閑話
ユリウス・ラ・グランディア
私はユリウス・ラ・グランディア
このグランディア王国の王太子である。
私には9歳の頃から婚約者が居た。
サラスティア・アズベルト
筆頭貴族アズベルト公爵家のご令嬢だ。
母親譲りの美しい銀髪に、父親譲りの紫の瞳をした美しい人だった。
彼女を連れて夜会に行けば、周りの男性達は彼女の美しさに見惚れ、女性達は羨望の眼差しで彼女を見てくる。
彼女は大人しく、いつでも淑女の微笑みで完璧な淑女令嬢であった。
だが、私には完璧過ぎて正直つまらないとも感じる様になっていた時、あの彼女に出会ったのだ。
マリアンヌ嬢
肩まで伸びたふわふわの茶色い髪にクリクリとした大きな黒い瞳。小柄でとても可愛らしい女性だった。
その表情はコロコロと変わり見ていて飽きない。
私は次第に彼女に惹かれていったのだ。だが、私には婚約者が居て彼女とは婚姻することが出来ない・・・。
そんな時に彼女から衝撃の告白をされた。
あのサラスティアから、影で嫌がらせを受けていると。
最初は信じられない思いで聞いていたが、彼女がとても辛そうに泣いている姿を見て私が守らなくては!と強く思うようになっていた。
それにこの事実をサラスティアに突き付ければ、婚約破棄する事が出来ると考え入念に計画をたてたのだ。
そして、その計画実行の日!
父上や沢山の王侯貴族が見ている前で婚約破棄の宣言をした。
そのまま私の計画通りに事は進み、サラスティアは私との婚約破棄を受け入れて静かに会場を去っていった。
その後ろ姿を見てさすがに少し冷静になり、身分剥奪や国外追放は言い過ぎだったと思ったが、もう彼女は去った後だった為どうにも出来ない。
本当は婚約破棄だけするつもりだったのだが、彼女があまり抵抗しなかった事に何故か無性に腹が立ち、あんな事まで言ってしまったのだ。
だが、当初の予定通り婚約破棄する事が出来た為、周りの反対を押切りマリアンヌと婚約する事が出来た。
マリアンヌと婚約した私は幸せで浮かれていた。
彼女からドレスや宝飾品が欲しいとねだられ、彼女が喜ぶならと欲しいだけ与えてあげた。
(サラスティアは、ドレスや宝飾品にはそんなに興味を示さなかったな・・・)
だが彼女はどんどん豪華に着飾っていくにつれ、その態度がどんどん大きくなっていく。
ちょっとでも気に食わない事があると、彼女付きの侍女達や他の貴族達を酷く罵るようになっていった。
(サラスティアは、侍女や他の貴族にも優しく接していたな・・・)
そして極めつけは、私と婚姻すれば将来王妃になる為、必ず王妃教育を受けなければならないのに、彼女はそれを拒否したのだ。
(サラスティアは、王妃教育も嫌な顔せず真面目に受けていたな・・・)
それは駄目だと思い、彼女に王妃教育を受ける様に言ったのだが、王妃になっても公務をする気は無いのでずっと後宮に居るから受ける必要が無いと。
さすがにそんな彼女を見て私の彼女を慕う気持ちは完全に冷めてしまった。
そして冷静に彼女と周りの状態を客観的に見るようになり、そのあまりの酷さに絶句した。
私は密かにマリアンヌの身辺を探らせたが、その結果彼女には怪しい所ばかりが見付かる。
これを直接問い質すと、彼女は魔族と言う正体を現して襲いかかってきたのだ。
魔族となった彼女は、私と婚姻をし公務そっちのけで贅沢三昧をして国庫の金を使いきり、そんな女と婚姻した私とそんな婚姻を認めた国を貶めるのが目的だったと言った。
結局止めを刺せなかったが何とか撃退する事が出来、一安心するとふとサラスティアの事を思い出した。
・・・本当に彼女はマリアンヌに嫌がらせしていたのだろうか?
私はどうしても気になり、アズベルト公爵邸に急ぎ向かった。
私を出迎えてくれたアズベルト公爵に、今頃来たのかと冷たく散々小言を言われたが何も言い返せない。
アズベルト公爵の小言が終わるまで待ち、彼女は本当にマリアンヌに嫌がらせをしていたのか聞いてみて驚いた。
彼女は一人の時は常に護衛が付いていたので、一度もマリアンヌには直接会っていなかったのだ。
その驚愕の事実に呆然としながら、彼女が今どうしているのか気になり尋ねると、彼女が既にあの舞踏会から帰った後に一人で屋敷から抜け出し今はもう居ない事実を知り絶望した。
そこで初めて、私はマリアンヌと婚約してからも時々サラスティアを思い出していた事に気付き、彼女に会えない今になってようやく彼女が私にとって大切な人だと気付いたのだ。
私は絶望に打ちひしがれていたが、そんな私を見かねてアズベルト公爵は今密かにサラスティアの行方を探していると教えてくれた。
私はこれに希望を見いだし、もし見付かったら必ず連絡するように約束を取り付ける。
それから数日後、アズベルト公爵からサラスティアが見付かったと連絡を受け急ぎアズベルト邸に向かう。
アズベルト公爵から聞いたサラスティアの居場所は、我が同盟国のアルカディア王国だった。それも、街から少し離れた街道沿いで一人で暮らしているらしい。
私がそんな生活をさせていると思うと胸が痛むが、直接私が行って謝罪をする事を伝えると最初は渋っていたアズベルト公爵も折れてくれた。
その代わりとしてサラスティアの義弟を供に付けることと目立たない様にして行かなければいけない為、最低でも一人腕の立つ護衛を連れていくように指示される。
これは思い当たる人物が居るので問題無い。
そして、サラスティアとも面識のある私の近衛騎士隊長アランとサラスティアの義弟ヒューイの三人でサラスティアの元へ向かったのだ。
数日間かけてアルカディア王国に入り、サラスティアの居る家までたどり着いて驚く。
彼女はこの家で喫茶店を経営し働いていたのだ。
私達は見付からない様に、窓から彼女の様子を伺い見て目を疑った。
あの淑女令嬢だった彼女からは想像出来ないほど笑顔で楽しそうにくるくると働いている。
私はそんな彼女からは目が離せないでいた。
夕方になり店内に彼女一人だけになっている事を確認し、先ずは私一人だけで行くことを二人に伝え入口を開いた。
「いらっしゃいませ」
笑顔で振り向く彼女を見て心臓がドキリと大きく跳ねる。
あぁ、私は彼女が好きなんだ。
その時ハッキリと自分の気持ちに気が付いたのだ。
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