潜入
男は街で女性を物色し始めた。
私はポニーテールをほどき髪を垂らして軽く綺麗に身支度を整え男の前を通り過ぎる。
ちらりと男を見ると私に注目しているのが確認出来たのでわざと路地裏に向かった。
男が私の後を着いてきている気配を感じ、さらに人気の無い脇道に入る。
「・・・おい」
「え?・・・きゃぁ・・・」
「!?」
ドサッ
私はわざと驚いた風に振り返り、男の姿に怯えて気を失って倒れた振りをした。
う~ん、ちょっとわざとらしかったかな?
「・・・ま、まあ、手間が省けて良いか」
ちょっと戸惑った様子だったが、とりあえず疑問を持たれずに私を袋に積めて肩に担いで連れていってくれた。
ちなみにもし私に目を付けなかった場合、腹いせにあの倉庫に強行手段で突入するつもりでいたんだけどね。
ガチャ
ドサッ
扉が開く音がしたと思ったら、床に置かれ袋を取られた。
「へぇー結構な上玉じゃないか」
「そうだろ?俺を見ただけで気を失ったから、多分どっかの良い所の箱入り娘だろうな」
「良い値で売れそうだ・・・じゃあ客に揃ったと連絡入れてくるか」
「俺はその間に飯でも食うかな」
ガチャン
私は男達が部屋に鍵を掛けて去るまで気を失っている振りをしていた。
男達が去って少ししてから目を開け周りを確認する。
薄暗い部屋の隅で女性達が身を寄せ合い怯えていた。人数を確認すると私を除いて十人居たので、全員ここに居る事が確認出来た。
私は女性達に近づき安心させるように笑顔で声をかける。
「大丈夫?怪我とかはしてない?」
「え?」
今連れてこられたばかりの、男達の話では多分箱入り娘だと思われてる私が怯えた様子も無く笑顔で声をかけたので、みんな目に涙を貯めた状態でびっくりしながら私を見てくる。
「あ~信用出来ないかも知れないけど助けに来ました」
「・・・助け?貴女が?」
「はい!・・・ただごめんなさい、今すぐと言う訳にはいかないんです。敵が何人居るか分からないので、無謀に攻撃を仕掛けてあなた方を守りながら逃げるのはちょっと大変で・・・なのでチャンスが来るまで少し待って下さい。必ずここから助け出します!」
私の言葉に半信半疑になりながらもみんな頷いてくれた。
絶望的な状態だったので、ちょっとでも希望がある言葉にすがりたかったのだろう。
もう一度怪我が無いか確かめると、捕まる時に足を挫いていた女性が居たので治癒魔法で治してあげたら、その力を見て少し女性達は私を信用してくれた様だ。
────人々が寝静まった深夜の港。
港は深い霧に覆われている。
そこに複数の男達と数人の女達の姿。
「今日はやけに霧が濃いな・・・」
「でも、そのお陰で人目につきにくいから仕事がはかどるけど」
「まあそれもそうだな」
「よし、女達を船に乗せろ」
女達は男達に促されて一艘の船に乗り込んだ。
そして全員が乗り込んだことを確認して船が港からゆっくり出航する。
────ここは薄暗い船倉の中。
女達は全員この部屋に押し込められていた。
「き、気持ちが悪い・・・」
床にしゃがみこみながら私は口許を手で抑え、何度も襲い来る吐き気と戦っている。多分今真っ青な顔をしているのだろう。
そう言えば私、前世でも船酔いが酷かったんだ。
修学旅行の時にフェリーに乗って相当酔い先生に心配されてた程だ。
この世界ではまだ船に乗った事が無かったので、まさか生まれ変わっても船酔い体質だとは思わなかったよ・・・。
私が船酔いと必死に戦いながら数時間経った頃漸く船が止まった。
唯一ある小さな窓から外を覗くとまだここは海の上。
「ここに何が?」
そう思っていると、一艘の船が近付いてきてこの船に横付けする。
成る程、海の上なら誰にも見られずに取引が出来るか・・・でも、出来れば陸でお願いしたかった。まだ暫く船酔い我慢しなくちゃいけないのか・・・。
ガチャリ
「おい、一人出ろ!客が商品の質を見たいそうだ」
そう言って扉を開け一人の男が入ってきた。
私は気持ちが悪いのを抑えすっと立ち上がる。
「私が行きます」
「・・・箱入り娘って聞いてたけど意外に気丈だな、ただ顔真っ青で無理してるのバレバレだけどな。まあ良いやお前なら文句言われねえだろうし、俺に着いて来い」
顔が真っ青なのは怯えていると勘違いしてくれたようだ。
では、取引相手とご対面といきますか!
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