第35話 特別編その2 トンビと

 おかしい。これまで履歴書で落とされることは半分くらいだった。しかし、今回の十枚は全滅。つまり、書類審査で全てお祈りされてしまったのだ。返事が来た企業が半分も無いという……この上なく雑な対応をされてしまった……。


 何故だ。以前より書く情報を増やしたと言うのに、結果は散々たるものになってしまう。

 やはり、付け足した内容がまずかったとしか考えられない。特技へ素直に書いたんだけどなぁ。


 え? 何を書いたんだって?


――カラスと目つきの悪い猫とお話しできます。


 と書いたんだが。

 仕方ない、特技の欄は未記載にするとしようか。その代わり趣味でも書いとこう。

趣味は週末に旅行とでもしておくか……。


 そんなこんなで面接の予定が無い。正確には全てお断りされたので、予定を入れようにも入らなかったというわけだ。

 まあ、それはいい。

 俺は気分転換に海辺の公園へ来ている。特に海に興味があるわけでは無いんだが、海辺のホテルで気になるあの子とおっすおっすすることを妄想し、ニヤニヤすることくらいできるだろうと思ってね。


 そんなことせずに誘えよと思うかもしれない。

 それはダメだ。こんな俺でも約束ごとはちゃんと遵守するつもりでいるのだから。

就職が決まったら、気になるあの子とのむふふん作戦を実施する。上手くいくとは言ってはいない。下手したら逆上されて、逝ってしまうかもしれんが……まさか、そこまではされんだろ。さ、されないよね?


 いかん、思考が変な方向にズレてきた。きっと疲れてるんだよ、俺。

 そこら辺にあったベンチに腰掛け、お茶を飲もうとペットボトルの蓋を華麗に捻った時、なんかきた。


「お茶だけかよ。しけたやつだな」


 ぬおおお、あいつら以外の鳥が喋ったー!


「お、お前も喋るのかよ。ええと、タカ?かな」

「に、人間が俺の言葉を。俺のことはトンビと言え」

「ト、トンビね……分かった」


 どっちでもいいやもう。鳥と話ができることは俺の妄想なのか本当の出来事なのか分からん。世の中は思った以上に複雑怪奇なのだよ。ふふん。

 なんて、俺が悟りを開こうとしていたらトンビが邪魔をしてくる。


「おい、人間。あいつらって誰だ?」


 だから、何で俺の考えている事が分かるんだよ!


「カラスと猫だよ」

「あいつか、多分、あいつだろうな」


 トンビはうんうんと納得したように頷く。

 いやあ、あのカラス、強欲過ぎる。トンビよ、なんとかしてくれないものか。


「あいつら、なにかとねだるんだが」

「そうかそうか、俺もカラスに缶詰を届けてるんだぜ!全く、餌をいちいち持って行ってやってる俺の苦労も分かって欲しいぜ」

「そ、そうなのか。お前も苦労してるんだな……」


 急にトンビへ親近感が湧いてきた。そういやこいつ、食べ物をくれくれしないしな。


「そんなわけで、缶詰を探してくるぜ。じゃあな、人間。次はおにぎりでも食べとけ。華麗な俺の舞を見せてやるから」


 人間だったらキラーンと歯を光らせて去っていくところだが、トンビは嘴を左右に振り颯爽と飛び上がって行った。


 俺は後からカラスに聞きたく無いことを聞いてしまうわけだが……トンビの缶詰……彼には知らせないでおこう。

 俺はそう心に誓うのだった。

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