お菓子教室

 お菓子を作るこどもたちの笑顔を見ると、この仕事を続けていてよかった、と私は思うのです。

 私は「こどもお菓子教室」でこどもたちにお菓子作りを教えています。今日はクッキーの作り方についてです。バターや砂糖、卵、薄力粉を混ぜて生地を作り、型抜きで型をとって焼く。こどもでも、教えれば簡単にできます。やはり簡単でも、自力でできればこどもは嬉しいものです。自分で作る喜びを知ることでこどもたちがお菓子作りを好きになり、いつしか周りにそれを広めるようになり、さらにその人がまたお菓子作りが好きになり広めていく……という具合に、段々と輪が広がっていくことが私にとっての喜びなのです。

 生地をこね終わったので、次は型抜きです。こどもたちはそれぞれ好きな「型」を使って思い思いの形のクッキーを型取ります。ハート型、星型、犬や猫、小鳥など動物の型……様々な型があり、教室でも色々用意してあります。ですが、それだけではなく、家から好きな型があれば自分たちで持ってきてもいいことになっています。実際に、何人かのこどもたちが型をもってきました。


「せんせー。じょうずにできたよー!」


 こどもが私を呼びました。この子の名前はちなみちゃん。五歳の女の子で、最近教室に通うようになりました。


「ちなみちゃん、できたのー? どんなのができたのかなー?」


 私は彼女の手元をのぞき込みました。そのとき、私の脳は一瞬だけフリーズしました。


「……あの、ちなみちゃん。これは何の形かなー?」


 ちなみちゃんはニコニコして言いました。


「ソフトクリームだよ、せんせー! あたし、ソフトクリームだーいすき!」


「……それは別なものと勘違いされるからやめよっか?」


 私はソフトクリームの形にくり抜かれた生地を見て思わず言いました。

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