お宅訪問

あの暗殺者に襲われてから数日が経ったある日。




お城の廊下をジークと二人並んで歩いていた。すると前からファメルバ侯爵が歩いて来るのが見えたのだ。




「おお!ジークフリード殿下こんな所でお会い出来るとは奇遇ですな」


「ファメルバ侯爵・・・今日は登城してたのか」


「ええ、国王陛下にお話がありましたので」




そう侯爵は笑顔でジークに話しているが目が笑っていない。




・・・多分国王様に再度婚約者の件を話して良い返事貰えなかったんだろうな~。




そう思いながら侯爵を見ていると、その視線に気付いた侯爵が私を見てくる。一瞬その目が険しい物になったのを見逃さなかった。




「・・・これはこれはサラ様。大変お元気そうで何よりです」


「ファメルバ侯爵様もお元気そうで何よりです」


「サラ様は最近特にお変わり無く?」


「ええ、最近ちょっと『来客』が増えたぐらいですが毎日楽しく過ごせています」


「・・・そうですか。楽しそうで何よりです」




私が意味ありげに頬笑むと侯爵も笑みを返してくる。


端から見ると何て事の無いほのぼのとした会話をしているように見えるが、実際二人の間はとてもピリピリした空気が流れていた。


ジークはそんな二人を呆れながら見ている。




「そう言えばサラ様、私の娘クラリスと仲がよろしいようですな」


「ええ、クラリスは私の事を姉のように慕って下さるので、とても可愛らしく思っています」


「・・・そうだ!もし宜しければこの後私の屋敷に遊びに来られませんか?きっと娘も喜びますよ」


「・・・・」




・・・ほほぉ~これは屋敷に呼んで直接手を下すつもりだな。




「サラ・・・」




ジークが侯爵の意図を察し心配そうに私を見てくる。私はそれに笑顔で返してから侯爵に向き直る。




「喜んで伺わせて頂きます」




その挑戦受けて立つ!!






────ファメルバ侯爵邸。




あの後侯爵と別れた私は、部屋でアンナさんの手伝いのもと身支度を整えジークの用意してくれた馬車に乗ってファメルバ侯爵邸に向かった。




屋敷に入るとすぐに嬉しそうな顔のクラリスが私を出迎えてくれる。そうしてまずクラリスの部屋でお茶をする事になった。




「まさかサラお姉様が、わたくしの部屋に来てくださるなんて夢のようですわ」


「そんな大袈裟な」


「いえいえ!わたくしにとってはとても重要な事ですわ」




そう言ってキラキラした目で見つめられたのだ。




・・・相変わらず何で私をここまで慕ってくるんだろう?




そう疑問に思いながら、クラリスの部屋を見回すとある戸棚に目が止まった。その戸から何かがはみ出ている事に気が付いたのだ。


私は気になり座っていた椅子から立ち上がるとその戸棚に近付いた。




「サラお姉様?・・・あ!待って下さいませ!そこは・・・!!」


「え?」




クラリスの焦った声に戸の取っ手を持ったまま振り向くと、その拍子に戸が開いてしまった。


すると中から沢山の本が雪崩のように落ちてきたのだ。




「あーーーーー!!!」


「あ、ごめんね!すぐ拾うよ」


「わ、わたくしが拾いますわーーー!!」




クラリスが必死に駆け寄ってきてたが、私は本を拾い上げようとして開いていたページに目を奪われた。




あれ?この本・・・。




私はその本を拾い上げパラパラと軽く中身を読む。




「嫌ーーー!!お姉様見ないでーーー!!!」




クラリスの悲痛な叫びを聞きながらも、落ちている本を次々拾い中身を確認する。




やっぱり!これ前世でもよく読んでたいわゆるTL小説だーーー!!!




私はこの世界にもそんな小説があるとは思っていなかったので、本を持ったまま驚きに固まっていた。


するとクラリスが顔を恥ずかしそうに真っ赤にさせながら、私の持っていた本を奪って胸に抱き締める。




「ご、ごめんね。勝手に見て・・・」


「・・・わたくしの事、幻滅なさいましたわよね?」


「え?別に?」


「で、でも今お姉様この本を見て驚かれていらしゃいましたわ・・・」


「ああいや・・・このような本がここにあった事に驚いただけで、その本を読んでるクラリスを変に思っていないから安心して」


「そうなのですか?」


「うん。むしろそう言う本私好きだからさ・・・だから泣かなくて良いよ」


「・・・っ!」




羞恥で目に涙を浮かべているクラリスの目元に指を当て頬笑みながら涙をすくってあげると、何故か目を見開き瞳を潤ませますます顔を真っ赤にさせてしまった。




・・・何で?




私がそう疑問に思っていると、ふとクラリスの持っている本に目が行きそこである事に気が付く。




あ!!そう言えば、クラリスの本ってほとんど男装の麗人が出てくる話が多かった!




そう思いまだ山積みになっている本を見て、多分他もそんな話ばかりなんだろうと確信する。


そしてもう一度クラリスを見て、惚けた表情で私を見ている事で今までのクラリスの態度に納得がいった。




・・・なるほど。だから断固として私を『お姉様』と言ってくるんだね。




私はそう思い苦笑しながらクラリスを見る。


するとその時ノックと同時にジルが入ってきて、この惨状を目にすると眉をピクリと動かした後全てを察したように大きくため息を吐いたのだ。






その後ジルの手を借り落ちた本をもう一度戸棚に戻し、そしてジルはクラリスに小言を言いながらも新しい紅茶を入れてから部屋を出ていった。


私はそんな二人の様子を新しく入れて貰った紅茶を飲みながら黙って見ていたのだ。




「サラお姉様ごめんなさい。実は突然お父様が今日サラお姉様を屋敷に招待したと言われてしまい、慌ててあの戸棚に出したままの本を無理矢理押し込んでしまったのです」


「・・・だから仕舞いきれて無く少しはみ出ていたのか」


「そうみたいです・・・あとこの際お話ししますが、サラお姉様と初めてお会いした時もあの本の新刊が街でしか手に入らなかったもので、どうしてもすぐに欲しくお父様に内緒で屋敷を抜け出し買いに行っていたのですわ」


「ああ、だからジルもあの時ああ言って呆れていたんだね」


「はい・・・でもあの時の事は後悔してないですわ!だってサラお姉様と出会えましたもの!」


「そ、そう・・・でももうあんな無茶はしたら駄目だよ?クラリスはか弱い侯爵令嬢なんだからさ」


「はい・・・ジルにもあの後散々叱られてしまいましたわ」




その時の事を思い出したのかシュンとして落ち込んでしまった。


そんなクラリスに私は気を取り直して貰うため話題を変える。




「そ、そう言えばクラリスとジルいつもあんな感じの仲なの?」


「と言いますと?」


「なんだかジルはクラリスに対して、執事以上にクラリスの事気にしているように見えるからさ」


「ああ、それはジルがわたくしの幼馴染でもあるからですわ」


「そうなの?」


「はい」




そうしてクラリスはジルとの事を懐かしそうに話してくれたのだった。

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