第33話 綿

 ハトのやつが例のぬいぐるみがいなくなったとか言うので、ドレドレと例の屋敷へ足を運ぶカラス。

 確かにあの出窓にはゼンマイ仕掛けのぬいぐるみの姿はない。ひょっとしたら、と思ったカラスは屋敷の周辺をグルグルと飛んでみる。


 お、あったあった。

 カラスの探していた場所はズバリゴミ捨て場である。

 華麗にゴミ捨て場に舞い降りたカラスは、他にライバルがいないか首を回して見渡しくああと威嚇する声をあげた。


 だが、それがいけなかった。


「カラスか……何を狩るんだ?」

「ぐああ!」


 ゆらりという表現がピタリとハマる奴が、鋭い眼光をカラスに向けながら顔を出す。

 「い、いや、そんな気ないから!」と言おうとするカラスだったが、ある物に気が付き驚愕で嘴をパカリを開く。


「そ、それ……」

「あー、これか。これは食べ物ではない」


 奴はつまらなそうに足元にある何かをちょいちょいと前脚の肉球で押す。

 あ、あれって……例のぬいぐるみだよな。

 薄汚れて純白だった羽毛の色が灰色になってはいるが、確かにそれはゼンマイ仕掛けのハトのぬいぐるみだった。


 し、しかし――

――首が半ば程で千切れ、中から綿が見えとるがな!


 どうする? これをハトに知らせるか、このぬいぐるみは旅に出たとでも彼に言うか……あんまりでもない出来事にカラスは少しだけ悩む。


「カラス、俺がやったわけじゃあないからな」

「まあ、そうだろうな……」


 カラスは奴が遊具に余り興味が無いことを知っている。彼の「運動」は生き物との戯れであり、無機物には行かない。


「欲しいのか?これ?」

「あー、いや、うん。そうだな……」


 カラスはぐわしと脚でぬいぐるみを掴むと、ゴミ袋の中にそれを放り込んだ。

 よしよしと一仕事終えたような顔を浮かべ、カラスはぐあぐあと鳴く。

 満足したカラスはいつもの駅舎へ戻るのだった。


◆◆◆


「そんなわけで、やって参りました。いつもの駅舎です」

「い、いや、ハト。お前は最初からここに居ただろ?」


 カラスの突っ込みを気にした様子もなく、ハトはくるっぽーと首を前後に揺する。

そう、カラスがいるのはいつもの駅舎。既にハトがいたものだから、カラスはビクッとなってしまった。

 そして、まだ、彼に、ぬいぐるみのことは言っていない。


「ハト、例の……」

「もういいんすよ。先輩!」

「そ、そうか……」

「新しいくぁいこちゃんを見つけたんすよ。見に行きませんか?」

「お、おう」

「くああ!」

「くええ!」


 二羽はお互いに顔を見合わせ鳴くのだった。

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