婚約者

「私とマリアンヌは、君と婚約解消をしてからすぐに婚約した」


「まあ、そうでしょうね」




あんな二人の世界を作ってたような二人だから当然でしょう。




「しかし、マリアンヌは私と婚約が成立してから変わった・・・いや本性を出してきたのだろう」


「本性?」


「マリアンヌは婚約者の立場を利用し、豪華なドレスや宝飾品を買い漁るようになった。私は最初のうちはマリアンヌが喜ぶならと好きにさせていたのだが、だんだん行動が酷くなり他の貴族や使用人を見下し罵るようになっていった」


「・・・・」




あの舞踏会で見たふわふわで可愛らしいマリアンヌ嬢を思い出し、あれは猫を被っていた姿だと思うと・・・ちょっと怖!!




「さらに半年後に婚姻する為、急ぎ王妃教育を受けてもらおうとしたのだがそんな面倒なものはやりたくない!と拒否。流石にこればかりは私も受けるように勧めたのだが、政はユリウス様にすべてお任せするのでわざわざ受けなくて良いでしょ?私はずっと後宮に居ますわと言われてしまったのだ」




ある意味マリアンヌ嬢凄いな・・・。




その時の状況を思い出したのか、殿下や他の二人も厳しい表情をしている。




「これは何かおかしいと思い、内密にマリアンヌの身辺を探らせてみて驚く事が分かったのだ。彼女から聞いてた生家には何十年も人が住んでいないであろうボロボロの家があり、周辺住民に聞いても誰もマリアンヌの事を知らないと言う。さらに他にもおかしな点がいくつもあった為これを直接本人に問い詰めてみたら・・・」




そこで殿下は一旦言葉を飲み、強く手を握り合わせる。


私は話し出すのを黙って待った。




「・・・いきなり姿が醜い化物に変わり正体を現した!マリアンヌは魔族だったのだ!」


「魔族!?」




魔族は確かにこの世界には存在すると聞いた事があったけど、ほとんど人間の前には現れなかったのであまり実感が無かった。




本当に居たんだ・・・。




「正体を現した魔族に、私やアランや国の騎士達でなんとか深手をおわせたのだが、止めを刺す前に逃げられてしまった」




その顔は凄く悔しそう。




ただ、そんなに大勢で戦っても止めを刺せないってどれだけ魔族は強いんだ・・・。




「全てが終わってふっとサラスティア、君を思い出した」


「私を?」


「あのマリアンヌは、本当にサラスティアに嫌がらせを受けていたのかと」


「・・・・」


「そこで君の父上アズベルト公爵に話を伺いに行ったら、やっと来たのかと厳しい目で見られ小言を沢山言われた後に真実を教えられたよ」




お父様、あの時凄い形相だったからだいぶ怒っていたんだろうな~。




「君は屋敷以外は基本的にアズベルト公爵の護衛がいつも一緒に居たらしいね?その護衛の話では君とマリアンヌは一度も会った事が無かったそうだね」


「・・・ええ、ユリウス殿下と一緒の所も一度も見掛けた事が無かったので、あの舞踏会で初めてお会いしました」


「・・・だから、あの時身に覚えが無いと・・・なのに私は・・・っ」




ガタッ




「サラスティア!君には大変申し訳無いことをした!本当にすまない!」




勢いよくソファから立ち上り、私に向かって深々と頭を下げてきた。




「で、殿下!?あ、頭を上げてください!私の様な者に頭を下げないでください!」




慌てて私もソファから立ち上り、必死に頭を上げて貰う様説得する。




「すまない!全て私が悪かったのだ。許して貰えるまで頭を上げる事など出来ない!」


「・・・・」




正直私全然怒ってないんだよね。むしろ、庶民になれたからあの出来事には感謝してるぐらいなのに・・・でも、これは許す言葉を言わないとずっとこのままだろうな。はぁ~。




「・・・もう良いですよ。許します。殿下も自分で決めた婚約者が魔族だったりして痛い目をみてるでしょうし、十分反省してる様ですので。ただ、今後の為にももうこの様な事は無いように気を付けてくださいね」


「っ・・・ありがとう!そしてもう二度とこの様な過ちを犯さないと誓おう!」




顔を上げて真剣な表情で私に誓う。




まあ、今回の事で殿下も成長された事だろうしあの国の将来も安心かな。




「では話も終わった様ですし、私は明日の仕込みがあって忙しいのでこれにてお開きにして宜しいでしょうか?」


「いや、まだ話は終わってない!むしろこれからが重要なんだ」


「え?」




ユリウス殿下は私の前で膝まづき、私の右手を取り真剣に見上げてきた。




「サラスティア、君の身分剥奪と国外追放を取り消しにする。私達と一緒にグランディア王国に帰ろう。そして、君が許してくれるのであればもう一度私と婚約して欲しい!マリアンヌの件で君が私にとってどれだけ大切な人だったか気が付いたのだ」




そう言って、ユリウス殿下は私の手に口づけを落とそうとする。




「義姉さん、別に婚約はしなくて良いからね」




殿下の口づけを止めるかの様にヒューイが口を挟む。


ヒューイの方を見ると、隣のアラン様もこちらを見つめて首肯く。


そして、ヒューイはこちらに近付き殿下から私の手を取り上げた。殿下はそんなヒューイを睨み付ける。




「義姉さんはそのまま家に帰って来るだけで良いよ。父上もそれで良いと言ってたしね。結婚も無理にしなくて良いよ。僕が頑張ってアズベルト家を継ぐから、義姉さんはずっと僕と一緒にアズベルト家で暮らせば良いからさ」




殿下を無視してヒューイが私を見つめる。




「・・・君の事は必ず守る、一緒に帰ろう」




いつの間にか近くに来ていたアラン様も。




・・・身分剥奪と国外追放の取り消しで国に帰る?そうなると、また貴族生活に逆戻り・・・冗談じゃ無い!!折角庶民になって、自由を得て夢だった店も持てたのに!




私は数歩下がり三人を見回してゆっくりと微笑み、そして、




「全てお断りします!」

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