第43話 侵入
「どうもー、ハトです。僕たちは民家の前に来てます」
「だから誰に向かって……ってなんだかこのやり取りも久しぶりだな」
ハトの言葉通り、カラスとハトはとあるアパートの前に来ている。アパートは二階建てで建築されてからそれなりに年数が経過しているように見受けられる。元は真っ白だったろう漆喰の壁が薄汚れ、二階へ登る鉄製の階段はところどころ塗装が剥げ錆が浮いていた。
彼らがまず向かったのは野ざらしになっている郵便受けである。この郵便受けは住人全てのものが集積されており、居住者はここで郵便物を取っていくのだ。
「溜まってないな」
「そうですね」
「まあ、ここに食べ物があることはまず無い。進もう。ハト」
「うっす!」
二羽は気にした様子もなく、ぐあぐあと嫌らしい笑い声をあげた。
次に彼らが向かったのは二階のベランダになる。
「全く、人間ってやつは人間の侵入しか考えていないんだな」
「そうっすね!」
窓はカラスくらいなら通過できるほど開いている。おそらく窓には防犯ストッパーが取り付けられており、人間が押しても開かなくなっているはずだ。
窓の奥は網戸が閉じられており、カラスとハトの侵入を阻んではいる。
しかし、カラスは知っていた。
古くなった網戸の枠と網の継ぎ目は非常に脆くなっているということを。
「アタックするっす!」
ハトは宣言通り、舞い上がると網戸へ体ごとダイレクトアタックを敢行した。
すると、網戸はあっさり枠から網が外れ、カラスらが入るに充分な隙間が開く。
「くああ!」
「くええ!」
一声鳴いて、いよいよ中へ侵入する二羽。もはや彼らをとめる障害は何も無い。
中は一部屋しかなく、廊下にキッチンがあるだけのシンプルなものだった。
部屋にはソファーベッドとパソコンがあり、無造作に本や服が散らばっている。
「先輩ー、本って何が面白いんでしょうね?」
「さあなー。人間のことはよく分からんな」
カラスは人間の女が裸で微笑む本に目をやり、興味無さそうに呟く。
しかし、よくもまあおんなじような本ばかり集めたもんだな……カラスはこの部屋の人間へ向けため息を吐いた。
食べ物は……部屋には無いか。
なら台所を見てみよう。
二羽は台所に進むが、食べ物は置いていなかった。
「うーん、冷蔵庫の中っすかねー」
「そうかもなー。まあ、せっかく来たし荒らしてから帰るか?」
「先輩、その顔……とても邪悪です」
「くああ!」
「くええ!」
二羽がくえくえと鳴いてると音も立てずに奴がやって来る。
「どいてろ、開けてやる」
奴は前足で冷蔵庫の扉をペシッと叩く。すると、扉が開いたではないか!
喜び勇んで彼らは中を物色し、ソーセージやら食パンやらそれぞれの好物を引っ張り出した。
部屋にそれらを持ち込んで食い散らかすと、カラスはティッシュの箱からティッシュを次々に取り出し床に巻いていく。
満足し、ベッドでうつらうつらして来た時、部屋の住人が帰宅する。
「なんじゃこらー! ってお前ら勝手に入って来るなよ! 防犯対策がまるで役に立ってねえ!」
「おう、青木。ソーセージを追加で頼む」
「しれっと要求してるんじゃねえ!」
部屋に青木の絶叫がこだまするのだった。
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