噴き出す

 夜中部屋で眠っているとき、俺はふと気配を感じた。気になって目を覚ますと、ベッドの脇に男が立っていた。


「誰だ……?」


 俺はそこにいる人に言った。俺は一人暮らし、俺以外の誰かが部屋にいること自体がおかしいのだ。

 その男は何も言わずにベッドに寝そべっている俺を見下ろしていた。


「誰かって聞いてるんだよ!」


 睡眠を妨害された俺は怒鳴りながら起き上がり、男を見た。

 男の髪の毛は白髪交じりの黒で、見た感じ、くたびれた中年男性という風情だ。俺より一回り年がいっている。顔は青白く、生気がない。俺は彼の様子が普通ではないと気が付いた。俺はだんだん怒りが引いていき、恐怖心が勝ってきた。

 男はゆっくりと俺の頭を見た。その死んだ目で、俺の目を射抜いた。俺は背筋が凍りそうになった。そして、男の視線は俺の頭の上に移った。


「……ぷっ」


 男は俺の頭頂部を見て突然少し噴き出した。青白い顔にわずかに生気が宿る。

 男はその後勝ち誇ったような顔をして、スウッっと霧のように消えて行った。


 俺の腹の中に再び怒りが戻ってくる感覚があった。あの野郎、馬鹿にしやがって。若禿の何が悪いっていうんだ。幽霊にまで馬鹿にされると思ってなかったぞ、ちくしょうめ。

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