終幕
────祝賀会翌日。
今度はみんなに見送られてアズベルトの屋敷を出て行った。
まだ朝早かったのにヒューイやお父様、お母様、屋敷の使用人達が屋敷の前で見送ってくれたのだ。お母様や使用人達は涙を流して別れを惜しんでくれた。しかし、見送りの中にユリウス殿下やアラン様が居たのには驚いたが。
ユリウス殿下はこれから王太子の勤めがあるため、アルカディア王国の留学はこのまま終了するらしい。そして、落ち着いたら今度こそ愛し合える婚約者を見付ける事を約束してくれた。
アラン様もユリウス殿下の近衛騎士隊長なのでこのまま残るそうだ。しかし、私への騎士の誓いはずっと有効だから何か有れば必ず助けに行くと言葉少に言ってくれた。
ジークフリード様はまだ城で事後処理が残っている為見送りには居なかったが、昨日別れる時に国に帰ったらすぐに私に会いに来てくれると約束してくれたので私だけ先に帰る事に。
そうしてまた落ち着いたら遊びに来る事をみんなと約束して屋敷を後にした。
────アルカディア王国の自分の店に帰ってから数週間。
あの時店に帰った時は、あまりの長期休業だった事でロブさんを始め沢山のお客さんに凄く心配された。
さすがに迷惑をかけてしまったお詫びとして、暫くお菓子の無料サービスをやっていたのだ。
そして今はまた平和な日常に戻っている。
もうユリウス殿下達は来ないのが今は少し寂しいが、時々来るヒューイの手紙でみんな元気でいる事を知る。無事魔族との和平条約も結ばれ、今ユリウス殿下は婚約者探しでお見合いを少しずつだがしているらしい。今度こそ幸せになって欲しい・・・。
そんな事を思い出していると、不意に手に温かい物が触れた。
そちらを見ると目の前のカウンターに座ったジークフリード様が私の手を握って微笑んでいる。
「ジークフリード様・・・」
「サラ、今は俺が目の前に居るんだから俺だけを見て欲しいな」
「もう馬鹿言わないでください!今はまだ仕事中です!」
「そんな怒ったサラも可愛い」
「・・・っ!」
私は真っ赤になりながらジークフリード様の手を振り払った。
「・・・これは、そのうちすぐにこの店閉業するな・・・」
私達の様子をいつものカウンターに座って見ていたロブさんが何か呟いた様だけどよく聞こえなかった。
「紅茶のお代わり要る?」
「ああ、頼むよ」
私はカウンターから出て、ジークフリード様の空になったティーカップと入れ換えに温かい紅茶が入ったティーカップを目の前に置く。
「ありがとう」
微笑みを浮かべたままお礼を言って、ジークフリード様はティーカップに手を延ばしたのだが、横からスッと別の手が延びてきてそれを奪う。
そして奪ったティーカップの紅茶を優雅に一口飲んだのは・・・
「「ゼクス!?」」
「あぁ、やはりサラの入れた紅茶が一番美味い」
ゼクスはいつのまに来たのか、ジークフリード様の隣に座ってゆっくり奪った紅茶を味わっていた。
「何でゼクスがここに居るの?」
「そなたの紅茶を飲みに来たに決まっているであろう」
「そんな事でわざわざこんな所まで?」
「我にとっては十分な理由だがな・・・まあ、サラに会いたかったからでもあるが」
そう言ってゼクスは椅子から立ち上り、私の手を引いてその腕の中に抱き込んだ。
「なっ!ちょっとゼクス!離して!」
「嫌だと言ったら?」
じたばた暴れる私をゼクスはとても愉しそうに見てくる。
その時近くでガタッと音がして、次の瞬間強い力で引っ張られゼクスの腕の中から出て今度はジークフリード様の腕の中に居た。
ジークフリード様は私を強く抱き締めながらゼクスを睨み付けている。
「ゼクス!サラは俺の恋人だ!気安く触れるな!」
「ふん、まだ『恋人』なだけであろう?それなら我にもまだ可能性があると言うものだ」
「絶対渡さん!」
・・・あの~本人無視して頭の上で火花散らすの止めて欲しいんですけど。しかしユリウス殿下達が居なくなっても凄く厄介なのが来ちゃったよ・・・。
私はこれからまたこんな事が起こりそうかと思うと頭が痛くなった。
ゼクスはまた来ると言って、来た時と同じ様にあっという間にいなくなった。
ジークフリード様は何か対策を考えねばとブツブツ言っているのが聞こえた。
そろそろ城に戻るジークフリード様の見送りに店の裏手にある木の近くに来ている。
ここにジークフリード様が乗ってきた馬が括られているからだ。
「本当はまだ帰りたく無いのだが・・・」
「でもまだ仕事が残っているんでしょ?」
「うっ・・・」
「仕事はしっかりやって下さい!」
「・・・分かった、また明日も来るから」
「ならジークフリード様の好きなお菓子を用意して待ってますね」
笑顔でそう言うとじっとジークフリード様が私を見てきた。
「どうかしたの?」
「・・・なあサラ。そろそろ『ジークフリード様』では無く『ジーク』と呼んでくれないか?勿論『様』は無しで」
「え?」
「『ジーク』は親しい者にしか呼ばせていないから、君にもそう呼んで欲しい」
「・・・・」
「サラ・・・」
「・・・ジ・・ジ・・・ジーク?」
「あぁ!恥ずかしがる君も可愛い!!」
「なっ!ジーク・・・んんっ!」
ジークは破顔して私を抱き締めそして唇を奪った。
最初は優しい口付けだったのに、段々激しくなり口の中に舌を入れてきた時はさすがに焦って胸を叩いたがまったく離してくれない。さらに頭の後ろに手を添えられているので顔を反らす事も出来なかった。
結局されるがままになり、体の力が抜けてジークに寄り掛かって漸く唇が解放されたのだ。
私が荒い呼吸をしながら抗議の目でジークを見上げると、その金色の瞳には熱が宿っているのが見えた。
「・・・出来ればこのまま君を城に連れて帰りたい」
「ジーク・・・」
「そんな困った顔をしないでくれ。大丈夫だ今はまだ我慢出来る」
そう言って、ジークは一度目を閉じて深呼吸をしてからもう一度目を開けた。その瞳にはもう先程の熱は無くなっている。
「・・・でも、俺も男だからいつまで我慢出来るか分からない・・・・・・その時は覚悟してくれよ」
「ジーク!?」
「ではな」
また一瞬熱の籠った瞳で見つめて来たと思ったら、今度は掠める様な口付けを落とした後颯爽と馬に乗って帰って行ったのだ。
私はその後ろ姿を見送りながら、ドキドキする胸を押さえつつとても幸せな気分に浸っている。
いつかは庶民の暮らしかジークとの暮らしかを選べないといけない日が来るのは分かっているけど、とりあえず今はこの幸せな日々を大切に過ごしていきたいと思ったのだった。
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