練習試合
次に私は軍の訓練場に来ている。
私の隣には威厳ある顔を作っているが目が嬉しそうに見えるビクトルが立っていた。
「よしお前ら!今日はサラ様が我が軍の視察に来て下さっている。気合い入れて励めよ!」
ちなみにカルロスとビクトルにはちょっと問題があるので名前を『サラ』と呼ぶようお願いしていた。
ビクトルに激を飛ばされ騎士達は皆気を引き締めた顔になってはいるが目には戸惑いの色が見える。
・・・まあ普通上官に言われたからって、パッと見ただの男装した娘に敬意を払えるわけないよね。それに多分前の戦いに参加した人もいるだろうけど、その時私殆ど上空で飛んでたし地面に落ちた時も剣は使わない内にゼクスに連れていかれたから私の実力知らないんだろうな~。
そう思いどうしたものかと苦笑していた。
そしてビクトル指導の元訓練が始り、騎士達は一心不乱に練習用の剣で素振りを始めたのだ。
私はそれをボーと見ているとビクトルが近付いて来た。
「どうでしょう?我が軍の訓練の様子は?」
そう聞いてくるビクトルに私は困った表情を見せ正直に答える。
「ごめんなさい。実は私の剣の腕は義弟の剣の特訓を盗み見て自己流で習得した物なんです。だからちゃんとした訓練を見ても良いかどうか分からないです」
「なんと!?・・・しかしそれであの実力とは・・・それならば!」
ビクトルは驚いた表情をしたが、すぐに考え込みそして何か思い付いたのか笑顔で私を見てお願いしてきた。
そうして今私は訓練場の中央で立っている。
どうしてか一対一の練習試合をさせられる事になったのだ。
何故こうなったーーーー!!!
ギロリとビクトルを睨むが、ビクトルは気にする様子も無くむしろ子供のようにワクワクとした表情で見てくる。
そんなビクトルに私は諦めのため息を吐き周りを見回す。
周りにはビクトルの指示で騎士達がグルリと訓練場を囲み、みんなそれぞれ戸惑いと不安と私に対しての哀れみと心配の表情をしていたのだ。
そのみんなの表情に苦笑しつつ私は正面を向き対面に立つ一人の騎士を見た。
この騎士はビクトルの推薦だ。この軍の中ではビクトルに次ぐ実力の持主だそうで隊長を務めているらしい。
しかし騎士の顔を見ると明らかに困惑しているのがハッキリと分かる。
・・・まあいきなり騎士でも無い、それも女性と試合をしろと言われても困るよね。
私はその騎士に同情しつつも仕方なく刃の潰してある練習用の剣を構え騎士に声を掛ける。
「あ~どうもやらないと終わらないみたいなので、とりあえず私の事は男だと思って掛かって来て下さい」
「しかしそれは・・・」
「・・・はぁ~じゃあ私から行きますよ。本気出さないと怪我するかも知れないので気を付けて下さいね!」
「なっ!」
私はそう言うや否や、地面を蹴り一気に間合いを詰め騎士の腹を狙って剣を凪ぎ払う。しかしさすがビクトル推薦の騎士だけあってすぐに反応し、私の剣を自分の剣で受け止めそして剣を捻って跳ね返してくる。私はすぐさまその場で飛び上がり後ろにクルリと反転して飛び退いた。
騎士は突然の事に一瞬呆気に取られていたが、すぐに私の実力が分かり真剣な表情になって剣を構え直してくる。
そして今度は騎士の方から向かってきた。
私の間合いに入ると剣を上から降り下ろしてきたので、それを剣で受け止めつつ横に流して騎士の横に移動する。そしてその勢いのまま下から上に剣を振り上げるが騎士は横に飛び退き間一髪の所で避けたのだ。
暫く一進一退の激しい攻防が続き騎士の顔を見ると額に冷や汗をかき呼吸が荒くなっているのが見えた。
私はそれを余裕の表情で見ながら、そろそろ決着つけないと騎士の体力が保たないと思い一気に動きを早める。
目に見えぬ速さで騎士の懐に入ると、騎士が持ってた剣を自分の剣で遠くに弾き飛ばし腹に膝蹴りを入れその場に膝を付かせその喉に剣先を突き付けた。
「そこまで!」
ビクトルの鋭い声が響き私は持っていた剣を下ろす。そして一歩下がって礼をした。相手の騎士もすぐに気付き腹を押さえながら落ちていた剣を拾って私に礼を返してくる。
そうして辺りは一瞬静寂に包まれたが、次の瞬間ドッと歓声が上がると同時に興奮した他の騎士達が私達を取り囲んで来た。
私はこの光景に再び既視感を覚えとても嫌な予感がする。
「サラ様!お願いです!俺に剣の稽古をつけて下さい!」
そう一人の騎士が声を上げると他の騎士達も口々に声を上げ始めた。
・・・やっぱりお前達もかい!!この脳筋馬鹿共!!!
私は頭を抱えて唸りながら結局その後面倒だったので、もう一度と言ってきた先程の騎士も混ぜ一遍に全員を相手にしその場に伸したのである。ただみんな一様に満足そうな顔で倒れていたのだ。そして案の定その中にビクトルも混ざっていたのだった。
結局この後も呆れた表情のお城の人を呼び、騎士達の事を任して部屋に帰るべくその場を後にしたのだ。
そして部屋への帰り道、城の廊下を歩いているとそこでバッタリと執事のジルを連れたクラリスに出会う。
「サ、サラお姉様!?」
「あ、クラリスとジル久し振り~」
「サラ様お久し振りです」
「お、お久し振りですわ。しかしそのお姿はどうなされたのです?」
「姿?ああこの騎士の格好か」
ジルは相変わらず涼しい表情をしていたが、クラリスは酷く動揺しながら私をじろじろ見てくる。
「さっきちょっと軍の訓練を見学させて貰ってて、動きやすい恰好になりたかったからこの服を着てるんだけど・・・変かな?」
「いえいえいえいえ!とてもお似合いで素敵です!!・・・・・・まるで私の持っている本からそのまま抜け出して来たような・・・」
なんか最後の方は独り言のように小さく呟き、胸の前で両手を握り締め頬を赤く染めながら惚けた表情で私を熱く見つめてくる。
「ク、クラリス?」
「・・・・」
私はクラリスの目の前に手を振って気付かせようとしたが、全然戻ってきてくれないので困った表情をジルに向けると、ジルは一つ大きなため息をついてクラリスの腕を取った。
「サラ様申し訳ありません。こうなったお嬢様は暫く正気に戻らないのでこのまま私がお連れします。お嬢様から別れの挨拶も無しで大変申し訳無いのですがこれで失礼致します」
そう言ってジルはまだ惚けた表情のままでいるクラリスを連れて去っていったのであった。
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