婚約者問題編

令嬢との出逢い

私は今アルカディア王国の王都に買い出しに来ている。


ここには紅茶用の茶葉を売っている行きつけの店があるからだ。


そして私は今回も値切り用に作ったマドレーヌを持ってそのお店に向かっていたのだった。






今回も茶葉の値段交渉は上手くいき満足した顔で店から出て通りを歩き出した時、突然横の路地から飛び出して来た人物とぶつかって尻餅をついてしまう。




「っ・・・痛~~」




尻餅をついた時に少し掌を擦ってしまい痛がりながら、ぶつかって来た人物を確認した。


そこには私と同じように倒れている女性がいたのだ。


女性はフード付きのマントを被っていたがその隙間から貴族が着る上質な外出用のドレスが見え、そして今の衝撃でフードがズレたようでそこから金色の髪が見えた。顔をよく見ると少し涙に濡れた青い瞳が見えその顔立ちは私より少し年下のようで可憐な美少女だったのだ。




うわぁ~凄く可愛い!!




見惚れていると彼女はハッとした表情になり私を見て慌てた。




「ご、ごめんなさい!大丈夫でしたかしら?」


「ああ、うん。大丈夫だよ。貴女こそ大丈夫?」




私は起き上がりながら密かに掌に治癒魔法を掛け擦り傷を治し、まだ倒れている彼女に手を差し伸べて起こしてあげる。起こしてあげた事で彼女は私より背が低く小柄な事が分かった。




「はい。わたくしも大丈夫・・・っ!」


「どうしたの!?」




彼女は右手首を押さえて痛がっていた。どうやら倒れた時に捻ったようだ。




「こ、これくらい平気ですわ」


「ほら、強がってないで見せて」




私は彼女の右手を優しく取ると手首に手をかざし治癒魔法で治してあげた。




「まあ!もう痛くありませんわ!」


「それは良かった」


「・・・っ!あ、ありがとうございます」


「いえいえ。そう言えばなんか急いでいたみたいだけど?」


「あっ!」




ちゃんと痛みが無くなった事に安堵し彼女に微笑むと、何故か私の顔を惚けた表情で見て顔を赤らめていた彼女が私の言葉にハッとし出てきた路地を振り返る。


私もつられてその路地を見るとその奥から柄の悪そうな男が数人こちらに駆けてきているのが見えた。


彼女の方を見ると怯えた表情でその男達を見ていたので、私は咄嗟に彼女を後ろに庇い路地から出てきた男達と対峙する。




「なんだお前?邪魔だそこを退きやがれ!」


「・・・彼女に何の用?」


「あぁ?その娘を使って金持ちの実家から身代金をたんまり貰うんだよ!庶民のお前には用は無い。痛い目みたく無けりゃその娘を置いてとっとと失せな!」


「・・・・」




・・・要は身代金目的の誘拐ね。どこの世界でもこう言う人はいるもんなんだな~。




私はため息を溢しながら男達を鋭く見据える。


男達は私が退かないと分かると腰から短剣を引抜き怒気を露に私に襲い掛かってきた。


私はまず後ろにいる彼女に危害が及ばないよう彼女の回りに障壁を張り、短剣を突きつけて向かってきた男を軽く交わしその腕を掴んで短剣を叩き落とす。そして腕を掴んだまま男を勢いよく後ろに投げつけ向かってきていた別の男にぶつける。二人の男はぶつかった勢いのまま壁に激突しそのまま意識を失う。あっという間の出来事に残りの男達が呆然としている隙に落ちている短剣を素早く拾い、すぐさま男達の懐に入って持っている短剣を次々と拾った短剣で叩き落としていった。そして一人の男の首元に刃を当て空いた掌の上に炎の球を出して男達を見回す。




「・・・どうする?まだこれでも彼女を狙う?」


「ひっひぃぃーーーーー!!」


「すみません!もうしません!!」




そう口々に叫んだ男達は気絶した仲間を連れ逃げ去っていったのだ。そして漸くこの騒ぎに気付いた衛兵達が来たので拾った短剣を渡し、私から状況説明を聞いた後男達を追って路地に駆け込んで行った。




・・・これは今度ジークに街の警備を強化してもらわなくては。




そう思いながら呆然としている彼女に、安心させるよう笑顔で振り向き障壁を解く。




「なんか大変な目にあってたみたいね・・・・・・大丈夫?」


「・・・・・お姉様」


「え?」




また惚けた表情で頬を染めながら呟かれ思わず聞き返す。


しかし私の声に我に返ったのか表情を改め被っていたフードを取った。


するとフードで隠れていた髪がバサリと広がり背中まである艶やかな金髪が現れたのだ。


その姿に改めて美少女だ!と思いながら彼女を見てると、彼女はスカートの裾を摘まんで貴族の礼をしてきた。




「危ないところを助けて頂きありがとうございました」


「そんな改まってお礼なんて良いよ。それよりも見たところ結構良い所のお嬢様のようだけど何でこんな所に一人で?」


「そ、それは・・・」




私が不思議そうに聞くと彼女は視線を彷徨わせ言い淀んでしまった。するとその時私達のすぐ近くに一台の馬車が止まり中から黒髪に紫の瞳の美貌な男性が降りてくる。その男性は片眼鏡に燕尾服を着て白い手袋を嵌めていた。その姿はどう見ても執事なのだが私の実家にいる執事のじいやと違い若い。多分ジークと同じか少し上ぐらいの年齢だと思うけど凄く落ち着いた雰囲気の人だった。




「お嬢様こちらにいらしたのですね。随分お探ししたのですよ?」


「ジル!!」


「どうせお嬢様の事ですから例の書物をお買い求める為勝手に屋敷を抜け出されたのでしょうが・・・もっと侯爵令嬢としての自覚を持ってください」


「・・・ごめんなさい」


「・・・え~と」




完全に私を無視し目の前で説教が始まってしまったので、どうすれば良いか困惑して思わず声を掛けてしまった。




「あ、申し訳ありません。そう言えばまだ名前を名乗っていませんでしたわね。わたくしの名はクラリス。クラリス・ファメルバと言います。クラリスとお呼びください。そしてこちらが・・・」


「ファメルバ侯爵家に仕える執事のジルと申します。どうやらお嬢様が貴女様に大変お世話になったようでありがとうございます」


「そんなお世話なんかしてませんよ・・・やっぱり良い所のお嬢様だったんだね。あ、私の名前はサラと言います」


「・・・サラお姉様・・・」


「クラリスさん?」


「わたくしの事はクラリスと呼び捨てでお呼び下さい」


「え?じゃクラリスさっきから顔が赤いけど大丈夫?」


「・・・サラお姉様がわたくしをクラリスと・・・良いですわ~」


「・・・・」




クラリス~!なんかどっかに意識飛んでますけど戻ってきてーーー!!それにさっきからお姉様って何!?




両手を胸の前で握り締め、完全に意識がどこかに行ってしまっているクラリスを困惑しながら見ていると、隣にいたジルがクラリスを見て大きなため息をつきそしてクラリスの腕を優しく取って馬車の方に歩き出した。




「さあお嬢様。今日は大事な夜会があると旦那様から言われていますよね?」


「あ!そうでしたわ!・・・サラお姉様ごめんなさい。まともにお礼も出来ずに・・・でも急いで戻らないとお父様に怒られてしまいますの」


「私の事なら気にしなくて良いよ。気を付けて帰ってね」


「はい!本当にありがとうございました。このお礼はいずれ必ず致しますわ」




そう言ってクラリスは馬車に乗り込み、ジルは一度私に頭を下げてからクラリスに続いて馬車に乗り扉が閉まるとそのまま馬車は走り去ってしまう。


私はその馬車を見送りながら嵐のような出来事だったな~と思っていたのだった。

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