第56話 特別編12旅行

休日の日。それは甘美な響き。特に用事も無かった俺は二度寝から三度寝に移行し惰眠を貪ってい……る……はずだったのだが。


――コツコツ、コツコツ。


 さっきから窓の辺りがうるさい。それにどんどん音が大きくなってきているじゃあないか。


「ちょ、窓が割れるだろおお!」


 まずい、思わず突っ込んでしまったあ。

 窓の方を見たものだから、窓の外にいる黒いのも目に入る。

 分かっていた、分かっていたさ。アイツがいるってことは。しかし、俺は眠たかったのだ。


 まあ、完全に目が覚めてしまったから窓を開けるとするか。


「よお、青木」

「どうした? カラス」


 すっかり馴染みになってしまったカラス(レベル22)がくええと鳴きながら中に入ってきた。


「これこれ、これ見ろ」

「ん、これって? ああ、ベランダに落ちてるこれ?」

「おう、それそれ」


 ビニール袋を拾い、中を改めると広告が入っていた。

 んんと、温泉宿かあ。なかなか豪華そうな施設が揃っていて部屋も和風モダンな感じでオシャレだ。


 ん、んん。


「一泊4280円だと! やっすいな。ご飯もついてる。大丈夫か、ここ?」

「俺の友達が働いているんだ。行こうぜ」


 ここにも喋るカラスがいるのだろうか。うさんくさいことこの上ないが、まあこいつの知り合いがいるなら大丈夫か?

 ええと、場所はっと……。


「高山だってええ。遠いって」

「そうなのか。青木の交尾にもいいと思ったんだがな」

「なんだよそれ……」

「お前、あのメスと番になりたいんじゃないのか?」


 あー、そういうことね。

 ミオと温泉宿。風呂上がりに桜色の肌をしたミオと一杯。そして、酔った俺たちは……ぐふ、ぐふふ。


「良一さま、とても嫌らしい顔をなさってます」

「でええ!」


 ミオか、ミオがいるのかと思って辺りを見渡すが、いない。

 よくよく思い返すと、これカラスの声じゃねえか。全く、焦らすなよ。

 しかし、今ので冷静になった。

 「絶対に俺の思うような展開にはならない」……きっとまた温泉宿で痛い目にあうに違いないのだ。


「みんなで行こうぜー」

「そうは言ってもだな、あ、レンタカー借りれば行けるか」


 電車と違ってカラスたちも乗せられるし。

 車でブラブラ行くと楽しいかもしれん。


 俺はさっそく喫茶店に行きミオを誘ってみる。


「私も行っていいんですか?」

「うん! ぜひ!」

「その顔が少し引っかかりますが……カラスさんたちもいますし、まあ、いいでしょう」

「いやっほー!」


 ミオは腰に手を当てやれやれといった様子だったが、口元が綻んでるぞお。

ちょろいん。


 喜び勇んだ俺だったが、バイトの休暇を取得出来たのは翌月だった……待ち遠しいぜえ!


 あ、就活もしないと……。

 待っていろお。面接!


 と意気込んだら、カラスに頭を突かれた。

 痛い、痛いってえええ。


※しばらくカラス先輩の代わりに、フリーター青木を更新いたします。

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カラス先輩とハトくんのアンニュイな日常 うみ @Umi12345

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