暗殺者

────数刻後。




「はい。これが最後だよ」




最後の毒入り瓶をジークに手渡す。ジークの手には瓶の山が出来ていた。


私はその量を見てから、机の上に山積みになっている茶葉の缶を見比べ納得する。




「やっぱりこの毒殺は私だけを狙っていたみたいだね」


「・・・どう言う事だ?」




やっと落ち着いたジークが不思議そうに聞いてきながら、持っていた瓶をアンナさんに預けアンナさんがそれをワゴンに乗せた。ゼクスも興味深く私を見てくる。




「全部私専用に用意されてた茶葉にのみ毒が入っていたから。とりあえず他の人達の茶葉には一切入っていなかったから安心して」


「・・・では、やはりこれは」


「間違いなく侯爵の差金だろうね」


「・・・・」


「とりあえずジーク、その毒を専門家に解析お願い出来る?毒かどうかは分かるけど、それが全部同じ毒かどうかやどんな毒かはさすがに分からないからさ」


「・・・分かった。至急調べさせよう」


「どうも特殊な毒っぽいから出所が判れば証拠になるかもね。あと、衛兵に差し入れを持って来た人も怪しいからそっちも調べた方が良いかも」


「それは既に秘密裏に調べさせている」


「そっか、ならそれらが分かるまで後は暫く毒殺に気を付けるぐらいかな」


「もう二度と絶対毒が仕込まれ無いよう厳重に監理させるからな!」




ジークが決意を込めて真剣な顔で言ってきた。


その時今まで黙っていたゼクスが声を掛けてくる。




「・・・しかしサラ、そなたのその魔法初めて見る魔法だった。そんな魔法魔族でも使える者がいない」


「確かに魔法省の者でもそんな魔法使えると聞いた事はない」


「まぁ~普通の人では絶対出来ないだろうね。数種類の魔法を混合させた物だから」


「魔法の混合!?」


「ほぉ・・・」




ジークは驚きの声を上げゼクスは感慨深げに見てくる。チラリとアンナさんを見ると目を丸くして絶句していた。




「魔法省でも稀に二種類の属性魔法を使える者はいるが、同時に使う事は不可能だ・・・サラ、一度聞いてみたかったのだが君はいくつ属性魔法が使えるんだ?」


「う~ん・・・七かな」


「七!?この世界の基礎属性全てじゃないか!?」


「そうなるね。ちなみにさっきの魔法には風、水、土、火の魔法を使ってるから。あと主に攻撃の時に雷の魔法使ったり治癒に光魔法でしょ?闇魔法は隠密行動する時や幻覚を見せる時に使うかな?後はその時々によって色々応用してる」


「・・・・」




それを聞いたジークが絶句し唖然と私を見てくる。




「ククク・・・やはりサラは面白い」


「ゼクス、私別に面白い事言ってないけど?」


「いや、この数百年生きてきた中でそなたほど我を楽しませてくれる者はいなかったぞ。やはりますますそなたが欲しくなった」


「なっ!?サラは絶対誰にも渡さん!」




ジークがゼクスを睨み付けながら私を腕の中に隠すようにギュッと抱き締めてきた。


暫く余裕の表情のゼクスと鋭く睨むジークの、無言の睨み合いが続き私は小さくため息をつく。




「ほらほら、今はこんな事してる場合じゃ無いよね?とりあえず今後の対策を話し合うよ」




そう言ってなんとかこの場を収め、その後対策を話し合い解散したのだ。




ちなみに私の混合魔法や七属性の事は他の人に言わないでとお願いしておいた。特にあの魔法馬鹿集団の魔法省には絶対内緒でと強く念を押しておく。




・・・この事バレたら絶対面倒な事になる!!




ジークが察したようでちょっと同情するような顔を私に向けてきていた。






その後ジークの厳重監理命令のお陰か私の食事に毒が盛られる事は無かったのだ。一応念のためと改良版純銀食器を使っておいたけど特に変色する事は無かった。




多分これで毒殺は無理だとあちらは判断しただろうから、次に仕掛けてくる事と言ったら・・・。






────人々が寝静まった深夜。




ベッドに忍び寄る黒い影。その手には抜き身の短剣が握られていた。


黒い影はベッドサイドに立つと、シーツに包まり穏やかな寝息を立てている人物を確認する。


そして徐に短剣を振り上げると勢いよく寝ている人物に降り下ろす。




バキィーーーーン!!




短剣がその人物に届く直前、見えない何かに阻まれ短剣が激しく弾かれる。






私は瞬時に目を開き、シーツを剥ぎ取ると枕の下に隠していた短剣を鞘のまま振り上げ影が持っていた短剣を弾き飛ばす。




「・・・っ!」




影は驚愕に目を見開くがすぐ表情を無くして踵を返し、凄い速さで進入してきた窓に向かって走り出した。


私は足に風の魔法を掛け一気に跳躍し影の前に躍り出る。


突然目の前に現れた私に影は驚き動きを止めたのでその隙を突いて両肩に手を置く。そして私は影にニッコリと笑顔を向け手から気絶する程度の雷を流す。




「!!!!」




影は白目を剥きその場に崩れ落ちた。




・・・やっぱり毒殺の次は暗殺だよね~。




私は掌に光の珠を出し影にかざす。




「あれ?この格好・・・」




光に照らされた事でまず影は男だと認識出来たのだが、その男の格好に見覚えがあったのだ。


その男は目元以外全身黒い装束で身を包んでいた。


私はすぐにこの黒装束の事を思い出す。




確かこの黒装束ってクロード王子お抱え暗殺集団の格好だったはず・・・。




私はその男を見つめながら考えに耽り、そして徐に暗闇に目を向け声を掛ける。




「ゼクスそこにいるよね?」




そう私が声を掛けると暗闇からスッとゼクスが姿を現した。




「・・・よく気が付いたな」


「瞬間移動じゃ無ければ気が付くよ。私は闇の魔法も使えるからさ」


「そうだったな・・・それでその男は?」


「多分侯爵に雇われたと思われる暗殺者だよ。ただこの黒装束の格好は、ジークの弟でだいぶ前起きた事件によって王子の身分を剥奪されたクロード元王子のお抱え暗殺集団の格好と同じなんだよね。そしてその事件でこの黒装束の暗殺集団は全員捕まった筈だったんだけど・・・多分残党がいてそれを侯爵が雇ったんだと思う」


「なるほど・・・」


「まあとりあえず、予想通り私に暗殺者を差し向けて来たから、ゼクスこれから予定通りにお願いね」


「ああ、我に任せておけ。そなたを襲いに来る暗殺者を闇に紛れて捕まえておいてやろう」


「・・・絶対殺したら駄目だから」


「分かっておる。そなたとの約束を破って嫌われたく無いからな。ただ・・・こやつらの口を割らせる為多少痛い目を見てもらうかも知れんが」


「・・・程々にお願いします」


「一応リカルドには伝えておこう、こう言うのはあやつの専門だからな」




そう言ってゼクスは気絶している黒装束の男を肩に担ぎその姿を消した。


私はその消えた場所を複雑な気持ちで見つめつつ、自分の回りに張っておいた障壁をそのままに再びベッドに潜り込んで眠りに就いたのだった。

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