黒装束の男
突然現れた黒装束の男達に会場中で悲鳴が上がった。
逃げ惑う人々、襲いかかる黒装束の男達と応戦する兵士達。国王様と王妃様は兵士達に守られ奥に下がっている。
私はとりあえず人々を助けに行かなくてはと動こうとするが。
「「「ぎゃぁ!」」」
近くで男達の悲鳴が聞こえそちらを見ると、クロード王子を囲んでいた兵士がバタバタと倒れていく所だった。ただ、防具を着けていたお陰か血を流しているが倒れて呻き声を上げているのでまだ息はある。
ふと見るとクロード王子の近くにも黒装束の男が。
その男の気配から只者では無い事が分かる。他の黒装束達とは比べ物にならないぐらいの威圧感があり多分この黒装束達の首領だと思われる。そして、この首領の気配には覚えがある。あの人身売人達を一瞬で殺した男だ!
首領の男はクロード王子に剣を渡し、王子は鞘から剣を引き抜く。その顔はもう今までの王子の顔ではなく、狂気に満ち溢れた恐ろしい顔だった。
私は王子に寒気を覚え一歩後ずさる。
そんな私に気が付いたのか、王子は私を見つめニタリと恐ろしい笑顔を向け手を伸ばしてくる。
「サラ・・・」
「ひっ!」
あまりの恐怖に体を硬直させていると、目の前に黒い背中が現れた。
私を庇うように目の前に立ったのは剣を構えたジークフリード様!
さらに私を守る様に横に来てくれたユリウス殿下、ヒューイ、アラン様もみんな剣を構え黙ってクロード王子を睨む。
「・・・ジークフリード!!」
クロード王子は憎々しくジークフリード様を睨み付ける。
「もう止せクロード!これ以上罪を重ねるな!」
「うるさい!いつもいつも私の前を行き私の邪魔ばかりする!私の方が早く生まれていれば私が王太子だったものを!」
完全に逆恨みである。
クロード王子がジークフリード様に襲いかかろうと剣を構えた。私は助けに入ろうと動こうとして、突如後ろからの殺気を感じ咄嗟にドレスを翻し、脚に着けておいた短剣を鞘から引抜き後ろから降り下ろされようとしていた剣を受け止めた。
私を襲ってきたのは、いつの間にか来ていたのかあの黒装束の首領だった。
まさか私が剣を受け止めるとは思わなかったのか、首領の男は驚愕に目を見開きすぐさま遠く後ろに飛び退いて間合いを取る。
「サラ・・・その短剣・・・」
首領に警戒しながらちらりと声のしたユリウス殿下を見ると。
ユリウス殿下は剣を構えながら唖然と私を見ていた。ただ、その顔は少し赤い。よく見るとヒューイもアラン様もほんのり赤い様な・・・。
まあ、いきなり女性がドレスを翻して脚を露にすればそんな反応にもなるか。
ジークフリード様はと言うと、襲って来たクロード王子に剣で応戦中だったためどうやら見られてなかったもうよう。
「念のための護身用にバレない所へ隠したかったので」
そう簡単に説明する。
この脚に短剣と言うのもアンナさんにお願いして着けて貰った。
アンナさん、ちゃんと役に立ちましたよ!
ちなみにこの短剣は離宮の探索中に見付けてちゃっかり貰っておいた物だ。
私の横で、女性が人前で脚を晒すなど・・・とブツブツ言ってる殿下は無視して首領に相対する。
首領は言葉を発しない変わりに鋭い目でこちらを伺っていた。
・・・この男は強い。
首領の放つ殺気からそれが分かる。
すると両側から別の黒装束の男達が剣をかざして襲いかかって来た。
私がそれに対応する前に殿下達三人が素早く動き、剣で弾き返しそれぞれに黒装束の男に対峙する。
その様子を見て一応殿下達も強い事を改めて実感し、この黒装束達は任せる事にして私は自分の敵に集中する。
首領の動きは売人達を一瞬で殺した程に早い。このまま殿下達の近くで戦うと巻き込んでしまう可能性が高いと判断した私は、瞬時に自ら首領の間合いに入り込んで殿下達と距離を取った。
「・・・っサラ!」
「義姉さん!」
「・・・危険だ」
殿下達がそれぞれ口にしてこっちに向かって来ようとするが、黒装束達に道を阻まれてしまう。
ジークフリード様もちらりとこちらを気にしたが、クロード王子を相手にするので精一杯でどうにも出来ない様子。
首領はいきなり間合いに入って来た私に驚くが、すぐに剣を構え直し攻撃を仕掛けてくる。
首領が高く跳躍して上からの攻撃を仕掛けて来たので、私も足に風の魔法を掛け首領よりも高く跳躍し短剣で薙ぎ払う。お互いの剣がぶつかり合い火花が散って離れて着地する。
・・・本当に強い。このまま殺さない様に手加減してては勝てない!しかし・・・。
どんな悪人でも出来る事なら傷付けたく無いし殺したくもない。私は人の死が身近に無かった前世の平和な日本を思い出す。
そう思い攻撃を躊躇っていると、ふと首領が別の所を見ている事に気が付く。
その視線を追って見てみると、ジークフリード様が切られた腕を押さえながら座り込むクロード王子の喉元に剣先を突きつけている所だった。
あぁ、ジークフリード様が勝ったんだ。
そう思って油断してしまった。
首領は私の目の前をもの凄い速さで通り抜け、ジークフリード様の後ろに立ち剣を降り下ろそうとしていたのだ。
「駄目ーーーー!!」
私は咄嗟に力加減が出来てない火の球を首領に向けて放ってしまった!
しまったと後悔してももう遅く、火の球は猛スピードで今にも剣を降り下ろそうとしていた首領に当たり、その瞬間首領は業火に焼かれ始めてしまう。
そのあまりの火の凄さに、周りに居た王子達や黒装束達、兵士達や逃げ惑っていた人々が呆然とその様子を見ている。
私は直ぐに首領の元に行き、大量の水を魔法で出して消火し始めた。
やがて火は消えたが首領は倒れて蹲ったまま動かない。やってしまったと後悔に打ちひしがれていると、ピクリと首領が動いたのが見えた。
まだ生きている!と喜び治癒魔法を掛けようとして、私の手がピタリと止まる。
私の目の前でボコボコと体の表面が変化していったからだ。
全身焼けただれていても分かる明らかに人間には無い角と背中には蝙蝠の様な羽が・・・そしてギラギラしている瞳は深紅に変化していた。
「魔族・・・」
誰かがポツリと呟いた。
これが魔族?初めて見た!
変化を終えた首領は荒い息をしながらヨロヨロと立ち上り、私に激しい憎しみの目を向けてきた。
「・・・よくもオレの計画を邪魔してくれたな!・・・くっ、あの王子を影で操り、王にしてこの国を乗っ取るつもりだったのに・・・ハァハァ・・・全てお前のせいだ!絶対許さん!覚えていろ!」
魔族の姿になった首領はそう言い残し、羽を羽ばたかせて宙を舞って外に飛び出して行ってしまった。
後には突然の成り行きに唖然として固まってしまった人々だけが取り残されていた。
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