次元を越えた愛
最近、「二次元に恋しちゃったぁ」とか言う人増えたよな? 俺に言わせてみりゃ、正直だらしねえと思う。
あんた、今ムッとしたか? 次元を越えて愛を語らうことのどこが悪いのか、とな。勘違いしないでほしいが、俺はそこを否定するつもりは毛頭ねえ。ある意味もっとも美しい真実の愛に近いものなんじゃないかって思いもするぜ。絶対に交わることができないのに、それでもなお愛情を注ぐっていうんだ。なんとも一途な純愛じゃあねえか。
だが、なんで俺が最初に「だらしねえ」なんて言ったと思う? お前らにとっては意味わかんねえだろ? 俺がそういった理由はな、それが「普通すぎる」と思ったためだ。
俺たちは同じ次元の者、つまり三次元としか恋をしちゃいけないと思ってるやつがいる。最初に俺の言葉を聞いたあんたは俺がそういう人間の一人だと思ったことだろう。違げぇんだよ。逆だ。三次元との恋なんてしょせん金銭的なメリットや肉体関係を結ぶ口実に過ぎねえんだよ。そこに真の愛なんか存在しちゃいねえ。俺も三次元の女と付き合ったことがあったがな、やつぁ銭ゲバだった。ただの金目当てだったんだよ。愛なんてどこにもなかった。俺はそれがわかったとき、三次元に愛を求めることをやめた。
かと言って、二次元に愛を求めるのもなんか違うんだよなぁ。さっき言ったとおり、普通すぎる。二次元は、すなわち絵だ。平面ではあるが、人の形として認識できる図柄が描かれている。絵ならば、欲情できる余地がある。それじゃあだめだ。直接交わることがなくとも、妄想で交わることができるのだ。それはやはり肉体的な繋がりを想像で補っているに過ぎず、本物の愛とは少しずれているように俺は思っている。まあ、愛とは少なからずそのような肉体的な繋がりを追い求めるものなのかもしれないが。それは平凡過ぎて俺にとってはつまらないものだ。平凡に真実はない。俺が欲しいのは、そうやって他人によって形作られていない、形のない愛だ。
そう、俺が求めている愛は二次元でも三次元でもないところにある。つまり、0次元、点だ。形がないというところでは一次元(線)もいいかもしれないが、一次元は左右に移動できるものだ。それはすなわち、気持ちも左右に揺れてしまうということだ。これはまずい。揺れてしまうようなものは俺が求める愛じゃない。だから、俺が好きなのは不動の「点」だ。
0次元はなあ、素晴らしいぞ。二次元や三次元なんか目じゃない。まず、どこを見ても同じだ。裏表がないし、見る場所によって解釈が異なることもない。誰に対しても変わらない顔を向けてくれるんだ。そんなもの二次元だって誰にでも向けてくれるぞ、と思う人もいるかもしれないが、違うのだ。二次元は人の想像でいかようにも表情がつけられる。そのため見る人によって性格が変動してしまいかねないぞ。その点、0次元はそんなことはありえない。完全にイメージが固定されている。それがいい。解釈というものが必要ないため、どこにも争いが生まれない、平和な世界だ。ああ、なんて素晴らしいんだ! これこそ無形の愛! ただそこに存在している原初の0次元、それこそが至高なんだ。まだいくらでも愛でるところはあるが、時間なので今日はこのくらいにしておくぜ。あんたらも是非0次元を愛でてくれ。平等にその姿を俺たちに振り撒いてくれるはずだ。
それじゃ、あばよ。
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