第16話 蛇とハト
あのエスカレーター事件があって以来、カラスは自分と一緒にいない時ハトが何をしているのか聞かないことにしている。
もし、彼が話をしてきた時には……くええと言って誤魔化す日々だ。
しかしあいつも変わった奴だよなあとカラスは思う。ハトってのは同種で群れていることが殆どだ。カラスはそうでも無いんだが……。
最近、あいつ以外のハトを観察していると、あいつは別に特別変わった奴じゃあないんじゃないかとカラスは考えを改めるか迷っている。
だってほら……駅舎の屋根見えるハトの群れは、人間が接触しそうなほどの距離で歩いているのに飛んで逃げるどころか一歩も動かず首をせわしなく動かすばかり。
あれは、必死で食べ物をあさっているんだろうが……無防備すぎる。
まあいい、朝はハトと一緒に人間たちの慌ただしいラッシュ時間をくあくあ鳴きながら一緒に見ていたが、今ハトの奴はいない。
俺もそろそろお昼にするかあ……カラスはくああとあくびをした後、その場を後にする。
◆◆◆
事件は公園にある小さな池の上空を飛んでいる時に起こった。
池のほとりで何かと絡んでくるスズメ三連星の奴らがカラスの目に入る。なんと奴らのうち一羽がアオダイショウ(蛇の一種)に威嚇され追い詰められているじゃあないか。
仲間のスズメたちがアオダイショウの左右から囀っているが、まるで効果を示していない。
しゃあねえ奴らだなあ。とカラスがくああと様子を眺めていると、そこへハトがやって来たではないか。
ハトはアオダイショウとスズメの間にさっそうと降り立つと、アオダイショウへ向けて威勢よくくええええ!と虚勢をはる。
……全く効果がねえじゃねえか……カラスはやれやれと肩を竦める。アオダイショウにはいくら威嚇しても無駄なんだよ……。
「スズメくん、今の内に逃げるっす!」
ハトはカッコよく決めセリフを吐く。
しかしスズメたちの反応はハトの予想に反するものだった。
「俺たちだけで逃げるわけにゃあいかねえだろ。兄弟」
「そうさ、アオダイショウの奴を打ち負かす」
「おう!」
ハトの好意をまるでわかっちゃいないスズメたちはハトへ加勢することに躍起になっている。
「何を言ってるんですか! ここは僕が! いつも先輩に助けてもらっているんです。たまには僕もやらないと……」
ハトの奴……。カラスは少しだけ感動するが、彼らの会話なんぞ聞いちゃいないアオダイショウはハトへ首を向け飛び掛かった。
危ない! そう思ったカラスは勝手に体が動き出す。
「せ、先輩! やっぱり先輩はパねえっす!」
上空から勢いをつけて飛び込んだカラスの嘴にはアオダイショウがくわえられていた。
ちょうどアオダイショウの頭のすぐ後ろを掴んだ形になっているから、アオダイショウは何も抵抗ができずにいる。
カラスは何も答えず(口が開いたら逃げちゃうものね)、池の中央まで飛ぶとそこへアオダイショウを落とす。
全く、ちょっとは気を付けてくれよな……戻るのが気恥ずかしくなったカラスはそのままいつもの駅舎へ向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます