断罪

私がジークに証拠品を渡してから数日後。




ジークと共にとある部屋に入っていく。


そこには戸惑った表情のファメルバ侯爵と数人の貴族の男達が待機していた。




「ジークフリード殿下!これは一体?私は婚約者の件で話があると伺って来たのですが・・・この方々も一緒とは・・・」




そう言ってチラリと他の貴族を怪しげに見る。




「俺はファメルバ侯爵を始めそちらの方々にも用があったのだ」


「ご用・・・とは?」


「俺が愛する恋人、サラに対しての暗殺行為についてだ。・・・ファメルバ侯爵身に覚えがあるはずだろう?」


「なっ!!わ、私はそんな事は・・・」


「誤魔化しても無駄だ!ここに数々の証拠がある」




そうジークが言って、側に控えていたルカからいくつかの書類を受け取った。


そして、それを侯爵に見せ付けるように目の前に掲げる。




「これには侯爵がサラに使った毒薬成分の解析とその出所が記載されている。そしてこっちは侯爵が暗殺組織にサラを暗殺するよう依頼した書類だ。ここにはしっかりと侯爵のサインとそこにいる貴族のサインが書いてある」


「くっ!?そ、それは・・・」




まだ抵抗を見せようとしている侯爵に対し、後ろの貴族達は顔を青ざめその場に座り込んでいる。


その時ジークの隣に突如ゼクスが姿を現す。そしてそれに続くように、ボロボロになって縛られている三人の黒装束の男達が地面に座った状態で出現した。




「この男達がお前に雇われたと口を割ったぞ?」


「なっ!お前は一体!?」


「この者はゼクス、魔族の王だ。今グランディア王国と和平条約を結んでおりサラの為密かに動いてくれていたのだ」


「ま、魔族の王だと!?」


「ふん、我の事など今はどうでも良かろう?それよりも・・・おいお前達。誰に雇われたかその口からもう一度この場で話せ」


「「「・・・・」」」




ゼクスは侯爵を軽く鼻で笑った後、地面に座り込んでいる黒装束の男達に声を掛けるが誰も声を出そうとしない。


するとそんな男達の近くにリカルドが姿を現した。男達はリカルドに気付くと途端に顔を青ざめ体が震えだしたのだ。




「ゼクス様を煩わせるなど・・・もう一度聞きます。雇い主は誰ですか?」


「「「ファ、ファメルバ侯爵です!!!」」」




リカルドの冷たい眼差しに恐怖の表情で三人同時に声を上げた。




・・・あのゼクスでも口を割らなかった男達が、リカルドが来ただけであんなにあっさり喋るなんて・・・一体リカルド男達に何をしたの?




私が疑問に思ってリカルドを見ると、リカルドが私の視線に気付き意味ありげに薄く笑ってきたのだ。




ひっ!こ、怖!!!




これは聞かない方が身のためだと悟り、もうこの事については考えないようにした。






目の前でさらにジークが侯爵を問い詰めているのを黙って見ていると、静かに部屋に入ってきたアンナさんが私に近付き耳元で言付けをしてくれる。私はそれを聞いて小さく頷き、そしてアンナさんに指示を出すとアンナさんは無言で頷き返しまた静かに部屋から出ていったのだ。




「ファメルバ侯爵もうここまでだ!」




ジークのその声に、私は再び侯爵を見ると悔しそうにジークを見ていた。しかし、その視線が私に向くと怒りに眉がつり上がり激しく私を睨んできたのだ。




「私は認めませんぞ!!そんなただの庶民の娘が、王太子の婚約者に果ては未来の王妃になど!!私だけでは無い!他の貴族も絶対納得などしませんぞ!!」


「ファメルバ侯爵!!」




そう怒りを露に侯爵が怒鳴り出し、ジークがそれを諌めようと声を上げる。


私はそんなジークの横を通り抜け侯爵の前に進み出た。


侯爵は突然近付いた私を怪しみ私はその侯爵に笑顔を見せる。




「では、私が庶民でなければ宜しいのですよね?」


「・・・なんだと?」


「サラ?」




私の言葉に侯爵とジークが怪訝な表情を見せた。


そんな二人を無視し、私はドレスの裾を軽く持ち上げ貴族の礼をとる。




「ファメルバ侯爵様、大変申し遅れました。私の名前はサラスティア。サラスティア・アズベルトと申します」


「・・・アズベルト、だと?確かその家名は・・・」


「はい。私グランディア王国筆頭貴族でもあるアズベルト公爵の娘でございます」


「何だと!?そんな見え透いた嘘をつくな!」


「いえ、嘘では御座いません。その証拠に・・・・・お願いします」




私の言葉に怒りを増して睨み付けてくる侯爵をそのままに、私は後ろを振り向き入口の扉に向かって声を掛ける。


するとその扉が開きそこから一人の男性が部屋に入ってきた。




「アズベルト公爵!どうして貴方がここに?」


「ア、アズベルト公爵だと!?」




入ってきた私のお父様アズベルト公爵を見て、ジークが驚きの声を上げその名を聞いてファメルバ侯爵が驚いている。




「ジークフリード殿下お久し振りでございます・・・ファメルバ侯爵もお久し振りです。お会いしたのは国同士の交流夜会で数度だけでしたが・・・私の顔をお忘れですかな?」




お父様はジークに頭を下げて挨拶をしてから、ファメルバ侯爵に薄い笑み向ける。




「夜会・・・ああ!確かに思い出しましたぞ!確かに貴方はアズベルト公爵!だが何故ここに?」


「父親が娘に会いに来るのはおかしいですかな?」


「娘?・・・まさかこの小娘が言った事は本当なのか!?」


「小娘?」


「あ、いやすまない・・・このお嬢さんは本当にアズベルト公爵のご令嬢なのか?」


「そうだ。私の愛娘サラスティアだ」


「そ、そんな馬鹿な・・・」




お父様の言葉に侯爵は肩を落とし項垂れてしまう。






どうしてお父様がここにいるのかと言うと遡ること数日前。


私がファメルバ侯爵の屋敷から証拠品を持ち帰りそれをジークに渡す時、ジークにお願いしてファメルバ侯爵を捕まえるのを数日待って貰った。そして理由は聞かないでとお願いし、外出許可を貰って急いでグランディア王国のアズベルト邸に飛んだのだ。


そこでお父様と面会して事のあらましを説明し、私の気持ちともう一度アズベルトの家名を名乗る許可を頂いた。


そしてさらにアルカディア王国に来て欲しいとお願いしていたのだ。


さっきアンナさんが私に言付けをしに来たのは、お父様が到着した事を教えに来てくれたから。そこでアンナさんに私が合図するまでお父様に扉の前で待機して貰うよう指示を出していたのだ。






「ファメルバ侯爵様。これで私がジークの婚約者になる事に納得して頂けましたでしょうか?」




私がそう侯爵に言うと侯爵はゆっくり顔を上げ私を見てくる。しかしその瞳には憎しみの炎が宿っていた。


そして徐に手を懐に入れると、そこから短剣を取り出し鞘から剣を引き抜いたのだった。

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