矢印の先

 私は公園のベンチに座ってゆっくりしていた。今日はよく晴れていて、葉と葉の間から差し込む木漏れ日が私に安らぎをもたらしてくれていた。

 木製ベンチの腰かけに手を置いたとき、ふと何か刻み込んである感触に気が付いた。よく見てみると、「コッチミテ」という文字と、前方を向いた矢印が刻まれていた。

 私は矢印の指す方向を見た。そこには道を挟んで木が一本生えていた。立派なミズナラの木だ。ゴツゴツとした木肌をしている。私は立ち上がり、その木をよく観察してみた。木にはベンチと同じく文字が刻み込まれていた。ゴツゴツした木なので、よく見なければ文字に気が付かないだろう。刻まれた文字は「アッチ」、そして左方向の矢印だった。

 矢印の方向を見ると、そこにはまた木が一本生えていた。種類は知らないが、滑らかな肌をした木だ。こちらはすぐに何か刻んであることがわかる。「ソッチ」という文字と、また左方向の矢印。俺はまた矢印に従った。

 この後も矢印を刻んだ木がいくつかあり、見つけるたびにその矢印を辿って行った。最後の矢印は、上方向を向いており、「ソコ」と書かれていた。

 私は矢印の示す方向を見上げた。木の上に、小さな箱が引っかかっているのが見えた。

 この矢印を書いた人が置いていったものなのか。中身が気になる。私は木を揺らしてみた。すると箱は簡単に落ちてきた。

 箱にはリボンが巻き付けられていたので、私はそれを解いた。そして、箱を開けた。

 なんともいえない臭いが俺の嗅覚を刺激した。中にあったのは、焦げ茶色をした何かの塊と、一枚の紙だった。

 紙にはシンプルに、単語が一つだけ書いてあった。


「ウコン」


 たぶん、これは犬か猫の糞だと私は思う。

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