第34話 緑

 都内某所のいつもの駅舎で、カラスはちょうどお昼ご飯を食べていた。今日のご飯は三色団子。ピンク、白、緑が芸術的に連なったあれである。

 グルメなカラスも唸らせる極上の昼食――それが団子なのだ。一つだけ残念なことがあるとすれば、それぞれ色が違うのに味が同じだということくらいだろうか。

 

 うーん、マンダム。カラスはくあくあと満足な唸り声をあげる。


「先輩ー。お昼っすかー」

「おう、ハトも食うか?」

「いえー、僕は今日、蝉の抜け殻をたらふく食べてきましたんで」

「そうか」

「そうっす!」


 しばらく団子を食べ続けるカラス。一方、そんなカラスの様子をくるっぽーと首を前後に揺すって見守るハト。


「そういえば、先輩」

「ん?」


 カラスが最後の残った緑色の団子をつつこうとした時、思い出したようにハトがボソリと呟く。


「三連星って三羽でしたよね」

「ああ、そうだな」

「くええ!」

「くああ!」

「見に行きます?」

「そうだな。たまには奴らの顔でも見に行くか」


 カラスが団子を完食した後、二羽はえっちらおっちらと近くの公園へと向かう。


◆◆◆


「そんなわけで、公園の芝生に来ております」

「芝生というと聞こえはよいが、単に雑草を刈り取っただけの広場だな」


 くあくあと余計なことにだけは拘るカラスが自慢気に語る。

 ここは先日草が刈り取られたばかりで、地中から出てきた虫の宝庫なのだ。沢山のハトやスズメがのんびりと既に枯れて茶色くなった草の絨毯へ嘴を差し込んでいる。


 さてと、いるかなー奴ら。カラスが広場を空から見下ろすと、いたいた。茶色の絨毯に緑が一羽。その左右には茶色のスズメたち。

 三連星だ。


「よお、お前ら、この前は行けなくてすまなかったな」


 三連星代表の緑が尊大に胸を逸らし謝罪する。


「いや、いいって。今の今までそんなこと忘れてたくらいだしな」

「そうか、それは良かった。お前らも食べに来たのか?」

「いや」


 虫は好きじゃないとこの前言ったじゃねえかと喉元までそんな言葉が出かかるが、すぐに忘れられるから無駄だと悟るカラス。


「先輩ー。三連星て代表だけ緑色なんすね」


 ハトが不躾ぶしつけにそんなことをのたまいやがった。


「バ、バカ!お前、言っちゃあいけないことってあるんだぞ!」


 ぐあぐあと焦るカラスに対し、ハトは涼しい買おうのまんまはて?と首を傾ける。


「いいんだ、カラス。気を使ってくれてありがとうな」


 三連星の緑は肩をすくめ、カラスへ礼を述べる。


「そ、そうか……今夜は飲むか?」

「俺たちは酒が飲めないだろ……」


 カラスの誘いに三連星緑はくあと力なく鳴く。その声には哀愁が漂っていたのだった。


 緑はスズメじゃないよな。なんて事、とっくにみんな気がついていたのだ。彼には彼の事情があると感じ取ったハト以外はこれまで、そこには触れぬようにしていただけのこと……。


「ハト、戻るか」

「はい!」


 二羽は公園を後にした。

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