第12話 砂

――花粉の季節が過ぎ、途端に暖かくなってきたこの頃、皆さんいかにお過ごしでしょうか?

 ハトより――

 

「ハト、何をやってんだ?」

「先輩に手紙でも書こうと思って頭の中で何を書くのか考えていたんですよ!」

「でも、ハト……どうやって書くんだ? 鉛筆を掴めないだろ」

「そ、そうでした! くああ」

「全く……そういや、ハト。お前、体洗っているか?」

「そうっすねえ。二週間くらい前? に洗いましたよ」

「マジかよ! 放っておくと寄生虫にぐあぐあされるぞ」

「マジっすか! そいつはくええですね」

「じゃあ、ま。体を洗いに行くとしますか」

「はい!」


 カラスとハトはいつもの駅舎の屋根から飛び立つと、公園へと向かう。

 そして、彼らは公園にある噴水の傍にある木の枝へ降り立つ。

 

「よし、奴も人間もいない。今がチャンスだぞ、ハト」


 左右を入念に見渡したカラスがハトを噴水へ向かうように促すが、ハトはくるっぽっぽと首を振る。

 

「先輩、水浴びより砂浴びですよ。僕らハトは」

「そ、そうなのか……。じゃあ砂場にいくか?」

「はい!」


 そんなこんなで彼らは噴水を後にして、砂場へと向かう。

 砂場と言っても、幼児が遊ぶようないわゆる「お砂場」ではなく、草が生えていない舗装していない地面のことである。

 とはいえ、踏み固められて硬くなった土ではなく嘴でつつけば簡単に掘り返せるくらい柔らかい。だから、「砂場」と彼らは呼んでいるいるというわけだ。

 

 だが、ここには先客がいた。

 先日会った、三羽のスズメたちである。以前出会った時と同じようにカラスとハトは彼ら三羽を気にした様子もなく傍に降り立つ。

 

「じゃあ、ここで埋まるがいいハト」

「はいっす!」


 ハトが脚で土を蹴り蹴りしていると、土に埋まり首だけを出したスズメが威嚇するように囀ってくる。


「おうおう、お前ら、ここは俺たちのシマだと知っての事か?」

「先輩は入らないんですか?」

「いや、俺は水浴びが好きなんだ」

「そうっすかー」

「おいおい、無視するんじゃねえ!」


 スズメの声を完全にスルーしたハトとカラス。これにはスズメも黙っているわけにはいかなかった。


「俺たち三連星を舐めたらどうなるか教育してやらねばな」


 リーダー格のスズメが残りの二羽へ目配せをするが、彼らもまた土に埋まり首だけを出した姿である。

 「おう」と二羽は応えるものの、土から出てくる様子が無い。もちろん、リーダー格も同様だった。

 

「向かってくるのか、そうじゃないのかはっきりしろよ!」


 スズメたちの様子に無視を決め込むつもりだったカラスもつい突っ込みを入れてしまう。

 

「てやんでえ、砂に埋まることの方が大事なんでえ。お前らの相手は後だ」

「先輩ー! 埋まるのが面倒なんでここで転がりますね」

「どんだけずぼらなんだよ……ハト」


 全員がてんでばらばらに会話してよくわからない空間になってきた……。しかし、それを切り裂くかのように恐ろしい声が彼ら全員の耳に入る。

 

――にゃーん


「ハト、やべえ! 逃げるぞ。だから砂場は嫌なんだ」

「はい! 先輩!」


 カラスとハトが慌てて飛び立つと、スズメたちも砂から飛び出し空へと逃げ去っていく。

 そう、砂場とは奴のトイレなのだから、彼が来て当然なのだった……。

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