魔王の城にて

ゼクスの城での療養生活が始まって数週間経った。






私はリカルドの看護の甲斐もあって城の中を自由に歩き回れるぐらいに回復した。


リカルドに感謝を述べると、どうやら普通あんな重傷を負えば魔族でも治るのに半年は掛かるのに私は驚異の回復を見せたそう。その原因は、魔法の発動は封じられているけど私の中の膨大な魔力が自己回復の働きをしてくれていたらしい。


まあそのお陰で傷も残らず綺麗に治り包帯も取れた。


ただ暫く寝たきりだったので体力が落ちてしまい、元の体力に戻すべく毎日城の中を散歩している。


そして今私は城の庭にある庭園に来ている。この庭園は真っ赤な薔薇が見事に咲き乱れていてとても美しい。たまたま散歩中にここを見付けてから今は私の大のお気に入りの場所になっている。




私は城の中を歩き回って気が付いた事があった。


城で住み込みながら働いているのは殆どが上級魔族で、中級魔族や下級魔族は城の回りの森に点々と家を持ち自給自足の暮らしをしている。


食事も人間が食べている物と変わらず、私は食べ物で特に困る事は無かった。


その生活様式は殆ど人間と変わらない。


そして、城の中で人間の私を見掛けても奇異の目で見られる事はあるが敵意は全く感じなかった。これはたまに城に来る中級、下級魔族も皆一緒の事だった。


ここの魔族達を見て思った事は、殆どの魔族が特に人間にわざわざ害を与えるつもりが無いと言うことだ。だから人間の居る所であまり魔族を見掛けないのも納得出来る。


ただそうなると何故今回グランディア王国に襲撃を仕掛けたのかがよく分からなかった。


私がそんな事を考えていると横に誰かが立つ気配を感じそちらを見る。




「ゼクス!」


「サラ、そなたは本当にここが好きだな」


「こんなに見事な薔薇の庭園今まで見たことが無いから」


「そうか」




私はもう一度薔薇の庭園を見渡す。




前世で漫画やゲームで薔薇の庭園が描かれているのは見たことがあるけど、実際に見ると比べ物にならないぐらい凄く綺麗!!




薔薇の庭園に見とれていると、突然ゼクスが私の体をマントに包んで肩を抱いてきた。




「な、何!?」


「いくら回復してきたとは言え、まだ完全では無いのだから冷やすと体に障る」


「・・・ありがとう」


「では、我が部屋でお茶でもしながら話をしよう」




そう言ってゼクスは私の肩を抱いたまま歩き出したのだ。






────ゼクスの私室。




私は二人分の紅茶を用意して机に置きゼクスの向かいの席に座る。


ゼクスはティーカップを持ち優雅に紅茶を一口飲む。




「やはりサラの入れた紅茶は美味い」


「お気に召して貰えて良かったです」




最近私の入れた紅茶がお気に入りらしく、良くこうしてお茶をしようと誘われて結局私が入れてあげる事に。


こうしてゼクスとゆったりとした時間を過ごしているとあの時戦った相手とは思えなくなってくる。そこで私はずっと疑問だった事をゼクスに聞いてみることにした。




「ずっと疑問に思っていたんだけど、どうしてゼクスはグランディア王国に襲撃を仕掛けたの?」


「あぁ、最近我が同族が人間にやられて逃げ帰って来た者達がいてな、さすがにこのままでは魔族としての誇りと魔族が下に見られ同族が虐げられる可能性も出てくる事から、一度人間共に魔族の恐ろしさを知らしめすべく見せしめに国を1つ潰す事にしたのだ」


「それがグランディア王国だったて事・・・」


「まあ正直な所国などどこでも良かったのだが、人間にやられて逃げ帰って来た我が同族がグランディア王国の特に王太子に強い恨みを持っていてな、どうしてグランディア王国に復讐がしたいと言ってきたからそれならばと思い彼の国を選んだのだ」


「・・・グランディア王国の王太子に強い恨み・・・もしかしてその魔族って女で中級魔族だったり?」


「ああそうだ」




・・・マリアンヌ嬢かーーーーーー!!




「そ、そうなんだ・・・しかしこの城や周辺に住んでる魔族達は特に人間に害を成すつもりは無さそうな者達ばかりだったのに、中にはそうで無い魔族も居るみたいだね」


「我ら魔族は基本人間と関わる事はせず自分の生活を守っている者が殆どだ。だが、いざ戦いになれば魔族の本能が騒ぎ出し争いを好む。その魔族の本能のままに動く者がたまに現れ時々人間側に介入する者がいるのだ」


「それがさっき言ってた逃げ帰って来た魔族達・・・」


「うむ、我はこれでも魔族の王だからな。そんな同族のせいで他の同族を危険に晒させる訳には行かぬゆえ今回こちらから出たのだ」


「・・・・」


「しかし、国1つ落とすのにわざわざ我が出ることも無いと思い戦闘部隊のみに任せておったのだが、まさかこんな面白い人間に出会えるとは思っていなかったぞ」




そう言ってゼクスは私を見てニヤリと笑う。




「ここ数百年ずっとつまらぬと思い生きていたが、今ではここまで楽しい時を過ごせるとはな」


「数百年も生きているの!?」


「ああ魔族は基本長生きだからな」




確かにそんなに長く生きていたらつまらないと感じてくるかも・・・。




「・・・サラ、そなたこのまま我の妃にならぬか?」


「はあ?」


「そなたの膨大な魔力を上手く使えば我と長く生きられるだろう。それに、我とそなたの子であれば確実に次の魔族の王と成りうる力を持った子が産まれるであろう」


「そんなの嫌です!!」


「まあ、時間はたっぷりあるゆっくり考える事だな」


「考えても返事は変わらないから!」




魔族の妃なんて考えても恐ろしい。それもゼクスの子を産む?あり得ないから!




その時扉が突然開きそこからリカルドが入ってくる。




「ゼクス様、森に人間達が入って来ました」


「ほう・・・良くここが分かったな」




その報告を聞いたゼクスは何処か楽しそうな笑みを溢したのだった。

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