第18話 畑
都内某所のいつもの駅舎屋根でカラスはくああとあくびをする。あくせく働きに向かう人間どもを眺め自身は惰眠をむさぼる至福の時だ。
ちなみに……そうじゃなくっていつもダラダラしているじゃないかとか突っ込む者は存在しない。
再びくあああとあくびをした頃、ハトが舞い降りてくる。
「先輩ー、暇っすか?」
「暇じゃないことはないな」
「さすが先輩っす! パねえっす!」
「くああ」
「くええ」
いつものやりとりをかわすカラスとハト。
しかし、今日は珍しくハトから提案をしてきた。
「先輩、畑で種をまいていることを知ってます?」
「ん、そうなのか?」
「もぐもぐくああしに行きません?」
「んー、まあ、行くか」
「はいっす!」
ハトは鳥頭ながら、一つのことを覚えていたのだ。それは……「人間が種をまけばカラスがほじくる」というフレーズだった。
きっと先輩は種が好きなんだと思って三歩進んだら忘れてしまうハトだったが、二歩進むたびにブツブツと「畑と種」と呪文のように唱えながらここまできたのだ。
でもでも、先輩の反応はあまりよろしくない……ま、いいかとすぐ気持ちを切り替えるハトであった。
「ハト、行かないのか?」
「ん? 先輩、何するんでしたっけ?」
「畑に行くんだろ?」
「そうでしたそうでした」
相変わらずのハトである。これが平常運転……。
カラスはいつものことなのでもう慣れっこだ。それ故、彼はまるで気にした様子もなくくああと鳴いてから飛び立つ。
そして、ハトもそれに続いたのだった。何故、カラスが先導しているんだとか突っ込んではいけない。決して。
◆◆◆
「そんなわけでやってまいりました。近くの畑です!」
「だから、誰に言ってんだ……あれ、先客がいるじゃないか」
ハトの言う通り、ここは畑は畑だった。ただ、規模が小さい。というのは、この畑……都内によくある市民のみなさんの園芸用農園だからなのだ。
そんな狭い地域ではあったが、ちょうど人間たちが種まきを終えた後らしく、目ざといスズメが三羽さっそくツンツンと土を突いている。
あれって……三連星じゃねえか。ほんとよく会うよな……最近。あいつらにあうといつもロクな目にあっていないカラスはもう帰ろうかなと首を回す。
「先輩、突かないんですか?」
ハトは不思議そうな顔でくるっぽーと首を傾ける。
「あ、いや、まあ」
言いよどんでいたカラスの横にいつのまにか三連星がちゅんちゅんと鳴きながら寄ってきていた。
「おいおい、カラス」
三連星のリーダーである緑色のマーカーがついたスズメが相変わらずの尊大な態度でさえずる。
「何だ? 邪魔するつもりはないから突いておけよ」
「……あの時の礼だ。持ってけ」
恥ずかしいのかプイと顔を逸らす三連星。彼らの足元には掘り起こして集めたのだろう種と地中に住む虫の姿が見える。
「先輩! さすがっす! こいつらにも尊敬されてるんすね!」
「あ、いや、うん、ええと。俺さ……」
い、言えない。カラスはどうすべきか迷う。その結果、ばさばさーっと羽ばたきながら捨て台詞を残すことにした。
「お前らが採った分だろ。お前らが食べるといい。じゃあな!」
飛び立つカラスへキラキラした目を向けながらハトは呟く。
「先輩、マジカッコいいっす!!」
いや、俺さあ、わざわざ畑を掘り返すことなんてしないんだよね……。ほら、分かるだろ? 楽な方、楽な方に進むんだって生活ってやつは。
ハトだって自然の中より駅前の広場を選ぶように、俺だってごみあさりの方がいいんだ。
虫とかもうくああですよ。くああ。
カラスは心の中で「すまんな」と謝罪しつつも、振り返ることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます