第31話 特別編 コンビニ

 最近、ごみ捨てに行くとたまにやって来るカラスが面倒で仕方がない。いや、家庭ごみじゃなくて……俺はコンビニでバイトをしているんだ。

 俺、休日はアンティーク喫茶店でひと時を過ごすだけが癒しのしがない男なのさ。ただいま絶賛就活中なんだけどな!

 

 まあ、それはともかく、カラスだよ、カラス。最初はまだマシだった。俺がゴミを捨てた後にビニール袋を破って中身をまき散らす程度だった。いや、これだけでも随分迷惑なわけだけどさ。

 現在起こっている事象に比べればまだマシだったと言えるからとんでもない。

 憂鬱だが、ゴミを捨てる時間だ。

 

「ごみ捨て行ってきますー」


 俺はバイト仲間のオネエさんへそう告げるといそいそとゴミ袋を両手に持ちコンビニの裏手へ回る。

 

 そこには、真っ黒な一羽のカラスがふてぶてしく待ち構えていた。

 やっぱりいるのかよ! こいつ……。

 

 カラスの奴は俺の姿が目に入ると、ふわりと飛び立ち飛行しながら両手に持つゴミ袋を物色しやがる。

 ここまではまだいい……。

 

 痛い! 痛いって!

 

 そうなのだ。こいつ、気に入る食べ物が入っていなかったら俺の頭に乗っかって思いっきり突っつくんだよ!

 手を出してこいつを払い落そうとしたら、ヒラリヒラリとかわされて今度は足で蹴ってきやがるんだ。

 

「ま、待て、俺が捨てるものを選んでいるわけじゃないだろ!」


 思わずカラスへ苦言を呈するが、もちろんカラスに日本語は通じない。

 ところが――。


「肉だ、肉を持ってこいって言ってるだろ! バナナでもいいぞ」


 空耳だろうか、声が聞こえる。


「え?」

「だから、持ってこいって」

「バナナ?」

「肉でもいい。え?」

「ええ?

「ちょ?」

「ぬあああ」

「くええ!」


 カラスが、カラスが喋ったあああ!

 気のせいだと思いたい。しかし、カラスの方もとんでもなく動揺しているようで言葉が通じているとハッキリと分かる。

 

「話が通じてる?」

「お前、俺の言葉が分かるのか?」


 顔を見合わせる俺とカラス。

 やっぱり通じてるよね? ま、まさか……。

 俺の知らない内に「逝った」のか?いや、俺は一切「設定」はしていないぞ。

 現実なのか、そうではないのか分からん……。 


「ミオ、戻る、戻るよ!」


 決め台詞を呟いてみるが、まるで反応がない。

 なんだ、なんなんだこれ。

 

「まあ、細かいことはいい。食べ物を持ってこい、人間」


 偉そうにカラスがのたまう。この適応力……このカラス只者じゃあねえな。


「おい、人間。俺には魚を持ってこい」

「うおお」


 今度は何だよと思い、振り返ると……やったら目つきの鋭い猫が喋ってるじゃねえか!

 音も立てずに現れたもんだから、猫がいたことに気がつかなかったぜ……。


「カラス、そしてそこの猫。俺は今バイト中なんだ。お前らに付き合ってる暇は……い、痛いって!おいいい!わ、分かった。分かったからちょっと待って」


 カラスと猫の攻撃が地味に堪えた俺は、つい奴らへ食べ物を持ってくる約束をしてしまった。

 奴らは勝ち誇ったように、ぐあぐあしてるじゃねえか。なんだよ、ぐあぐあって。アヒルかよ、お前ら。


 だ、だから痛いって!

 何で考えてることが分かるんだよおお。

 早く持ってこいって?分かったから。


 すごすごとコンビニに戻った俺は、仕方なく本当に仕方なく、バナナと鯖を購入したのだった。


 休憩をもらってコンビニ裏に行くと、奴らは偉そうに首を回し俺をくああと威嚇してきやがる。


「ほら、これでいいんだろ!」

「おう」

「よくやった。人間」


 だから、何でこんな偉そうなんだよ!

 まるで王様が臣下に向け褒めるような態度を向けるカラスと猫。


 こ、こいつらあ!

 い、痛い! 分かったから、読むなって俺の心の中を。


「もういいか? 俺はバイトに戻るぞ」

「行っていいぞ」


 どこのヤンキーだよ、そのセリフ。

 俺は納得いかないまでも夕方までバイトをする。


 あー、終わった終わった。

 明日は休みだ!ヒャッホーウ。


 両手を伸ばし思いっきり伸びをする俺。

 テンションが上がってきたー!明日は仕事の面接もないし、喫茶店に行くか。


「おい、人間」


 ご機嫌な俺のテンションが一気に下がる。

 こいつは昼間会った喋るカラスだ。


「な、何だよ」

「お礼だ。俺のとっておきだぞ。じゃあな」


 横柄な態度を崩さず、カラスは足に掴んでいた何かを俺の手のひらに落とす。


 きらりと光るそれ。

 そういや、カラスって光り物が好きだって聞く。

 でもなあ……これは使う、使うけど……わざわざ持ってこなくていい!


 ん?

 何だったのかって?


 一円玉だった。


 はあー帰ろっと。

 俺はトボトボと家路に向かうのであった。


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