帰郷

不安な夜を過ごした次の日の朝、外で開店準備をしている時にジークフリード様達がやって来た。みんないつもの貴族の服装では無く軍服を着ている。そして四人から少し離れた所に軍隊が待機しているのが見えた。




「サラ、俺達はこれから支援物資の輸送と援軍を率いてグランディア王国に向かう事になった」


「私もグランディアの王太子として城に戻り指揮を執らねばならない」


「僕も一緒に戻る事にしたから。これでも一応宰相の息子だからさ。父上達の事は戻ったら詳細を手紙に書いて送るよ・・・義姉さん、絶対大人しくしててね!」


「・・・オレも近衛騎士隊長だから」


「みんな・・・」


「そんな不安な顔をしないでくれ。大丈夫だ、君の家族も王都の民もみんな俺達が必ず守るから、だから安心してここで俺達の帰りを待っていてくれ」




そう言ってジークフリード様は私を優しく抱きしめてくる。


その温もりに少し不安が取れた様な気がした。




「ジークずるいぞ!私も」


「僕も!」


「・・・・」




それぞれ私を抱きしめていく。・・・アラン様だけちょっと躊躇していたので、この際仕方がないと私から抱きついてあげた。周りからずるいと聞こえたがそれは無視する。




そうして四人はそれぞれ馬に乗り軍隊を率いて出立して行ったのだった。






────ジークフリード様達がグランディア王国に向かってから一週間。




その間に、ヒューイから王都の状況報告の手紙が届いていた。


今回の魔族襲撃で一番被害を受けたのは、王都でも外側にある平民の家々だった所だ。そこは王城から一番遠いため城からの騎士の到着が遅れ被害が大きかったらしい。家屋は壊され怪我人が多数出たとか。今は城の一部を解放してそこを避難場にしている。


お父様達の住んでいた貴族の家々は王城に比較的近かった為そこまで被害が酷くなかったと。なので、お父様もお母様も屋敷に居た使用人達も無事だと書いてあってホッとした。ただ、犠牲になった人達がいると思うと胸が痛い。


魔族は兵達の必死の応戦によりなんとか追い返す事は出来たらしいが、上層部の考えでは多分今回の襲撃は相手の力を見る先方隊で後に本隊が来るだろうと。


今はその本隊とどう戦うかで連日協議が続いているらしい。


最後に、絶対大人しくする様にと念押しの言葉が書いてあった。




・・・ある意味ヒューイは良く私の事を分かっている。しかし、私がその言葉で大人しくしていると思っているなら、やっぱり分かっていないのかも。




私はそう思いながら店の入口に、事情があり暫く店を休む事を書いた紙を貼り付けた。






─────グランディア王国王都内。




私は約1年ぶりぐらいの王都に足を踏み入れあまりの惨状に絶句した。


美しかった街並みは今は見るも無惨な姿に。崩れ落ちた家々や焼け落ちて原型を留めていない建物。焦げた臭いが鼻に付く。


そして、街の人は城に避難している事もあり辺りに誰も居なかった。


私はこの光景を目に焼き付け、懐かしい『我が家』に向かった。






久しぶりの我が家、アズベルト公爵邸の門前で足を止めた。


こうして改めて見るとどの屋敷よりも大きい。しかし、魔族の襲撃に依るものか外壁の一部が崩れ落ちていた。他の貴族の屋敷も一部壊れているところが多々ある。


私は勝手に出ていった手前、なかなか中に足を踏み込む事が出来なかった。


しかしいつまでもここに居るわけにもいかないと意を決して中に入り玄関の扉を開く。




「・・・た、ただいま・・・」




そりゃ、声が小さくなるのは仕方がないじゃないか!




「お、お嬢様!?」


「あ、じいやお久しぶりです・・・」




扉が開いた音に気が付き初老の執事が現れた。


この執事は今は亡きお祖父様の代から公爵家に仕えてくれている、ベテランの執事で私は昔からじいやと呼んでいる。




「お嬢様お元気そうで何よりです。・・・少し痩せられましたか?」


「そんなに変わって無いと思うけど?でもじいやも元気そうで良かった」




私達の話し声が聞こえたのか、奥から次々と懐かしい顔の使用人達が現れた。みんな私を見ると驚きそして泣き出す者までいる。




「みんなも元気そうで良かった・・・」


「サラスティア!?」


「・・・お母様」




屋敷の中央にある大きな階段の一番に立って、私を驚きの表情で見下ろしてきたのはアズベルト公爵夫人にして私のお母様。


お母様は急いで階段を降りてきて私を抱き締めた。




「あぁ、サラスティア!本物なのね?ヒューイの手紙からあなたが元気でいる事は聞いていたけど実際のあなたに会えて本当に良かった」


「・・・お母様ごめんなさい、ご心配お掛けしました」


「本当に元気そうで良かったわ」




そう言って体を離し微笑んだお母様の目には涙が。私も目がうるうるしているのが分かる。




「だけど、ヒューイの話ではあなたは暫く戻って来ないと聞いてるわよ?それもこの魔族に襲われた危ない時だから絶対帰って来ないように言ってあるとも・・・」


「お母様、今お父様とヒューイは城に居るんですよね?」


「えぇ、二人とも連日城に泊まり込んで話し合いをしているそうよ」


「・・・その事でお母様にお願いがあってここに来ました」


「お願い?」


「ドレスを貸して下さい!」




私は直接魔族戦の話し合いをしている城に行きたかったのだが、さすがの私も庶民の服装で城の奥に行くわけにもいかず、丁度お母様達の様子も見たかったのでドレスを借りるつもりで先に屋敷に来たのである。

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