お家騒動編

新たなる日々の始まり

最近私の店が繁盛している。


・・・すごく不本意な理由でだが。


その原因は、今目の前のカウンターに座る人達だ。




「サラ、今日も俺の為に用意してくれた紅茶とケーキ美味しいよ」


「ジーク!君の為では無く私の為だ!」


「義姉さん、今度は僕の為だけにクッキー作って欲しいな~」


「・・・おかわり」




この口々に勝手な事を言ってくる男達は、普通こんな小さな店に居るべき身分の人達では無い。


アルカディア王国とグランディア王国のそれぞれの王太子達、次期公爵家当主兼次期宰相候補、侯爵家次男で近衛騎士隊長。みんなかなりの美形だ。なんかここの空間だけキラキラしている様にも見えるのは私の気のせいだろうか・・・。


そんな四人を見るために最近は女性客が凄く増えた。


まあ、売り上げが増えるので助かるけど、出来れば純粋に私の紅茶やお菓子を食べに来てくれるお客さんが良いよ・・・。




最初常連客の人達も、この高貴な方々に緊張して遠巻きに見てたり店に来るのを遠慮してたんだけど、ほぼ毎日行われるこの言い合いに次第に馴れ、今では面白い見世物と言う感覚で来ているようである。


良い例が、今カウンターの端っこで座りながらこちらをニヤニヤしながら見ている、ロブおじさん・・・奥さんに言い付けてやろか。


そう思いながらロブおじさんをギロリと睨む。




実は四人が私に好意を持って接してくれているのは薄々感じている。


しかし、前世で乙女ゲーや漫画で逆ハーレム良い!と叫んでいた私でも、実際自分がその立場になると・・・。




正直うざい!!




あれは2次元だから良いのだとつくづく実感した。




「そう言えば義姉さん、入口に貼ってあったけど明日からお店少し休みにするの?」


「ええ、最近『凄く繁盛』してしまったから、予定よりお菓子の材料が少なくなってしまったの。だから隣街まで買いに行こうかと・・・」


「なら、僕と一緒に行こうよ」


「却下」


「いや、私と!」


「却下」


「荷物が有るだろうし、俺の馬車で一緒に」


「却下」


「・・・荷物持ち」


「結構です!一人で行ってきます!」




言ってくると思ったよ・・・。それに『凄く繁盛』の部分を強調して言ったんだけど、私の言いたいことは分かって貰えなかったらしい・・・。




とりあえず久しぶりの休みなので、材料の仕入れついでに街をプラプラ一人自由に廻るつもりでいる。だから邪魔なので四人の意見はすべて却下!


帰るまでずっと粘っていたが丁重にお断りして帰ってもらった。






───朝日が登って間もない早朝。




戸締まりをしっかりして店を出た。


何故こんなに朝早いのかと言うと、あの四人の事だから絶対諦めて無いだろうと思い、来てしまう前にさっさと出掛ける事にしたのだ。




私は街道沿いを少し歩いた先にある小さな森に向かった。


森の中に入り周りを見渡して誰も居ないことを確認し目を閉じる。


ちなみに今の私の格好はいつものワンピース姿では無くズボンを履いている。これはこれから使う魔法で重要な意味を持っているからだ。




私は体の周りに風を纏うイメージをし、パッと目を見開き木々の間から見える空を見上げた。


すると、私の体は地面から浮き上がりゆっくりと上昇していく。


高い木々を抜けある程度の上空まで到達してから上昇を止め、そして目的の街の方角を確認して速度を上げて飛んでいった。




相変わらず飛ぶのは集中力が必要だけど楽しい!




私はこの世界で魔法が使える事を知ってから、前世でも憧れだった魔法で空を飛んでみたかったのだ。ただ、あらゆる魔法の書物を見ても飛行の魔法が全く無かった。


どうやらこの世界の基本的な魔法は火・風・水・土・雷・光・闇の力を使った攻撃や治癒魔法か、飲み水を出したり薪に火を点けたり等の生活魔法しか存在していなかったのだ。


ちなみに、魔法の使える人は普通どれかの属性に特化しているものなのだが、私は一応どの属性も使えたりします。


飛べないと分かった時は酷く落ち込んだ。だけどふと書いて無いからと言って飛べないと決まったわけでは無いのでは?と思い必死に独自で考えて練習し、屋敷に居る時に軽く浮ける様になった。そしてこの場所に来てからは本格的に練習をした結果こうして自由に飛び回る事が出来る様になったのだ。


ただこの魔法は存在して無い魔法なので、なるべく人に見付からないように気を付けている。


ちなみにズボンなのは、遠くて見えないと分かっていてもスカートの中を見られたくない女心です。

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