序章2

私はここでようやく殿下の隣に並ぶ女性マリアンヌ嬢をちゃんと見た。


肩まで伸びたふわふわの茶色い髪に、クリクリとした大きな黒い瞳。私よりも少し年下ぽく見える小柄で庇護よくをそそる可愛らしい外見だった。


・・・ただ、こんなに可愛らしい外見の女性が殿下の隣に居たら絶対気付く筈なのに、私は一度もこの女性を見掛けた事が無い。


不思議に思いながらマリアンヌ嬢をじっと見つめていると、怯えたように目を潤ませながらこちらを見てきた。


その様子に殿下は気付き、マリアンヌ嬢を庇うように前に立つ。




「マリアンヌ嬢を怯えさせるな!・・・大丈夫だマリアンヌ君の事は私が守るよ」




そう言って、優しい微笑みをマリアンヌ嬢に向け手を握る。




あ~完全に二人の世界に入っててこれはもう何を言っても無駄そうね。




苦笑しながら二人の様子を見ていると、




「サラスティア、君をこれ以上マリアンヌ嬢に近付ける訳にはいかない!今までのマリアンヌ嬢への罪により、君には身分剥奪と国外追放を命ずる!」




さすがにこの殿下の発言に、成り行きを見ていた貴族達が驚きざわめきだす。




「・・・身分剥奪・・・国外追放・・・」




私は呆然とそう呟きながら思った、




これは願ってもないチャンスだ!これで、煩わしい貴族生活にもおさらば出来るし、国外に出れば知人の目も気にしなくて良いから庶民になり自由になれる!!なんて素晴らしいんだろう!




そう思ってると、目の端にお母様と一緒に来てたお父様が凄い形相で私達を見てるのが見えた。ちらりと国王様も見てみると厳しい表情で殿下を見ている。




・・・これはまずい。今この二人に口を出されると私の庶民生活への夢が消えてしまう!先手を打たなければ。




意を決して殿下を見つめ




「・・・慎んでお受けいたします」




そう言って淑女の礼を取り、踵を返して会場から出て行った。




すぐに公爵邸に戻り、あまりに早い帰宅に驚く使用人達を他所に一人にして欲しいと言って自室に入った。




・・・このままぐずぐずとここに居れば、絶対お父様に家を出ていくのを止められてしまう。行動するなら今すぐでないと!




そう思い机に向かう。置き手紙を残すべく便箋を取り出し家族や友人、使用人達に迷惑をかけた事を謝る言葉と今まで育てて貰った感謝の言葉、そして最後に探さないで欲しいと一言添えて封筒に入れて机の上に置いた。




なるべく目立たない服装に着替え、必要最低限の荷物とお金を持って誰にも気付かれない様にこっそりと屋敷を抜け出し、乗合い場で馬車に乗り闇夜に紛れて王都を出て行ったのだった。


そして馬車の中から遠くなる王都を見つめ私は思う、




『私、令嬢辞めて庶民はじめます!』

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