氷菓戦隊ボーアイス!

「げへへ、観念しろや。ワイといっしょにこっちへ来るんや」

 

「い、いやっ、来ないで!」


 筋肉質で屈強な男がか弱い女性を無理矢理連れて行こうとしている。大変だ、誰か助けて!


「黙って来いや! お前は頭と結婚するんや! 今更逃げたって無駄やで!」


「いやーっ!! やめて!! わたし麗頭レーズンなんかと一緒になりたくないの!」


 女性はとても嫌がっている。でも嫌がる女性を男は力づくで屈服させようとしている。このままじゃ女性は極道の妻だ! こんなときに窮地を救ってくれるヒーローが来てくれれば……!


「ごちゃごちゃ言わずにはよ……ん、そこにいるのは誰や!」


 男は背後に人の気配がすることに気が付いた! 男はパッと後ろを振り向いた。そこには、やや紫がかった赤色、つまり小豆あずき色をしたライダースーツに身を包んだ男が立っていたっ!


「女性を離したまえ! 麗頭レーズンの手先め! とうっ!」


 ライダースーツの男は叫んで飛び上がり、立っていた地点から同じ高さの一メートル先の地面へと着地した!


「よもや貴様らが私のことを知らないわけではあるまい!」


 ライダースーツの男はか弱い女性の腕を掴んでいる男を指さした!


「ま、まさか……お前はダイナゴーン! クッソ、厄介なやつが来おったで!」


 麗頭レーズンの手先は叫んだ! そしてその直後女性は歓声を上げた!


「ダイナゴーン……! キャー、ダイナゴーンが来てくれたわ! 助けて、ダイナゴーン!」


「待たせたな、怖かっただろう! もう大丈夫だ! 私は氷菓戦隊ひょうかせんたいボーアイスのリーダー、ダイナゴーンだ! 私が来たからには貴様の命運は尽きたも同然! さあ観念するがいい!」


 説明しよう! 氷菓戦隊ボーアイスとは、某県某町で活躍するヒーローである! 某町の平和を守るため……という名目の暇つぶしとして、悪の怪人麗頭レーズンと日夜戦いを繰り広げている……という設定で「ヤ」のつく人に喧嘩をふっかけている……無職ヒーローである!! その命知らずさをこの町で知らない人はいない! 超有名人だ! でも、隣の町の人は全然知らないぞ! そしてそのうちの一人がリーダーのダイナゴーンだ! かつては相方のキントーキと二人で活動していたが、ある日キントーキに「わりぃ、俺就職先決まったから、戦隊抜けるわ。元気でな」と言われていなくなってしまった! そのため現在はソロ活動中なのだ! 世知辛いぞダイナゴーン!


「ちっ、面倒なことになったで。だが、こっちも簡単に引き下がるわけにはいかんのですわ。ワイの名は麗頭レーズン一家の幹部、ほっしーだ! 野郎ども、やっちまいな!」


 ほっしーがそう叫ぶと、周りの物陰からぞろぞろと雑魚敵が現れた! みんな手に鉄パイプやらナイフやらいろいろ危ないものを持っているぞ! どうするダイナゴーン!


「ふっ、甘いな。ママのおしるこより甘いぜ。そんなものでこの私を倒せると思っているのか」


 ダイナゴーンは挑発をした! 悪の怪人相手に挑発するのがダイナゴーン流、これにはヤ……じゃなくて怪人どもも頭にくるぜ!


「ちっ、イキんなボケが! ほならお望み通り自分をぶっ潰してこねくり回して上質なこしあんにしたる! 野郎ども、かかれ!」


 わーっ! 雑魚が声を上げながら一斉にダイナゴーンに飛び掛かる! これは絶対絶命か、ダイナゴーン! いや、ダイナゴーンは余裕の表情だ! 眉一つ動かしていないぞ! それどころか口元が少し動いて、笑っている!? 笑っているのかー!? おっと、ダイナゴーンはふところから何かを取り出した! なんだこれはー!? デカい、でかすぎるぞ!

 ダイナゴーンは身の丈くらいの大きさのデカい棒を取り出し、それを豪快にぶん回す! 雑魚どもはそれをまともに食らい、ひとたまりもなく吹っ飛んでいく! 強い、強いぞダイナゴーン! こんなデカいものをどこにしまっていたかなんて無粋な疑問は胸にしまっておくのだ!


「ぐ……なんやその棒は」


 たじろぐほっしー! ビビッて逃げ出す雑魚ども! 巨大な棒は彼らに圧倒的な貫禄を見せつける!


「ただの棒などと見くびってもらっちゃあ困るぜ。お前も一発喰らってみるか、この『聖堅せいけんアズキセイバー』の威力を」

 そう言ってダイナゴーンは『アズキセイバー』を肩に置く! かっこいい、かっこいいぞダイナゴーン!

 説明しよう! 『聖堅せいけんアズキセイバー』とは、巨大なあずきバーである! ダイナゴーンの活動のために近所の駄菓子だがし屋に無理を言って開発してもらった特注のあずきバーなのだ! 駄菓子屋曰く「この大きさであずきバーの形と硬さを維持するのに苦労した」のだそうだ! すごい、すごすぎるぞ駄菓子屋さん!


「アズキ製バーやって……ただのデカいあずきアイスやないかい。ビビることないわ! いてこませ!」


 ほっしーは命令を下す! にもかかわらず、誰も動かない! それもそのはず、もうその圧倒的な戦力差に雑魚どもは戦意喪失しているのだ!


「ちっ、ならワイがやったる。オラアアアアア!!」


 しびれを切らしたほっしーが持っていた刀を鞘から抜いて自ら突っ込む! そんなものを持っていたなんて、マジで危険だ怪人ほっしー!そして手先は刀を素早く振り上げて、勢いよく振り下ろす! ダイナゴーン、危ないっ!

 キン! 金属質な音が辺りに響き渡る! ダイナゴーンは『アズキセイバー』で刀を瞬時にガード! ほっしーの刃はダイナゴーンには通らない! そして、『アズキセイバー』にも傷一つついていない!

「なんやと……! ワイの長ドスが」

 麗頭ンの手先、絶望! 業物わざものがただのあずきアイスに負けるなんて! 信じられない、信じられないぞほっしー!

 説明しよう! 『アズキ製バー』はとても硬いのだ! その硬さは駄菓子屋にたむろする数々のガキンチョどもの歯をへし折ってきたと言われ、鋼鉄並みだとかそうでもないとか!


「その程度か? ならばこちらから行かせてもらうぞ!」


 ダイナゴーンはその棒で刀を弾き返す! 刀は宙を舞い、ほっしーの三メートル先の地面に落下して突き刺さった!


「とうっ!」


 ダイナゴーンはほっしーの頬に『アズキ製バー』をピタっと当てる!


「ギャー!!!!」


 麗頭レーズンの手下、絶叫! この冷たさは暑い夏にはよく効くぞ!

 説明しよう! アズキ製バーはとても冷たいのだ! 大きな冷凍庫に保存されたこの棒は超冷たい! でも外に出してちょっと時間が経っているので、わずかに溶けているのは秘密だ!


「く、くそう! 覚えとけ! 今度会ったときこそお前の最期や」


 ほっしー率いる麗頭レーズンの軍勢、逃走! 今日も勝利だ、やったなダイナゴーン、強いぞダイナゴーン!


「ふっ、口ほどにもない。帰ってソフトクリームでも嘗めているんだな」


 ここでキメ台詞! 敵を見下す大胆な発言! 今日も光るぜダイナゴーン!


「あの、助けてくれてありがとうございます、ダイナゴーン!」


 助けられた女性がダイナゴーンにお礼を言う! まんざらでもないダイナゴーン!


「いやあ、あなたのためですよ、お嬢さん。へへへ」


 デレデレのダイナゴーン! ダイナゴーンは美しい女性には弱いのだ! ちょっと溶けてきたんじゃないか、ダイナゴーン!


「とりあえず奴は逃げたが、この調子じゃいつまた麗頭レーズンに狙われるかわからない。お嬢さん、よければ名前と連絡先を教えてくれないか」


 ダイナゴーン、彼女の平和を守るため、名前と連絡先を手に入れる!


「その手には乗らないわ、ダイナゴーン。そうやって助けた女性から連絡先を聞いて回っては家に連れこもうとしてるって、この町では有名なんだから」


 ガーン! 思うようにいかないダイナゴーン! 

 説明しよう! ダイナゴーンはこう見えて結構プレイボーイなのだ! 実は女性にここでは書けないようなもっと凄いこともしているって噂だぞ! ダイナゴーンは正義の味方であると同時に女の敵なのだ!

 彼の見通しはおしるこのように甘かった! まったく、有名人は辛いぜ! でも気を落とすな、ダイナゴーン! きっとまたチャンスはあるさ! ナンパもがんばれ、ダイナゴーン! その前に就活しろよ、ダイナゴーン! 


 今日も響く女性の声。闇に紛れる怪人の足音。某県某町の平和を守るため、『聖堅アズキ製バー』とともにさあ出陣だ、ダイナゴーン!

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