ダンス

私とジークは入場した時に一度ダンスを踊っていたが、ジークから再びダンスに誘われ特に断る理由も無かったので今フロアの中央で楽しく踊っている。


相変わらずリードが上手く気持ちよく踊っていたのだが、ふとある疑問が浮かんで踊りながらジークに顔を寄せて話をした。




「そう言えば、ファメルバ侯爵って例のお家騒動時の舞踏会って参加してなかったの?」


「どうして?」


「だって、さっきファメルバ侯爵は私を見ず知らずの女性と言ってたし、クラリスも私の事全く知らなかったから」


「・・・そう言えばあの時期、ファメルバ侯爵は自分の治める領地に家族で視察と保養をしに行ってた筈だ」


「・・・なるほど。どおりで私の顔知らない訳だね」




私が納得すると同時に曲が終わり私達は一旦離れお互い礼をする。


そうして再び二人で歩き出すと鋭い視線を感じ、その視線がする方を見るとファメルバ侯爵が私を激しく睨んでいる事に気付いた。


しかし私の視線に気付いたファメルバ侯爵はそのまま人混みの中に消えていく。




・・・う~ん。あれは国王様にも私の事を聞いて納得いかず相当私の事恨んでいる顔だったな・・・まあ、売られた喧嘩は買うのでいつでも掛かって来い!




私が密かに闘志を燃やしているのをジークは不思議そうに見てきたのだった。






その後ジークは王太子としての務めがあった為私から離れていき、私は久し振りの舞踏会でちょっと疲れたので飲み物を手に取り壁際に待避する。


私はボーと華やかな舞踏会を眺めていると隣に人が来た気配がしてそちらを見た。


そこには頬を染めながらじっと私を見上げているクラリスがいたのだ。




「クラリスどうしたの?ファメルバ侯爵は?」


「お父様は何か難しいお話を他の方とする為どこかに行かれましたの」


「そうなんだ・・・」




多分ファメルバ侯爵と繋がっている貴族と今後の事を話し合ってるんだろう・・・・・あ!ジークに言われたのにクラリスと二人になってしまった!・・・ま、良いか。別に近くにいないけど他にも人がいるし、それに私はそんなにクラリスが危ないとは思わないんだけどな~。




ニコニコしながら私の事を見てくるクラリスを私は嫌いになれなかったのである。




「そう言えば、サラお姉様の先程のダンスとても素敵でしたわ!」


「・・・ありがとう」


「・・・っ!」




褒められた事が嬉しくてクラリスに微笑むとまた惚けた顔で顔を赤らめ目を潤わせて私を見てくる。




・・・なんかクラリスによくこの表情されるんだけど何でだろう?




私はその表情の意味が分からず苦笑しながらクラリスに話し掛ける。




「ずっと気になっていたんだけど、何で私の事『お姉様』て呼ぶの?確かにクラリスは私より年下のようだけど・・・て何歳?」


「わたくしは今16ですわ。サラお姉様は?」


「私はちょっと前に18になった所・・・だけど2つしか違わないんだし私の事はサラと呼び捨てで良いよ?」


「そんな事出来ませんわ!わたくしは絶対サラお姉様とお呼びしたいのです!」


「そ、そう。まあ好きに呼んでくれて良いけどさ・・・」




クラリスのあまりの迫力に圧され結局呼び方はそのままにする事にした。




「ありがとうございます!・・・それにしても先程のサラお姉様のダンス姿は今思い出してもやはりとても素敵でした・・・・・・隣に余計なのがいなければもっと素敵だったのに・・・」


「え?」




さっきの私のダンスを思い出しているのかうっとりとしていたクラリスだったが、突如憎々しげな表情に一変し最後の方はブツブツと小声になってよく聞こえなかった。




「クラリス?どうしたの?」


「はっ!いえいえなんでもありませんわ」


「そう?まあ良いけど。そう言えばクラリスは踊らないの?」


「わたくしですか?」


「うん。クラリスは凄い可愛いからきっと沢山の男の人からダンスのお誘いあるんでしょ?私とこんな所にいないで踊ってきたら?楽しいよ?」


「・・・サラお姉様から可愛いと言われてしまいましたわ!きゃっ!」




またクラリスは意識がどこかに飛んでいるみたいで、赤くなった頬を両手で押え身悶えている。




・・・クラリス~!!戻っておいで~!!!




私が呆れてクラリスを見ていると、漸く戻ってきたのかハッとして照れたように微笑んできた。




「ごめんなさい、ダンスのお話でしたわね。確かにわたくしをダンスに誘ってくださる男性は沢山いらっしゃるのですが・・・全部お断りしてます」


「え?どうして?」


「お父様からジークフリード様以外の男性と踊ってはいけないと言われていますの」


「・・・なるほど」




あのファメルバ侯爵のやりそうな事だ。クラリスがジーク以外の男性とくっ付かれると困るからだろうな~。




そう思いクラリスがジークと踊るのはちょっと嫌だが、他の男性と踊れないのはクラリスの年齢で可哀想だと思い哀れにクラリスを見る。


しかし当のクラリスは落ち込んでいる様子は微塵も感じさせなかった。




「正直わたくしはジークフリード様とも踊りたく無いのですけど・・・」


「そうなの?だってクラリスはファメルバ侯爵にジークの婚約者にさせられそうになっているんでしょ?」


「ええ・・・今はとても不本意なのですが」


「???」


「わたくしが今踊りたいお相手は・・・」




クラリスはじっと私を熱い眼差しで見つめてくる。




「・・・もしかして、私?」


「はい・・・」


「私、女だよ?」


「ええ分かっておりまとも。だけど、ジークフリード様以外の男性と踊るなと言われていますが、女性とは踊るなと言われていませんもの」




・・・まあ、普通同性と踊るとは思わないからね。




「サラお姉様・・・駄目ですか?」


「うっ!」




下から捨てられた子犬のように潤んだ瞳で見上げられ思わず言葉に詰まる。そして大きくため息をつき持っていたグラスをテーブルの上に置いてクラリスに向き合う。




「・・・まあ、男性側のダンスも一応習っていたから踊れるけど・・・あまり目立ちたくないからここで良い?」


「はい!結構ですわ!」


「・・・では、クラリス一曲お相手願いますか?」


「・・・はい」




私は男性がダンスを誘う時と同じようにクラリスに手を差し出し腰を折って微笑んだ。


クラリスは頬を染めながら私の手に自分の手を添えてはにかむ。


そうして私は先程ジークがしてくれたようにクラリスをリードしながら二人で楽しく踊ったのだった。




ただ目立たないようにしてたつもりだったのに、やはり女性同士で踊っていた事で目立ってしまい、踊り終わった後は何故か私の所に沢山の令嬢が集まってきてダンスを強要される羽目になる。


結局その人だかりでクラリスを見失い、この現状に困り果てていた私に気付いたジークがその集団から救出してくれ、そのまま舞踏会場から逃げるように出ていったのだった。

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