殿下と私
────祝賀会当日会場内。
私はヒューイのエスコートで入場する。
ヒューイは昨日あれから沢山泣いて、泣き終わった後はスッキリした顔になっていた。
そして、私が店に帰る事も庶民として頑張る事も応援してくれると言ってくれたのだ。今度は私が泣いてしまった。
ヒューイはこれから本格的にお父様に付いて宰相の仕事を覚える為このままこの国に残るらしい。少し寂しくなるが手紙のやり取りはする約束はしておいた。
会場に入場して暫くするとダンスの曲が流れだす。
基本的に一回は踊らないといけないしきたりなのでヒューイを相手に一曲踊る。
踊り終わったので私は義務は果たしたと思い、ダンスフロアから離れたのだが一人の男性が近付いて来た。
「サラ、私と一曲踊って貰えないだろうか?」
私にダンスを申し込んできたのは正装姿のユリウス殿下。やはり王子顔なだけあって正装が良く似合う!
さすがに断る訳にもいかないので、喜んでと答えユリウス殿下の手を取りダンスフロアに戻っていった。
久しぶりに殿下とダンスを踊った。長年婚約者として一緒に踊っていたので、お互いダンスの癖は良く分かっている。流れる様に自然なダンスを踊り、踊り終わると周りから拍手が起こった。
私は恥ずかしくなり、殿下に少し夜風に当たってくると告げその場を離れようとしたが、殿下も一緒に行くと言ってきたので二人で庭に出ていく。
今日は満月で庭が月の明かりに照らされ幻想的でとても美しい。
私達は他に誰も居ない庭の、真ん中にある噴水の縁にお互い座る。
暫く無言の時間が過ぎていった。
「サラ・・・君はやはりまたあの店に戻るつもりなのか?」
「・・・えぇ、あの店は私にとって夢と自由が手に入る大切な店だから」
「・・・サラ」
殿下は真剣な顔で私に向き直り、私の両手を取って自分の両手で包み込んできた。
「・・・君が好きだ」
「ユリウス殿下!」
「一度婚約破棄をした私が言うべき言葉では無いと分かっている。しかし、もう自分の気持ちを抑える事が出来ない」
「・・・・」
「君が婚約者で居てくれた時は、当たり前の様に常に側に居てくれたので君への気持ちに気付いていなかった。しかし、君が私の元から居なくなった事で初めて君への気持ちを自覚したんだ」
「殿下・・・」
「サラが魔族に怪我を負わされ拐われた時、近くに行くことも守る事も出来ない自分に腹が立ち、そして今無事な姿で私の目の前に居る君が、また私の側から離れてしまうとそう思ったらもう我慢する事が出来なくなった!」
そう言って殿下は私を強く抱き締めてきた。
殿下の真剣な態度にその腕の中から無理矢理抜け出すことが出来ない。
「・・・サラ、愛している。お願いだ、私の側にずっと居て欲しい・・・」
殿下は私の頬に手を添え、顔を傾けゆっくり近付けて来る。
もう少しで唇が触れ合うぐらいの時に、私の頭の中である人の顔が浮かんだ。
「嫌!!」
私は咄嗟に殿下の胸を手で押し口付けをかわした。そしてそのまま殿下から体を離す。
・・・何でまたあの人の事を思い出したんだろう?
ドキドキする胸を押さえなが、何故こんな時にあの人の顔が浮かんだのだろうと疑問に思っていると。
「・・・やはりジークか」
「!!」
ユリウス殿下は少し寂しそうに私を見つめながら私が頭に浮かんだ人の名前を言った。
「・・・何で?」
「君のここ最近の態度やあの魔族の城での出来事で、何となく君が誰を想っているか分かっていたよ。多分、アランやヒューイも気付いていたと思う」
「想っていたって・・・」
「無自覚なのか・・・だけど、そろそろ自分の気持ちに気が付いた方が良いよ。そうして貰わないと君への想いが吹っ切れない男達がいるからさ・・・私を含めてね」
私の・・・気持ち?
その時、色んな表情のジークフリード様の顔が頭に浮かんだ。
楽しそうに笑ったり、怒ったり、困ったり、優しく微笑んでくれたり。そしてゼクスの城でジークフリード様が死にかけた事で、胸が張り裂けそうに痛くなりもう何も考えたく無くなった事を思い出す。
あぁ、そうか。私いつのまにかジークフリード様の事が好きになっていたんだ。
そう自分の気持ちに気が付く事が出来た。それと同時にその気持ちに気が付かせてくれたユリウス殿下に申し訳ない想いで一杯になる。
「その表情だと漸く気付けたみたいだね。私の様に後から気が付いて手遅れにならなくて良かったよ」
そう苦笑しながら見てくる殿下に私はちゃんと返事をする事にした。
「ユリウス殿下ありがとうございます。こんな私を好きになってくれて。その気持ちは凄く嬉しかったです。そしてごめんなさい。辛い筈なのに私の気持ちを自覚させる様な事を言ってくれて」
「サラ・・・」
「殿下の言われた通り・・・私、ジークフリード様が好きです。だから殿下とずっと一緒に居ることは出来ないです。ごめんなさい」
「そうか・・・分かった・・・しかし、面と向かってフラれると自業自得とは言えやはりちょっとキツいな」
「ごめんなさい!」
「いや、気にしなくて良い。むしろキッパリ言ってくれた事でスッキリした」
そう言って晴れやかな笑顔を私に向けてくれた。
その時ふと私の後ろの方に視線を向ける。
「ああ、どうやら君の迎えが来たようだ。・・・私は先に会場に戻っているよ」
殿下は徐に立ち上り会場に戻って行く。そして入れ替わる様に険しい表情のジークフリード様が近付いてきた。
ユリウス殿下とジークフリード様はすれ違い様にお互い何か言葉を少し交わした様だ。
今度はジークフリード様と庭で二人っきりになった。
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