その26 酒場のソックリサン

「ほ、ほんとになんでもいいんですか!?」

「おう、なんでもいいぞ」

「で、では……この『ウサギノマルヤキ』を下さい!」


 この店で一番高いやつじゃん!!

 うーん、それ頼まれちゃうと……俺も頼んだら所持金結構減っちゃうな。

 今回のゴブリン討伐のお金はすべてあの冒険者共にあげることにしたからなぁ……というかそうするしかなかった。

 まず報酬金が支払われるまでの手順を見てもらおう。 


 ①クエスト完了報告をギルドにする。

 

 ②納品クエストならそれを受け取ってクエスト完了だが、今回のクエストは行方不明者の保護もあってギルドが部隊を派遣してそれが本当かどうか確認する。

 

 ③そこで承認されてからやっとクエスト完了。報酬金が払われる。


 ②から③の間はそれなりの時間がかかるらしく、そこまであの巣の周辺にいたくなかった……いや、まずこのクエストからさっさと離れたいと思っていた。

 理由は「暴れまくってたから」だ。

 

 もう少しよくよく考えて行動すりゃあよかった!!

 巣のメインフロアみたいなところは風圧でボッコボコだし、危ないと思って洞窟の罠全部解除したし、ゴブリンの心臓だけを握りつぶしちゃったせいで外傷が無いのに死んでるし!

 ぜってーなんかあったと思うじゃん! どう考えてもカッパー級がやる仕事じゃねぇ!


 だからギルドの連中に何があったか説明する時に、できるだけ「他の冒険者さんが強くて助かったんです。俺道に迷って全然知りませんでした」っていうのをアピールしたけどさすがに無理がある。

 あれだといつかは絶対にバレるな……まったく、何をやっているんだ俺は。


「……」


 ……まー金に関しては試してないけどチートで増やせるとは思うけどさ、それは最低限なおかつ人の命がかかってる時しか使いたくないと思ってる。

 折角異世界にいるんだ、このお金に困ってる感じはゲームの序盤とか思い出して楽しいし、しばらくはこれで行くべきだ。


 ちなみにレフランは眠らせた後、ギルドに報告をしてから起こした。

 最初は他の冒険者がうんたらかんたら言っていたが、何度か説明してから俺の嘘をしっかりと飲み込んでくれた。

 ああ、勿論報酬金が貰えなくなることを「色々理由があって」とレフランにごまかして謝った。

 そしたらなんて言ったと思う?


『私はお金なんて必要ありません。ずっとご主人様のそばにいさせてください!』


 これもうどっかの町で置いていけねーじゃん。


「ご主人様は何にしますか?」

「……あっ、俺? 俺はいいよ」

「もしかして高かったですか……?」


 ええええ結構鋭いな!?

 い、いやここは落ち着いて否定しよう。


「んなわけ。ただ腹が減ってないだけだよ」

「……すみません。やっぱりさっきの取り消して――」

「へいへいへーい! さっきのもう一つお願いします!!」

「わかりました。兎の丸焼きを二つ!」

「はいよー!」 


 そう言うと店員はレフランと俺を見て微笑んだのちに、ペコリと頭を下げてテーブルとテーブルの間へと進んでいった。


 今、俺達はいわゆる酒場と呼ばれるところにいた。

 色々な装備や背の大きさや肌髪目の色が違う男女が各テーブルで楽しそうに騒ぎまくっている。

 その騒がしさは俺が泊まった宿以上だ。

 教えてくれたギルドに人いわく、そこは冒険者たちの集いの場所となっているらしい。

 まぁ、レフランはよく頑張ってくれたと思うし、その褒美もかねて飯を食いに来たわけだ。

 

 いやーしかし今日のあのアホパーティ……あれはちょっとやりすぎちゃったなあ。

 あいつらの教育のためとかいってほったらかして戻ってきたら騎士は全身複雑骨折だし、魔道士は内臓焦げてたし、武闘家は掴まれた足が折れてたしで無茶苦茶だった。

 ……あれで改善してくれたらいいんだがなぁ。


「あの……ご主人様」

「ん?」

「トイレに行ってもいいですか……?」

「お、おう。いってら」


 ……なんで俺に行っていいか聞いたんだろうか。

 まあいいや、そんなことよりもまたあいつらのことが気になってきたぜ。



△system

 スキル【千里眼】 Lv.MAXを習得



 これでどうなってんのか見とくか。 

 ほうほう、騎士も魔道士も無事見つかったみたいだな。

 ってあれ? 武闘家だけいなくね?

 武闘家は今どこに……いや、とりまそっちに視点を移して……えっ。


 これさっき俺が通ってきた道じゃね?



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「はぁ……はぁ……やっとここまで着いた!」


 馬から降りた直後すぐさま全速力で走りウィニャール街まで来ることができた。

 だけど人が多すぎる!

 前にも一度来たことがあるけど、昼と夕方でここまで変わるなんて……。


「いてッ! おい姉ちゃん足元気を付けてくれよ!」

「あっ、ご、ごめんなさい!」


 どうしよう……別の場所に移動させられる前に見つけたいのに。


「そこのじょうちゃん、なにやってるんだぁ?」

「おいおい! おめぇー今日おくさんいるんじゃねぇーの?」

「んだんだ、見つかったら殺されるんでね?」

「なぁーに困った女を助けるのは男の本能よ!」


 声をかけてきたのは、酒屋の外に置かれたテーブルで酒を飲みあっている老人4人のうちの一人だ。

 お酒ででろんでろんになっている状態で大通りを通る人なんて覚えてなさそうな気がするけど……せっかくだし聞いてみようかな。


「人をさがしてるの。変なマスクとしるくはっと……?をかぶった人なんだけど、ご存——」

「いや知らんねぇぇぇええ!」


 私が最後まで話しきる前に返事をした。

 即答だった。

 これは……他の人に聞いたほうがいいわね。


「いやオマエさんアホか!? ついさっき変な仮面被った男が来た時に『へんなマスクだなぁ』って言ってたじゃねーか!!」

「おいおいボケ老人がいるぞぉ」

「あー……そうだっけなぁ……まあ確かにぃ、さっき店を聞いてきた男は鳥みたいな仮面かぶってたけどぉ」

「どっからどうみても変なやつじゃあねーか! それにオマエ覚えてんじゃん!」

「も、もしよければ私にもその店を教えてほしいの!」


 やった!

 これならサハタダさんの所にすぐに行け——。


「そこの店だよ」

「えっと……そこの?」

「あぁうん」


 老人の一人が指さした場所は1mしか離れていない居酒屋の入り口だった。

 と て も 近 い 。


「あ、ありがとうおじさん達!」

「おーう彼氏と会えるといいなぁ~!」

「そんなのじゃないわよ」


チリンチリ~ン


 中は様々な色の声で溢れかえっていた。

 私よりもよっぽど良い装備をきている大先輩らしき人や、まだあまり装備は整ってないけどみんなで仲良く飲んでる同期らしき人もいる。


 ……いや、そんなことよりも!

 この酒場のどこかにサハタダさんが……っている! ここからだと背中しか見えないけど全身真っ黒のせいでめっちゃ目立ってるわ!

 と、とりあえず声をかけなきゃ!


「あ、あの~ちょっとサハタダさん!」


 クルッ


「んー……誰?」


 ……あれっ。

 確かに服装も顔の仮面も帽子もサハタダさんなのに違う。

 声が高いし胸もお尻も出てるし……なんというか女性っぽいというか……。


「誰だお前? つーか私のことそんなにジロジロ見てどうしたん……ああ、そういう」

「ちっ違うわよ! あー……えっとその……」


 どうしよう……ここで私はなんて言えばいいの!?

 ……ううん、とりあえず。


「あー……あなたには兄か弟がいるでしょ!?」

「いないけど」

「そ、そう……」


 ううっ……全く同じ服装なのに中身が違うなんてそんなのあるの!?

 でも、もしかしたらサハタダさんが胸とかお尻に何か入れて声を高くしてる可能性が……でもサハタダさんがそんな面倒なことする意味もないし……。


「ごめんなさい人違いでした!」


 早くサハタダさんを探さなきゃ!

 絶対、絶対この酒場のどこかにいるはずなのに……どこにも見当たらないなんて……まさか入違った!?

 一度外に出て確かめないと——。


「ご主人様、ただいま戻りました」

「……えっ、あれ? レフランさん……?」

「あれ、武闘家さん。もう話し合いは終わったのですか?」

「は、話し合い? ……いやそんなことよりもなんであなたがここにいるの?」

「私はご主人様と一緒にご飯を食べに来ました。」

「ナイスタイミングね。ご主人様……いや、サハタダさんはどこにいるのか知ってる?」

「そこにいますよ。ほら——」


 そう言いながらレフランさんはある方向を指さした。

 ……けど、それはどう考えてもおかしい。


「……あれ?」


 レフランさんが指さした方向には、私がさっき話しかけたサハタダさんにそっくりの女性が座っている。


「……あのー……どちらさまでしょうか?」

「……えっ、わ私!? い、いやー私は旅人だよ! うん!」

「……」

「ねえレフランさんどうかしたの?」

「さっきまでこの席にご主人様と私で座っていたんです。なのに……」


 ……一体どうなっているの?

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