魔族の王
振り返った先に居たのは。
腰まである漆黒色の髪が風に揺れ、その姿は殆ど人間と変わりない美形の男だった。ただ、人間と決定的に違っていたのは、魔族特有の深紅の瞳と背中に生えた大きな漆黒の翼。この容姿の特徴や伝わってくる圧倒的な力の威圧感から、この男は魔族の中でも最高の最上級魔族だと分かる。
そしてその姿はまるで・・・
「魔王・・・」
思わず呟いてしまった私の言葉に男が口角を上げる。
「そうだ我は魔族を統べる王ゼクスだ」
・・・本当に魔王だったよ!
ゼクスはそう言って、恐れろと言わんばかりに傲慢な態度で私を見てきて、おもむろに右の掌に闇の珠を作り出し私に撃ってきたのだ。
「!」
私は咄嗟に自分の前に強固な障壁を張ってその攻撃を防ぐ。
その様子を見て何か納得した様にニヤリと笑う。
「やはり城に張ってある防護壁はそなたの仕業か。本来人間程度の防護壁などで我の力を防ぐ事など出来ないのだが、今の我の攻撃を防いだそなたなら納得がいく」
その確認をする為にいきなり攻撃してきたのか!
「人間共への攻撃など我が出るまでも無いと思っていたのだが、人間側に一人羽も無く飛び恐ろしく強い者が居ると聞いてな、興味が湧いて我自らこうして来たのだ」
「わざわざ出向いて頂きありがとうございます。でも出来ればそのまま他の魔族達を連れてお帰りください」
本当にこんな面倒なのと戦いたく無いので帰って欲しいんだけど・・・。
「ふっ、我を見て恐れ無い人間も珍しい、だが折角ここまで来たのだ少し楽しませてもらおうか!」
そう言ってゼクスは翼を大きく羽ばたかせて私に向かってきた。両手にはそれぞれ闇の珠を作って。
私は剣を構え直しこちらからも向かって行った。
ゼクスは近付くと同時に闇の珠を連続で撃ってきたので、私は剣に光の魔法を纏わせ闇の珠を切り払う。そして、剣を持っていない左手から業火を打ち出す。
ゼクスはそれを軽々と避け少し距離を取った。
「面白い、属性の異なる魔法をどれも同等の力で扱えるのか」
「今使った属性以外もまだまだ使えるけどね」
「くく、そなたと言う人間に益々興味が湧いたぞ」
「正直嬉しく無いです」
「では少し本気を出してやるか」
突如ゼクスの姿が歪み目の前から消えた。
次の瞬間私の後ろから魔法の力を感じ、振り返りながら咄嗟に障壁を張ったが急だったため威力が弱く、直接は食らわなかったものの衝撃で地上に落下していく。
地面に激突する寸前になんとか風の魔法で衝撃を和らげたが、完全には抑えきれず土煙を上げて地面に転がった。
「くっ・・・」
「サラ!大丈夫か!?」
近くに居たジークフリード様が駆け寄り私を抱き起こす。
私は痛む体に治癒魔法を掛け痛みを和らげる。
すると羽音と共にゼクスが降りてきた。
「あの男は一体?」
ジークフリード様が私から体を離し剣を構えて私を守るように前に立つ。
「・・・魔族の王ゼクス。多分最上級魔族だと思う」
「魔族の王!?それも最上級魔族・・・」
ジークフリード様は険しい表情でゼクスを見る。
私はゆっくりと体を起こし、ジークフリード様の隣に剣を構えて並び立つ。
ゼクスは余裕ある表情でこちらを見ている。
その時、近くに居た騎士達が一斉にゼクスに飛び掛かった。
「駄目!!」
ゼクスは騎士達に一瞥をくれると翼を大きく羽ばたかせる。
するとそこから激しい衝撃波が起こり騎士達が遠くに吹き飛んで行った。地面に激しく打ち付けられうめき声を上げている。どこか骨折しているのかもしれない。治癒魔法を掛けに行きたいが、ジークフリード様を残しては行けない。・・・やはり先にゼクスをなんとかしないと。
「ジークフリード様、ゼクスは私が相手をするので他の人達の所に加勢お願いします」
「なっ!サラを残して行けるわけ無いだろう!」
「しかし先程も見た通りゼクスの力は上級魔族以上。並大抵の事では倒せないんです」
「それならば二人で!」
「私がジークフリード様に怪我をさせたく無いんです!」
「・・・何故か面白く無い。そなたその男が気になって戦えないのなら我がその憂い取り除いてやろう」
私達の言い合いにゼクスは何故か不機嫌な表情で口を挟む。そしてまた先程と同じ様に姿が歪んで消え次の瞬間ジークフリード様の目の前に現れた。首を掴んで高々と持ち上げてから地面に叩き付ける。
「うっ・・・」
「ジークフリード様!!」
地面に倒れうめき声を上げて立ち上がれないでいるジークフリード様に、ゼクスは無表情に掌に闇の珠を作り撃ち出したのだ。
嫌!!ジークフリード様が死んでしまう!!
そう思った瞬間無意識に体が動いた。私は魔法も使わずにジークフリード様を庇って闇の珠の前に飛び出した。
次の瞬間全身に激しい衝撃が走る。身体中が引き千切られる様な痛みが走り、あまりの痛みに呼吸が一瞬出来なくなった。
ただ、私の中の魔力が私の命を守るように動き出しているのが分かる。そのお陰か死ぬことは免れたが重傷を負ってその場に倒れた。
私は自分に治癒魔法を掛けようとしたが、全身が痛くて動けず掛ける事が出来ない。
「サ、サラ・・・」
「・・・・」
声のする方を目だけで見ると、倒れているジークフリード様が痛みに耐えながら私に手を伸ばしてきた。
私も手を伸ばしたいのに体が言うことを聞いてくれない。声も発せられない。目に涙が浮かぶ。
その時私はいきなりゼクスに抱き上げられた。
痛みに顔を歪めながらゼクスを見ると、真剣な表情で私を見つめそしてジークフリードに顔を向ける。
「今回この娘に免じてお前の命は取らず我等は引き上げてやろう。もう攻撃しには来ん。ただその代わりこの娘は我が貰っていく。我の城で傷の手当てをして手厚く世話をしてやるから安心しろ」
「なっ!サ、サラを離せ!」
痛む体で無理矢理立とうとするジークフリード様を無視してゼクスは翼を羽ばたかせて空に飛んで行く。
私は痛みによりもう何も考えられず、意識が団々と薄れていったのだった。
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