第二章 異世界でもさすがにnoobとは組みたくない
その17 ファンタジーには絶対にあるギルドという組織
暑くて、真っ暗で狭い部屋だった。
そこから離れようと廊下に出た時、既に周りは火に包まれている。
ちらつく熱さに身を焼かれながらも、手を引かれる私は、怯える暇なく下へと階段を降りた。
その時、私は前を見ることができない。
一緒に遊んでくれた、勉強を教えてくれた、私をほめてくれた人たちが逃げようとしないのを見るのが怖くて、見慣れていた光景が知らない場所に変わっているのを知るのが怖くて。
『ここだ』
足が止まったと同時に声が聞こえてきて、頭を上げようとしたけど、もう一人の私が恐怖でそれを止めて、頭を横にふらせた。
だけど、それはいけないということも私は分かっていた。
それは数十分に感じたけど、実際は数秒しかたっていなかっただろう。
しばらくしてから頭を上げると、そこには床に一人が入れるほどの穴が開いていた。
『ここから逃げて』
その穴がいつ作られて、どこに繋がってて、どうなっているのかはわからない。
光も見えない真っ暗な穴、とてもではないけど入れなかった。
後ろに一歩下がった。
これからどうするればいいのか、これから何をすればいいのか、様々な疑問が頭の中で交差する。
そして時間がたてばたつほど、追いつかなかった感情がゆっくりと胸からあふれ出した。
私の心は、あなたみたいに強くはないのだ。
『大丈夫』
あなたはそう言うと、私の体を持ち上げて、穴の中に放り込んだ。
今までいた場所とは違い、妙な寒さに体を震わせながらも、頭を上へと向けた。
その時、穴の中を覗くあなたと目が合う。
『次はきっといいことだらけさ』
木が軋むような、何かが転がるような、そんな音が穴の中に響いた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ドア開けたと同時に様々な会話が耳に入ってくる。
そしてそこには昨日はすっからかんだったはずなのに大勢の冒険者らしき人達がいた。
「お前あのクエスト行ったか? 結構楽だったぞ」
「なんて名前のクエストだ?」
「ちゃんと回復薬買っとけよ。 あっ、俺は10本で」
「あんた飯食ってばっかじゃん! ほらさっさと行くぞ!」
「働きたくねぇぇぇ!」
「最近角の売り上げが上がってるよな。ここ最近何かあったっけ」
「それ良い装備っすね! 羨ましいなぁ」
「この素材とそれを交換しないか? なあ頼むぜ~」
様々な場所からクエストに関係した会話が聞こえてくる感じ……これがギルドってやつなのか。
「すげー……」
「沢山の人がいますね」
「ああ、昨日とは大違いだな」
っと、本来の目的をすっかり忘れていたな。
俺達は今日ここにクエストを受けに来た。さっさとカッパーから上に上がってシルバーの仲間入りを果たすためだ。
だが……。
「レフラン、お前本当に体調は大丈夫なのか?」
「はい、どこも怪我してませんし元気です」
「そうか……」
この数日間で分かったこと、それはレフランは嘘をつくのが苦手ということだ。
だが普通に返事したということは……昨日うなされていたことを覚えてないみたいだな。
……まあ本人が大丈夫って言ってるなら大丈夫か。
「サハタダさーん!」
「その声はトムサか」
声が聞こえた方向を見てみると、クエストを受けるためのカウンターのような場所でトムサが大きく手を振っていた。
「おっはようございます! ~いや、それにしてもよく今日ギルドに来れましたね」
「えっ、なんで?」
「なんでって、使徒級オークに会ったからですよ。私はそれが理由で来なくなっちゃうんじゃないかって心配してたのですが……まー大丈夫そうでよかったです!」
「あっ……ああ……」
まあ超のつく初心者があのオークの巨体を見て横の地面吹っ飛ばされたらトラウマになるだろうな。
「それにしても昨日と比べると冒険者が滅茶苦茶多いな」
「他のギルドで行われていた緊急クエスト目当てでみなさん出て行ってましたからね~。昨日が例外だっただけで普段はこんな感じですよ」
はーなるほど、じゃあ俺達が来た時がタイミングが悪かったのか。
「……そういやランタンはどこ行った? 今日まだ一回も見てないんだが」
「彼女は……まあ用事があって今日はここにいません」
「用事ねぇ」
「……それでは、本日はどのようなご用件で?」
おおう、さっきとは打って変わって「しっかりした清楚なお姉さん」みたいな口調と雰囲気になったぞ。
なるほど仕事とプライベートはしっかり分ける、なおかつ仕事ができるタイプか……初めてあった時には「なんでこいつクビにされないんだよ」って思ったけどそういうことみたいだ。
「クエストを受けに来たんだ、カッパー級から上がるためにな」
「あちらのクエストボードをご確認ください。そこにクエストの詳細が書かれた紙が貼ってあるのでこちらに持ってきてくださると受注できます」
「お、おう……」
なんか印象と大分違うからやりにく……。
「……ってカンジですねぇ!」
「ええっ今真面目モード終わるの!? 一瞬だったじゃねーかもっと持たねーのか⁉」
「いやーあれやってると『股間』のあたりがムズムズするんですよね~……」
「……」
「『股間』のあたりが————」
「にやけながらこっち見るんじゃねーよ! 二回言っても誰も突っ込まねーよ!」
「股間がムズムズ……それはきっと何かの病気では」
「いやレフランそんな真面目に返事しなくていいぞ。こいつただの変態だから」
……もういい時間の無駄だしこいつと話していると疲れる。
さっさとクエストに何があるか見に行くか。
クエストボードには様々なイラストが書かれた紙がピンで止められていた。
薬草のイラストもあるところを見ると、昨日のクエストもここから取ってきたんだな。
さて……何か良いクエストないかねぇ。
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難易度:鯱級
内容:ゴブリン×20体の討伐
依頼人:農民
報酬:4000ロット
備考:散歩している途中にゴブリンがいるのを見つけて、その後を追っていったらゴブリンの集団を見つけたんだ。俺の村の住人は農具しか扱えなくてね……どうにかして追っ払ってほしいんだ。
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ほう、ゴブリンの討伐クエストか。
鯱級ってことは簡単なんだろうけど……これクリアしたらどんだけ次のランクに近づけるんだろうか?
「トムサ、俺が次のランクに上がるには後何回鯱級をクリアしないといけないんだ?」
「そうですねぇ……あと80回くらいじゃないですかね?」
「80回!? そんなにかかんの!?」
「一番難易度が低いクエストですし、なおかつちゃんと準備して基礎を知っていれば誰でもクリアできますからね~」
「そ、そうか……」
……このクエストは受けない方がよさそうだ。
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難易度:鯱級
内容:ゴブリン×37体の討伐
依頼人:若い村人
報酬:7400ロット
備考:森で狩りをしている時に数十匹固まってさまよっているゴブリンを見てしまったんだ。さらに別の場所に行ってみるとさっきと違うゴブリン達が同じようにさまよっていて、それを数えたら全部で40匹もいたんだ! 誰か討伐してくれ! 頼む!
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これも鯱級か……。
「レフラン、手分けして探そう。君は向こうに行ってくれ」
「わかりました」
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難易度:牙獣級
内容:ゴブリン×60体以上、80体未満の討伐
依頼人:村長
報酬:18000ロット
備考:最近どの村でもゴブリンが女を狙って攻めてくるみたいでな、そこで俺達は3っつのそれぞれの村と協力してお金を出し合って依頼した。何人か送って数えてもらったんだがゴブリンの数は80体だと予想していたが……ここ最近原理はわからないがまた増えてきているみたいなんだ。頼む、俺達の村を救ってくれ!
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牙獣級クエストがあったはいいがまたゴブリンか。
80体倒すのは面倒くせーしなぁ。
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難易度:鯱級
内容:ゴブリン×20体未満の討伐
報酬:3800ロット
依頼人:農民
備考:畑を荒らされて仕事が全くできないんだ! 頼むから助けてくれ!
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難易度:鯱級
内容:ゴブリン×22体の討伐
報酬:4000ロット
依頼人:主婦
備考:川の上流を荒らさせるせいで、クソやら生き物の死骸が流されてくるんだ。誰かがアイツらを討伐してくれねぇと洗濯もできやしない。
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……ゴブリン多くね?
いや、てかゴブリンしかなくね?
「……レフラン、そっちはどうだ?」
「ゴブリン討伐しかありませんね」
「えぇ……なんでだよ一体どういう……って」
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難易度:牙獣級
内容:オーク×4体の討伐
報酬:20000ロット
依頼人:村人
備考:ここ最近悪さしてるオークがいてな、村に攻めてきて家壊すわ物を取られるわで大変なんだ。あいつらを追っ払ってくれ。
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牙獣級クエストきたぁぁぁぁあ!
こいつを受ければさっさとカッパー級から上へ——
「牙獣クエストじゃんラッキーッ!」
バッ
……あっ。
「今日ゴブリンのクエストしかなかったからね~」
「ほんとほんと、あいつら人数多いくせに一体一体の賞金少ねーしアイテム代かかるしで美味しくねーからな」
「……」
どうなってんだこのクソギルドォォォォお!
どう考えてもクエスト偏りすぎだろ! ゴブリンしかねーじゃねーか!
クソッ! こうなったら一度とトムサに文句言ってやる!
「おいトムサこれどうなってんだ! クエストがゴブリンしかねーんだけど!」
「あー……それは昨日ディーゴンさんが倒されたからですね~」
「……」
……ディーゴンって誰??
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