破滅の未来から救え

 十年前、俺はこの年に破滅への道を歩むことになった。株にはまり始めたのだ。この年はたまたま大当たりがいくつもあり大いに儲けたのだが、それが悪かったのかもしれない。その年以降はそれほど儲けを出せず、むしろ赤字が多くなっていたのだが、俺は株を止められなかった。最初に当てた経験が残っていて、その味が忘れられなかったのだ。そして時は十年後。赤字が続き借金までしていたため、もう後に引けない気持ちで、一発逆転を狙い大いにつぎ込んだのだが、見事に目論見が外れ、大爆死。赤字は大赤字になった。気付けば最初の儲けの数十倍の損失が出ており、素寒貧の状態まで追い詰められてしまった。


 だが、神はそんな俺を見捨てはしなかった。ある力を突如授かったのである。それは「タイムトラベル」の能力だった。最初は同じ光景が何度も続けて現れ、おかしいなという程度だったが、それはタイムトラベルの能力が知らず知らずのうちに発動していたためであった。それが分かって以来、俺はこの力のコントロールができないかと実験を繰り返した。その結果、ついにコントロールできるようになった。タイムトラベル時間のコントロールにも成功し、訓練の結果、約十年ほど前までなら行って戻ることができるようになった。

 俺は密かに拳を固めた。この力があれば、俺の破滅の未来を救うことができる。俺は十年前にタイムトラベルして、株に手を出そうとする俺をひっぱたいてでもやめさせようと決心した。


 そして実行に移す。いざ十年前へ。

 十年前の俺は、パソコンと向き合って株の相場を夢中で調べていた。まだ株をやり始めて儲かってきた頃の俺だ。俺は十年前の俺の肩にそっと手を置いた。


「うわっ、びっくりした! 誰だ? どこから来た?」


 十年前の俺は心底びっくりしていた。まあ、誰もいないと思っていた部屋に人がいれば誰だってドキッとするだろうが。


「俺は十年後のお前だ。お前を破滅の未来から救いに来た」

「じゅ、十年後? 破滅の未来? どういうことだ」

「タイムトラベルの能力を使ってお前を助けに来たんだよ。お前は十年後、株で破産する。だから株は即刻やめろ。まだ儲かっているかもしれないが、そのうち運も尽きる。来年以降下り坂だから、そこでやめておけ」

「は? こんなに儲けてるのに? もし損しそうだと思ったらそこでやめるから大丈夫だよ。だから余計なお世話だよ、このハゲ」

「ハゲじゃない。俺はお前だぞ。ダメージは自分に返ってくるんだぞ。それはともかく、株はやめろ。ほら、十年後から資料を持ってきた。この通り、お前は破産する。だから株はやめろ」


 俺は十年前の俺に紙の資料を突きつけて必死に説得した。最初は嫌がっていたが、しつこく説明を続けるうちにようやく事の重大さに気付いてきたようで、真剣に話を聞くようになっていった。


「……本当にこうなるんだな、ハゲ」

「ああ、だからわざわざ十年後から飛んできたんだ。あとハゲじゃない。まだ誤魔化せる」

「わかった。あんたの言う通りにするよ。株はやめる。これでいいんだろ、ハゲ」

「そうしてくれ。あとハゲはやめろ」


 十年前の俺はようやく納得してくれたため、俺は安心して十年後に戻った。


 しかし、様子は説得前とあまり変わっておらず、相変わらず借金まみれの様子だ。

 十年前の俺はああ言っておいて実はこっそり株を続けていたのではと思ったが、株をしていた形跡はすっかり消え去っていたので、ちゃんとやめていたということがわかった。ではなぜまた借金まみれで暮らしているのだろうか。その答えはすぐに見つかった。

 部屋に束ねてあるいくつものパチンコの雑誌。そう、この世界の俺は株ではなく、パチンコで破産したのだった。結局結果は変わらず、破産の運命に導かれていたのだった。俺は涙を流しながら洗面所へ行き顔を洗った。顔を上げたとき、鏡には頭髪の薄くなった頭と、傍らに置いてある育毛剤の空容器が映っていた。俺は悲しくなって、また涙を流した。

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