでくれ、そしてそこで気絶している女は……トムサ・ドリットだ、アホって呼んでいい」


 女は先程飛び蹴りを食らって気絶……うん、死んではいないと思う。

 そしてそのまま床に伸びていた。


「俺の名前はサハタダ・イネェプトでこっちはレフランだ」


 ……しかしギルドというわりには静かだな。

 まー時間が朝っていうこともあって冒険者達はクエストに行ってるのかもしれないが、それでも建物が広いせいだろうか、その中で人が俺ら4人しかいないっていうのもあって滅茶苦茶静かに感じる。

 

 金髪の女があれだけ俺に話しかけてきたのも何か関係があるのかもしれない。有益な情報が得られるかもしんねーし一応聞いとくか


「俺は初めてギルドに来たんだが、思ってたより人が少ないな。何かあったのか?」

「ああ……まあね。今は深刻な人手不足なんだよ」

「人手不足?」

「いつもならこのギルドにいる奴らが今は別のギルドに行っててね。どうやら緊急事態で報酬がいいとかなんとかで……」

「なるほどな、回ってないのか」

「そういうことだね」

「回る? ご主人様、この建物は回ってませんよ?」

「そういう意味ちゃうレフラン」

「……なあ、君たちは旅人だろ? なら食費なんかでお金に困ってるとかあるとかはないかな?」


 あ、もうこのセリフだけでこいつか何言ってくるかわかったわ。


「いやそんなこと特に―――」

「もしよければここで働いてくれないか!?」


 ほらきたーやっぱこれだよ。

 まあ……もしゲームならここで「なら俺が手伝うよ!」とかなるんだろうが、俺はそんなことは言わないし絶対にしない。

 もしクエストとかでこの力が周囲にバレた場合のことを考えて、目立つような仕事は極力避けるべきだろう。


「誘ってくれて嬉しいんだが……すまないな。俺は医者なもんで、戦闘とかには向いていないんだ」

「えっ、でもこの前怪物を―――」

「シーッ!」


 あかんレフランちょっと黙ってろ。

 

「で、でもそんなに難しいクエストじゃないんだ。 薬草拾ったりとか、素材を取ってくるとか、そんな簡単な仕事だけでいい」


 ……簡単にあきらめてはくれないな。

 長引くのも面倒くせえし、何かそれっぽい言い訳を言うか。


「俺は色んな町で医者として活動して、お金が貯まった暁には土地を買って暮らしたいんだ。医者の方が給料は高い、そんな状況で怪我したりするデメリットの多い仕事をやるのはなぁ……」

「あれ? サハタダはこの国出身なのか?」

「いや、全然」

「じゃあ土地は所有できないと思うよ」


 ……ん?


「……マジ?」

「ああ、マジだ」

「……ごめんもう一回言ってくれない?」

「もしかして知らなかったのか?」

「ハイ」


 ……ちょっとまて、どういうことなんだ?


「この国は基本全ての土地が国の所有物なんだ。国民ならそこからお金を払うことによって所有権を自分に移すことができるけど、もし外国籍の人達が国民と同じように国から土地を買ってそこがスパイの拠点になったら大変だろ? だから外国籍の人の土地の購入は条件が難しいんだ」

「……へーそうなんだぁ」

「その変わったマスクを見る限り、アンタはここの人じゃないだろうしね」


 滅茶苦茶しっかりしてんねぇ!

 中世レベルの時代設定だからそんなのないだろと思っていたがそんなことはなかったみたいだ。つーかこれ現代の日本よりもしっかりしてるんじゃね?

 前にテレビで「外国人でも日本の土地が簡単に買えるが、そのせいで色々問題がある」っていうテレビ番組を見たが……ここではそうもいかないらしい。

 ……いや、そんなことはどうでもいい!

 一番の問題は「静かな場所で静かに暮らす」ということができないことだ! クッソこれからの予定全てが狂った……これからどうすればいいんだ!? 全く人がいない場所まで行って勝手に家でも建てようか……?


「だが、そんな君にも土地を購入できるようになる方法があるよ。それはギルドに入って貢献することだ」

「なっ……それもマジなのか!?」

「マジだ。条件はシルバーになる、もしくはギルドで10年間勤務するかだよ」


 ……しるばぁ? 

 老人か何か?


「まず冒険者ランクっていうギルドのランクみたいなもがあるんだ。カッパー、メタル、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダマスカス、オリハルコン、アダマンタイトがある。その8つだね」



 アダマンタイト級:都市一つ滅ぼす敵を倒したなどの伝説的な偉業を成し遂げた英雄が得られる称号。


 オリハルコン級:アダマンタイトまではいかなくとも英雄に限りなく近い冒険者たち。


 ダマスカス級:多大な知識や技術を有しそれを駆使する腕が立つ冒険者たち。


 プラチナ級:第三位階魔法が使える者がいる冒険者たち。白金級以上はその国の冒険者の約20%~30%


 ゴールド級:一国の精鋭兵並の力がある冒険者たち。

 

 シルバー級:オーガやゴブリンを相手に狩りを出来る冒険者たち。よく訓練された兵士と同等の実力。

 

 メタル級:常人から見れば強いという評価が得られる強さの冒険者。


 カッパー級:登録初期であり駆け出しの冒険者。ここから一気にダマスカス級に上がった冒険者もいるため未知数。



 ……つまり簡単に要約すると「上に行けば行くほど強くなる」。

 

 だがこれには欠点がある。

 例えば斬撃や打撃しか行えないダマスカス級の冒険者がいたとして、敵が何度切られても再生する斬撃も打撃も無効できるスライムみたいなのだとしたら敵を倒すことはできない。

 だがこの敵が魔法耐性が極端に低かった場合、ダマスカス級より下の白金級の魔法使いなら難なく倒せることだってある。

 

 つまり、敵との相性や知識、その他もろもろの数値化できない実力があるので上京によっては必ずしも上のランクが下よりも強いというわけではない。

 このランクはあくまで『難易度が高く難しいクエストをどれだけクリアしたか』だけで計っている。



「ランクの上げ方はとっても簡単、ただクエストをクリアしていけばいいだけさ。それぞれに点数が付いてて完了していくとそれが加算されてく感じだね」

「……じゃあ土地を買うにはギルドに入るしかないのか?」

「有名な技術者になれば国民になれる方法はあるけどかなり厳しいよ」


 ……土地はどうにかしてでもいいからほしい。だがギルドに入らなければかなりのデメリットだ。

 しかし、それ以外に方法がないっていうのなら……やるしかねえか。

 どうにかしてバレずに異世界生活を送ってやる……! そうと決まれば今のうちに準備か何かをしておこう。

 それ関係のスキルがあれば……



△system

 スキル【偽造技術】 Lv.MAXを習得しました

 


「……わかった。俺をギルドに入れてくれ、あとこいつも」

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