侯爵令嬢の心

クラリスは紅茶を一口飲んでから話し始める。




「わたくしとジルは、わたくしが物心付いた時から一緒に過ごしてきましたの」


「そんなに昔からなんだ。しかしクラリスの小さい頃きっと可愛かったんだろうね」


「そ、そんな事ありませんわ!」




クラリスは両頬を手で隠しながら照れていた。私はそれを可愛いと思いながら微笑ましく見ている。




「え~と、それでジルとはその時からいつも一緒に遊んでいたのですけれど、ジルはわたくしより8つも年上でしたのでその頃からわたくしにとってまるで優しい兄のような存在でしたわ」




・・・クラリスより8つ年上と言うことはジークの一つ上か~。




「そんなジルが今のように厳しくもいつもわたくしを気遣ってくれるようになりましたのは・・・わたくしが幼い時病気でお母様を亡くした時からでしたわ」


「え?クラリスお母様亡くなってたんだ・・・ごめんね、辛いこと思い出させて・・・」


「お気になさらないで下さいませ。わたくしは大丈夫ですわ。確かにその時はとても辛く部屋に閉じ籠って泣いてばかりいましたわ。だけどそんなわたくしをジルが部屋から連れ出し元気付けてくれましたのよ」




その時の事を思い出したのかクラリスがふわりと頬笑む。




「その時ジルは、お母様のようにいなくならない。わたくしの側に必ずいると約束してくれたのです。そしてわたくしを側で守ってくれる為必死に勉強し執事となり、わたくしがこの社交界で強く生きていけるようにと厳しく時に優しくそして約束を守っていつも側にいてくれているのですわ」


「そうだったんだ・・・」




いつもニコニコと笑顔でいたからそんな過去があったなんて知らなかった・・・今はジルがいるからか元気そうだけど、もしクラリスの父親ファメルバ侯爵が捕らえられたらクラリスどうなるんだろう・・・。




今までファメルバ侯爵を捕らえる為証拠集めをしてきたが、娘であるクラリスの事を考えていなかった事に気が付いた。私は複雑な表情でクラリスに話し掛ける。




「・・・ねえクラリス。例えばだけど・・・もしクラリスのお父様ファメルバ侯爵が・・・何かの罪で捕らえられたら・・・どう思う?」


「・・・・」




私の話を聞いたクラリスは深刻な顔になり、考え込むように黙り込んでしまう。




「ご、ごめんね!急にこんな話・・・」


「構いませんわ!」


「え?」




私はクラリスを困らせたと思いこの話を打ち切ろうと話し出したのだが、クラリスは私の話を途中で遮るように声を張り上げた。


クラリスを見ると何かを決意した瞳で私を見ている。




「実はわたくし・・・お父様がサラお姉様にされている事に薄々気付いておりましたの。でも、あんな人でもわたくしのお父様。わたくしはお父様もお母様のように側からいなくなってしまう事が怖く何も出来なかったのです・・・サラお姉様ごめんなさい」


「クラリス・・・」


「だけどこのままではサラお姉様が、さらに危険な目に遭われてしまわれると思うと胸が張り裂けそうになりましたの。それにお父様をこのままにしておくのも本当は良くないと分かっていました・・・・・・お願いです!わたくしの事は構わず、お父様の為にもこれ以上罪を重ねない内にお父様を捕らえて下さいませ!」




目に涙を浮かべながら必死に訴えてくるクラリスに、私は思わず席を立ちクラリスを強く抱き締めた。




「サ、サラお姉様!?」


「クラリス・・・ごめんね・・・そのクラリスの願い必ず叶えるから。それに、私もクラリスを一人にしない!絶対どんな形になろうともクラリスを守るから!!」


「・・・っ!」




クラリスは私の言葉を聞くと、ポロポロと涙を溢しはじめ私の胸に顔を埋めて泣き出したのだ。私はクラリスが泣き止むまで髪を優しく撫で続けたのだった。






漸くクラリスが泣き止み、目元をハンカチで拭いてあげているとそこにジルが再び現れ、泣いていたクラリスに気付き私を鋭い目で見てくる。クラリスはそんなジルの様子に気付き慌ててジルに事の経緯を説明する。


ジルは最初侯爵を捕らえる話に難色を示していたが、クラリスの必死の説得と揺るがない決意に渋々納得し私に協力してくれる事になった。ただ、必ずクラリスを守ると言う絶対条件付きで。


その後、ジルから屋敷での侯爵の情報を色々教えて貰えたのだった。


そしてその話が終わった後、ジルは何かを思い出したように少し困った顔をして私を見てくる。




「ジル?」


「サラ様申し訳ありません。このような話をした後に大変申し上げにくいのですが・・・私が今この部屋に来ましたのは、旦那様がサラ様をお茶に招待したいと仰せ付かいましたもので・・・」




・・・ああ、とうとう直接対決か。




侯爵が何か企んでいると予想したクラリスとジルが私を心配そうに見てきた。私は安心させるようにニッコリと笑みを返す。




「分かった行く・・・二人共心配しなくても大丈夫だよ!私こう見えても色々強いから!」


「サラお姉様がお強いのは知っていますが・・・」


「大丈夫だって!私を信じて!・・・あ!そうそう、ファメルバ侯爵には私の力内緒にしておいてくれる?油断させたいから」


「・・・分かりました、お姉様を信じます。今までお父様にはお姉様のお力教えていませんので、これからも内緒に致しますわね」


「私もサラ様について聞かれましても、今までと同様何も知らないとお答えしておきます」


「クラリス、ジルありがとう!じゃあジル案内よろしくね」


「畏まりました」


「サラお姉様・・・お気を付けて」


「うん。クラリスまた今度ね」




私はそう言ってクラリスに手を振り、笑顔でクラリスの部屋を出ていったのだった。






それからジルの案内の下、ファメルバ侯爵が待つ部屋に案内され目の前に紅茶を用意された後部屋に侯爵と二人っきりにされる。


ジルが部屋から出ていく時、チラリと私の方を見てきたので私は侯爵に気付かれぬよう小さく頷き返しておいた。


そうしてニコニコと私を見てくる侯爵に笑顔を向ける。




・・・さて、これからが腕の見せどころだ!




そう心の中でやる気を出していたのだった。

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