婚約
侯爵はギラギラした目で私を見据え短剣を構える。
「娘を王妃にし、王族と親戚関係を結んでさらなる権力を得ると言う私の野望を全てお前のせいで台無しにされた!・・・お前だけは絶対許さんぞ!!!」
そう言って侯爵が短剣を構えたまま私に向かってきた。
すると私の前にジークとゼクスが庇うように立ち塞がろうとする。しかし私はそんな二人の間を素早くすり抜け前に躍り出た。そして驚く二人を無視しサッとスカートを翻して脚に付けていた短剣を鞘から引き抜く。
そう、今回もアンナさんの協力の下毒殺が始まってからずっと付けていたのだ。
そんな私の行動に驚き、一瞬動きを止めた侯爵の隙を見逃さず短剣で侯爵の持っていた短剣を弾き飛ばし、その喉元に刃先を突きつけて動きを止める。そしてクルクル回って飛んでいた侯爵の短剣を風の魔法で引き寄せ掌の上で浮かせて見せる。その光景に驚き固まっている侯爵に追い討ちを掛けるよう、浮かした短剣に小規模の業火を出して跡形もなく消して見せたのだ。
「・・・・」
侯爵は唖然とした表情のまま、その場に腰を抜かして座り込んでしまった。そしてじっと私を見つめたまま呟く。
「・・・そうか、貴族の間で噂になっていた『銀の魔神』とはお前の事だったのか・・・」
・・・誰が魔神だ!!!そんな噂流したやつは誰だーーー!!!
そこでハッとある事を思い出した。
そうか!あの舞踏会の時、一部の貴族が私を見て恐怖の表情で逃げて行ったのはこの噂のせいかーーーー!!!
私は短剣を鞘に戻し手を額に当てそんな噂になっている事に愕然とする。
その後ファメルバ侯爵と他の貴族達と黒装束の男達は、城の衛兵に部屋から連れ出されて行ったのだった。
「サラ・・・さっきはどうして短剣を持った侯爵に向かって行ったんだ?あのまま俺やゼクスに守られていれば良かっただろ?」
「・・・ああ言う類いの人間は、自分より弱いと思っていた人間に圧倒的な力の差でこてんぱんに負けるともう立ち直れなくなるし、それにそうすればもう同じ過ちを繰り返さなくなると思ったから」
「・・・・」
ジークは私の言葉に絶句し、隣のゼクスは面白そうに私を見ていた。
「まあとりあえず、これでこの件は漸く解決したんだから良いって事で!」
「そ、そうだな・・・そう言えばサラ、先程気になる事を言っていたな?」
「気になる事?」
「サラが俺の婚約者になるとキッパリと言い、ファメルバ侯爵に認めさせようとしていただろう?」
「う、うん・・・」
「それに、あんなに嫌がっていた名を家名まで正式に名乗り、さらに確実に貴族である事を認めさせる為、アズベルト公爵までこの国にお呼びしていたとは・・・それはどう言った意味なんだ?」
ジークが探るような目で私を見てきたので、私は一つ大きく深呼吸をしてから真剣にジークの顔を見つめた。
「それはそのままの意味だよ・・・私もう一度公爵令嬢に戻ってジークの婚約者になる!」
「サラ!!」
私の言葉にジークは破顔し、そして私を強く抱き締めてきたのだ。
「ちょ、ちょっとジーク!みんな見てるから恥ずかしい!!」
「ああすまない。あまりにも嬉しくてつい」
そう言いながらジークは私を離してくれたが、その代わり腰に手を回され側から離して貰えなかった。
そんなジークに呆れながらも顔を見ようとして、その視線の移動途中でゼクスの顔に目が止まる。
「ゼクス・・・」
「そんな困った顔をしなくても良い。そなたが下した決断を我は受け入れるつもりだ・・・ただ、もしその男に泣かされたり愛想をついた場合はいつでも我の下に来るが良い。我はいつでも待っているぞ」
ゼクスは私にニヤリと悪戯な笑みを見せてきた。
「そんな事は一生無い!俺がサラを必ず幸せにする!」
「ふん、まあ期待せずに見ていてやろう。ただしもしサラを不幸にするような事があれば我は力付くでサラを奪いに来るぞ。その時は覚悟するが良い」
そう言い残しゼクスはリカルドと一緒にその場から姿を消したのだ。
ジークは無言でゼクスの消えた場所を見つめ、私の腰に回していた手に力を込めた。そして成り行きを黙って見ていたお父様にジークが真剣な顔で向き直る。
「アズベルト公爵、遠いところからご足労頂きありがとうございます。・・・サラの父上にこんな場所でなどなんですが、俺とサラの婚約を認めて頂きたい。そして俺との結婚も認めて頂きたいのです。どうかお願い致します」
そう言ってジークがお父様に頭を下げたので私も習って頭を下げたのだ。
「お父様お願い致します!私の気持ちはあの時お父様にお話したまま変わってません!」
「・・・・」
私達が必死に頭を下げていると、暫く無言だったお父様が頭上でため息を溢す。
「お二人共頭を上げてください」
そう言われ恐る恐る顔を二人で上げると、お父様は穏やかな表情で私達を見てくる。
「本当は私からジークフリード殿下に、娘の事をお願いするつもりでいたのですがね・・・変わった娘でありますが、どうか末永く娘を宜しくお願い致します」
「お父様・・・」
今度はお父様がジークに頭を下げてお願いしてきた。
ジークはその言葉を聞き嬉しそうに笑顔になったのだ。
「アズベルト公爵ありがとう。サラは必ず俺が幸せにすると誓う。だから安心して欲しい」
「・・・ジークフリード殿下、ありがとうございます」
そうジークが言うとお父様は頭を上げ、ジークにお礼を言って二人で笑顔になる。
私はその光景に嬉しくなり、目に涙を溜めて二人を見つめ続けたのだった。
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