婚約話の真相

私は城に着くとジークの執務室に案内された。


部屋に入ると机で執務をしていたジークが気付き少し疲れている様子で私に笑顔を向けてくる。


ジークは椅子から立ち上り近付いてきて私の頬に手を添えた。




「・・・熱を出し寝込んでいたと聞いたけどもう大丈夫なのか?」


「っ!も、もう大丈夫だよ。それよりジークこそ疲れているようだけど大丈夫?」




久し振りに感じたジークの熱に鼓動が早くなったがなんとか平静を装ってジークを見上げる。




「俺は大丈夫だ・・・とりあえず座って」




そう言うとジークは私を執務室にある長椅子に座らせ、ジークも私の隣に座り自然な感じで私の腰を抱いて体を密着させてきた。


私はさらに鼓動が早くなるのを感じながらジークを見る。




「ジーク・・・ちょっと近すぎて座りにくいんだけど?」


「ごめん。だけど久し振りのサラを近くで感じていたいんだ」




そう微笑まれながら言われてしまってはもう何も言えなくなり、仕方がなくそのままの体勢で話をする事にした。




「そう言えば今日私がここに呼ばれた理由は?それに・・・・・ジークが侯爵令嬢と・・・婚約したと聞いたけど本当なの?」


「・・・その事で今日サラをここに呼んだんだ」


「え?」


「まず、その俺が婚約したと言う話は嘘だ」


「・・・本当に?」


「ああ」


「・・・良かった」




それを聞き私はホッと胸を撫で下ろす。


しかしジークは表情を固くし私を見つめてきた。




「だが・・・それがその内本当になるかもしれない」


「えっ!?どう言うこと?」


「あのサラと店先で別れた日の夜会で、侯爵が強引に自分の娘を俺の婚約者にする話を進めてきたんだ」


「・・・・」


「実はその前からその話を侯爵から、ずっと打診されてはいたのだが俺はそれを無視し続けていた。そうしたら業を煮やした侯爵があの夜会の時に勝手に自分の娘が俺の婚約者になったと言いふらし、裏で根回しをしていたのだろうあっと言う間にその噂が城下にまで広がってしまった」


「・・・それについては国王様はどう思われているの?」




あの国王様の私室での会話で、国王様がなんとか私をジークの婚約者にしようとしていた事を思い出す。




「侯爵はこの国の筆頭貴族でなかなかの権力と財力を持っている為、父上でも抑える事が難しいらしい」


「・・・・」


「すまない。本当はすぐにでも君の下に行って本当の事を話したかったのだが、城を離れた隙に侯爵が何をするか分からなかった為ずっと君に会いに行けなかったんだ」


「そうだったんだ・・・」




同じ筆頭貴族のお父様を思い出しその発言力の強さを良く知っていた。




「それじゃやっぱりジークはその侯爵令嬢と婚約する事になるの?」


「いや、そんな事は絶対にさせない!俺が婚約者にしたいのはサラ君だけだ!」


「ジーク・・・」


「そして行くゆくは俺の妃にしたいと思ている」




ジークは真剣な表情で私を見つめてくる。


私はその言葉を凄く嬉しく思いながらもまだその決心がつかず複雑な表情でジークを見返していた。




「ごめん。まだ君の気持ちが決まっていないのにこんな事を言って。だけど君に俺の気持ちを知っていて欲しかったから」




そう言ってジークは表情を和らげ私の髪を優しく漉いてくる。


私はその思いにまだ答えられない事に胸が痛くなり俯いてしまう。




「サラ・・・そんな顔しないで。大丈夫俺は待てるから」


「・・・ジーク」




ジークは俯いていた私の頬に手を添えて上を向かせ、微笑みながら私に軽く触れるだけの口付けをしてきた。しかしすぐに困った表情になったのだ。




「・・・そんな顔をさせてから言うのもなんだけど、サラにお願いがあって今日来て貰ったんだ」


「お願い?」


「実は今夜ある舞踏会に俺の婚約者として参加して欲しいんだ」


「ええ!?」


「今夜の舞踏会は国主催と言う名目だが、どうやら裏で侯爵が企画した物らしい。どうもそこで侯爵の娘を正式に俺の婚約者にするつもりでいるみたいなんだ」


「なっ!!」


「・・・君がまだ心が決まっていないのは分かっているつもりだけど、振りだけで良いから俺の婚約者として一緒に舞踏会に出て貰え無いだろうか?」


「・・・・」




・・・ここで嫌だと断ったら、もしかしたらジークはその令嬢と婚約させられてしまうかもしれない・・・そんなのは嫌だ!!私の我儘でジークを困らせているんだからここは私が頑張らなくては!




そう思い真剣な顔でジークを見る。




「良いよ。私が出来る事は何でもするから、絶対ジークの婚約阻止して見せるよ!」


「サラ、ありがとう!」




ジークは笑顔になり強く私を抱き締めてきたのだ。




・・・今回の事が落ち着いたら私の気持ちに答えを出そう。




私はジークを抱き締め返しながらそう心の中で決意したのだった。






────城の一室。




私は舞踏会の準備をする為、与えて貰った部屋に入った。


そこにはすでに侍女が一人待機している。私はその顔を見て驚いた。




「アンナさん!!」


「お久し振りです。サラお嬢様!」




満面の笑顔で私を迎えてくれたのは、例のアルカディア王家のお家騒動でお世話になった侍女のアンナさん。確かあの騒動の後ジークの侍女として働いているはずだけど・・・。




「どうしてここに?」


「ジークフリード様からお嬢様を舞踏会用に準備をするよう言い付かってきました」


「そうなんだ。私としては知らない人よりアンナさんの方が嬉しいから良いんだけどね」


「私もまたサラお嬢様のお世話が出来ると思うと凄く嬉しいです!」




そうして二人で楽しく近況の報告をし合いながらアンナさんが手際よく私を舞踏会用に着飾ってくれたのだ。




ちなみにその時アンナさんがまた脚に短剣着けるんですか?と聞いてきたのでさすがに今回はそれはしないよと苦笑したのだった。

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