あくのていおう

 三歳の息子は遊びたい盛り。今日も戦隊ヒーローごっこに夢中だ。父である俺が敵役で、息子はヒーロー役。昼間にデパートの屋上でヒーローショーを見たのも手伝ってか、いつもよりもハイテンションだ。


「でたな! わるいあくのそしき『アクマンズ』め! せいぎのみかた『タタカウンジャー』がせいばいしてくれる! くらえー、タタカイビーム!」


 息子はノリノリで『タタカウンジャー』のレッド役を演じる。俺も息子の調子に合わせてノリノリで悪役を演じる。


「ぐわー、やられたーっ!」


「どうだー、まいったかー」


 息子はキャッキャと喜ぶ。子供にとって親が一緒に遊んでくれることはとても嬉しいことだ。自分にも覚えがある。俺は息子の笑顔を見るだけで幸せだった。だから、息子の遊びに喜んで付き合うのだ。


 しかし、それでも何度も同じような遊びをすると俺も飽きてくる。きっと息子もそろそろ飽きてくる頃なのではないか? そう思った俺は、ごっこ遊びに一石を投じるべく、新たな展開を考えた。そして、今実行する。


「ふっふっふ……倒したと思ったか、甘いぞ、タタカウンジャー! 実は俺は悪の帝王だったのだ! 今貴様が倒したのは俺の分身だったのだ!」


 どうせなら強い敵と戦うほうが燃えるだろうと思って、今度は俺が悪の親玉となり息子……いや、タタカウンジャーレッドの前に立ちはだかる!


「……ちがう。あくのていおうはそんなんじゃない」


 息子は急に黙り、その様子を冷ややかな目つきで俺を見て言った。


「えっ、そうなの」


 俺はつい素に戻ってしまった。息子は残念そうな顔のまま話を続けた。


「あくのていおうはそんなかるいかんじじゃないもん。アクマンズのおやだま『アクキング』はね、おうさまなの。こうきなみぶんなの。ほこりだかくてかっこいいんだ。ぶんしんをつかってタタカウンジャーをだますなんてひきょうなてはつかわないんだよ。だから、おとうさんのアクキングは「りありてぃ」がないの。わかった?」


「は、はい……」


「それにね、こうきなみぶんだから、もっときれいなふくをきているんだよ。おとうさんみたいなしみったれたひんそうなふくはきてないし、まんねんひらしゃいんのおとうさんとはつきとすっぽんだよ。だからおとうさんはぜったいにアクキングにはなれないよ。もうにどとアクキングのまねなんかしないでね」


「ごめんなさい……」


 まあ、最近の子供は辛辣だな……。そう思わずにいられない俺だった。

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