ルァーメン
今日の夕食はいつもと違うものを食べたいと思ったので、俺は最近できたという近所のレストランに行くことにした。
入店するなり「いらっしゃいませー」と愛想のいい出迎えをしてくれ、第一印象は悪くなかった。
店内はやや混んでいたが、待ち時間なく席に案内してもらえた。後で見ると入り口付近に人が溜まっていたので、いいタイミングで入店できたと思う。
俺は席につくなりメニューを開いた。どんなメニューがあるかと思って眺める。あまり他のレストランのメニューと代わり映えしないなと少し落胆するが、読み進めているうちに妙なメニューが目につく。
「ルァーメン」
なんだこれは? ラーメンの間違えだろうか? 名前だけ書かれていて画像は載ってないので、どんな食べ物なのかわからない。気になるので、頼んでみることにした。
「申し訳ありません、本日品切れになっております」
丁寧にそう突き返される。残念だ。しかしやっぱり気になるので、どんな料理かということだけ聞いてみた。
「えっ、ご存知ないのですか?」
そんな有名な食べ物なのか? 当たり前すぎて逆に説明に困る、とウェイトレスの顔に書いてあったので、追求をあきらめる。正体不明の料理を前にしてなんだかもやもやするが、売り切れなら仕方ない。しぶしぶ別のメニューを注文する。
翌日、後輩にこのことを話すと、鼻で笑われた。
「先輩、まさかルァーメン知らないんですか? 」
やっぱり有名な食べ物なのか、アレは? 後輩の馬鹿にしたような言い方に少しムッとしたが、ここで知ったかぶりしてももやもやは解消されないと思ったので、恥を忍んで教えてもらおうと質問する。
「えっと……なんといえばいいですかね……」
昨日のウェイトレスと似たような反応だ。そんなに説明しづらいとは、もしかして麺ですらないのか。もういい、自分で実際に食べてみる。そのおいしいルァーメンを食べさせてくれる店を教えてくれ。
「店? 俺知ってますのでいいですけど、人気だからまた売り切れてるかもしれませんよ」
相当人気のメニューらしい。だからレストランでも品切れだったのか。昨日は夜に行って売り切れていた。ならば夜ではなく、昼休みに行ってみることにしよう。もしかしたらあるかもしれない。
後輩に教えてもらっていた店はそれなり人が多かったが、またもやタイミングよく並ばず入店できた。店は目立たない場所にあったのだが、おいしい「ルァーメン」を出すということで、ネットの口コミで人気が出た店なのだという。こんな場末でもきっかけ一つで人気になる、ネット社会まったく恐ろしいなと俺は思った。
「……らっしゃい」
昨日のレストランとは違い、職人気質の店長らしく、無愛想な挨拶をこちらに向けてきた。これはこれで、挨拶どうのこうのよりも味で勝負してますという感が出て不思議と悪くない気がしてくる。
「……空いてる席どうぞ」
一ヶ所だけ空席があったので、そこに座ることにした。
メニューを眺める。探すべき品はただひとつ。そう、ルァーメンだ。
トマトパスタ。違う。ハンバーグ定食。違う……あった、これだ、ルァーメン!
すみません、と俺は注文のため店員を呼ぶ。未知の料理との対面の時は近い。
声に反応して、強面の店長が直接やってくる。
「……何にしますか」
俺はメニューを開いた。「ルァーメン」を指差して注文しようと思ったためだ。
が、メニューをめくっている最中直前に気になる文字が目に入った。
「クァリーライス」
一体なんだこれは? 俺は店長に思わず質問する。
「……食えばわかる」
店長はむすっとした表情でそう言い返した。
俺は新たな未知の料理を前にして、少し迷った末、メニューをひとつ指差し注文した。
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